
リスキリング支援、公務員は蚊帳の外。
取らんと欲するものは、まず与えよ。
政府のリスキリングに対する指針案として、これまで2ヶ月間の待機期間が生じていた失業給付を、学び直しを条件に7日間に短縮することが、5/1 6にまとまった。
雇用の流動性を高めることが狙いだが、その方針を固めている役人、すなわち公務員は、そもそも失業しない前提で雇用保険に加入しておらず、失業手当はおろか、教育訓練給付金すら対象外と、他人事のように学び直しの枠組みだけ整備して、民間人に丸投げしている構図に見えて印象が悪い。
年功序列で基本的に失業することもなく、多くは採用に際して30歳〜35歳程度の年齢制限を設け、自発的に失業した場合の手当も、学び直しの支援もないなら、一度公務員に就いたら、定年までしがみつこうと考えるのが人の性だろう。
雇用保険の失業手当がない代わりに、退職金が民間企業よりも高水準に設定されているらしいが、定年退職者よりも、自発的失業者の方が圧倒的に少ないだろうから、退職金をかさ増しをしたいだけの建前と捉えられても致し方ない。
そんな雇用流動性が皆無で、中途採用などで民間企業経験者を積極的に取り入れる様子もなく、外部の人材を寄せ付けない仕組みにすれば、組織に浄化作用などなくなり、腐敗していくのは想像に難くない。
そんな役人が雇用の流動性を高めようと、自分たちには関係のない雇用保険の仕組みを弄っているのだから、皮肉としか言いようがない。取らんと欲するものは、まず与えよ。
日本を代表する自動車メーカーと、経団連が事実上の終身雇用ギブアップ宣言をして、雇用をメンバーシップ型から、ジョブ型に移行したい動きがあるのだから、まずは自分たちから終身雇用を保障せず、能力に応じた賃金を支払う、ジョブ型雇用の見本市程度は示していただきたいものである。
自分たちはやらない雇用の流動化や学び直しを、安全圏で枠組みだけ変えて、民間人にやらせようとするのは、ちゃんちゃらおかしい。
学び直す余裕も希望もない日本社会?
「自分の周りの5人を平均すると自分になる」は、起業家ジム・ローン氏の名言である。私は現実世界でも画面上の仮想空間でも、社会に出てからも学ぶのが、さも当たり前かのように錯覚する環境に身を置いていることもあり、社会の少数派であることを忘れる。
しかし、社会で周囲を見まわすと、学び直しはおろか、活字を読んでいる人すら超マイノリティで、すきま時間には猫も杓子もスマホ、スマホ。
GAFAを筆頭とする米国メガテック企業が創り上げた、画面の中の世界に夢中になっており、気付かぬ間にドーパミン中毒となり依存している。
元鉄道乗務員の性で、客室内の様子を見る癖が抜けないが、体感的にデジタルデバイスの操作か、寝ている人が圧倒多数である。
私が物心ついた幼少の、スマホなどない時代の列車内で見てきた、新聞や本、中吊り広告を読んでは、偶に他人と目があう光景など跡形もない。本を読んでいる人そのものがレアキャラで、タブレット端末で新聞や本を読んでいる可能性も否めないが、体感では乗客の1割にも満たないだろう。
根性論大好き人間であれば、最近の若い奴は学び直す気もないなんてけしからん的な、そう言ってるお前は何なんだと、筋違いにも程がある根性論を展開するかも知れない。
しかし個人的には、若年層がある種のスマホ漬けとなってしまうのは、やる気云々ではなく、長期的なビジョンを思い描けるだけの、余裕のなさであったり、学び直しに対する希望のなさと言った、社会の構造上、起こるべくして起きている部分も大きいのではないかと考える。
学び直しを支援する以前に必要な余裕。
当たり前ではあるが、本腰を入れて学び直そうと思うと、資格取得を目標とすることが多い。「〇〇に詳しいです」と言うよりも、客観的に成果が認められた記録になる「資格」があった方が、何かと信憑性が高いからだ。
そんな資格は、何も民間資格、国家資格に留まらず、学士、修士、博士と多岐に渡り、世間で広く認められているような資格ほど、取得するのにそれなりの時間、費用、労力を要する。
その意味ではある種、道楽に通じる部分があり、一定程度の余裕は必須である。しかし、ロスジェネ以降の失われた30年によって、大卒でも食えない社会となったことで、若年層ほど肝心の余裕がない。
時間と労力は賃金労働で消耗し切り、重い税金と社会保険料のせいで、生活保護に毛が生えたレベルの安月給も、半分以上が奨学金の返済と家賃で消えていく。
金融広報中央委員会の調査で、20代単身者の保有資産額(中央値)が8万円なんて統計もあるくらいだから、現代の若者はまぁ貧乏である。
学び直すために必要な時間、費用、労力。これら全てがまるで足りない。だから休日に家から出ず、お金も掛からないか、廃課金厨でなければ課金の程度が知れているスマホが娯楽となり、限られた時間の中で膨大なコンテンツを消化するために倍速再生する。
バブルを経験している世代からすると、異常行動に思われるこれらは、社会の構造と密接に関係している。そんな目の前の生活で精一杯な状況では、短期的な今、この瞬間が絶対的であり、長期目線でプラスになる、リンゴの木を植えるような所まで考えが及ばなくて当然である。
それに加えて、デジタルネイティブ故に、転職によって待遇が良くなった人の割合が、諸外国と比べると決して高くない現実も、調べれば答えが直ぐに出てくる。
だから過度に夢を見ず、現実的に物事を考えた結果、自己投資に見合うだけのリターンが得られないと判断。それ故の消極的「学ばない」を選択をしている可能性も否定できない。
学び直しを支援する以前に、潜在的に学び直したい人が学び直せるだけの、時間、お金、労力に余裕のある社会を実現しなければ、後世に愚策だったと言われかねない。
いいなと思ったら応援しよう!
