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宇都宮LRTが東武線に乗り入れる可能性について、元業界人が考察


東武馬車道通りに軌道を敷き、東武宇都宮線に乗り入れたい

 全線新設する形で開業した次世代型路面電車として話題の宇都宮LRTが、2030年代に宇都宮駅西側に延伸する方向で話がまとまりつつある。

 その中でも市長選に立候補した毛塚氏が住民との懇談会で、見出しの通り具体的なルートを示す形での踏み込んだ発言をしたり、県知事も東武線接続に意欲を示すなど、LRTを軸にした再開発への熱を感じる。

 そもそも宇都宮LRTは、他線との直通運転を見据えて軌間は東武やJRと同じ1067mmを採用しており、東武鉄道が出資していることからも、将来的には、かつての名鉄岐阜市内線や福井鉄道のような形態で、LRV(路面電車用の低床車両)が、東武線に乗り入れる実現可能性はそれなりに高いと見ている。

 実際、納入された車両(HU300形)はアドトランツが製造するインチェントロがベースとなっており、福井鉄道F1000形電車の姉妹車のような立ち位置で、設計最高時速70キロと東部宇都宮線の最高時速90キロには届かないが、車両性能に合わせてダイヤを調整すれば良いため、乗り入れ上の障壁にはなり得ない。

 また、新規路線である事を生かして、極力鉄道車両寄りの寸法になるように車両限界、建築限界を定めたものと思われ、車体幅は2650mmと路面電車の中では大柄で、東武20400型電車より205mm短いだけと、プラットホームとの隙間が鉄道車両+10cm程度で済む。

 そのため、広島電鉄宮島線のように、高床(東武)車用のホームと別で、低床車(LRV)用のホームを設ければ乗降の問題はなさそうである。

 東武宇都宮線は元々貨物(砕石)輸送を行っていた関係で、単線ではあるものの交換設備の有効長が8両分程度取られていることからも、信号設備などの移設を行えば、30m〜40m程度の低床車用ホームと、高床車用のホームとのスロープ程度を設けるのに際して、新規で用地を取得する必要がないため、現実味がある。

障壁は架線電圧と東武宇都宮百貨店

 問題となるのは架線電圧の違いだが、廃止された名鉄岐阜市内線(路面電車、直流600V)の複電圧車が、そのまま各務原線(直流1500V)に乗り入れていたことからも、屋根上に変圧器が搭載できれば解決するものと思われる。

 とはいえ、元業界人目線では、これが案外ネックとなりそうで、LRVの低床という仕様上、通常の鉄道車両なら床下機器となる主制御装置、補助電源装置、蓄電池などが、すべて屋根上に搭載されている。

 それにより、全長29.5mと軌道法の上限ギリギリの車体長でありながら、画像を見る限りでは、集電装置の近くに変圧器を搭載できそうな空間はなく、パワーエレクトロニクスの進歩で小型化でもしない限り、大規模な改修は避けられないだろう。(既に準備工事が完了しているなら話は別だが…)

参考:交直両用電車の切換器

 他にも線路を繋げるためには、東武宇都宮駅&百貨店をLRTが通れる形で建て替えるなど、栃木県経済同友会が提言する「トチギの未来夢計画」に準じた大規模再開発が必須となる。

https://www.douyuukai.jp/pdf/report/report_201705_02_01.pdf

 とはいえ、東武鉄道の2023年度決算説明資料の中期経営計画欄(p.29)に「東武宇都宮駅周辺の開発検討」が盛り込まれていることからも、現時点での明言を避けているだけで、少なくとも乗り入れに対して否定的な立場ではないことが伺える。

https://www.tobu.co.jp/cms-pdf/explanatory_materials/20240513161809wrQs8Y9m_ySPfo3Gmdcr7w.pdf

 余談だが東武宇都宮百貨店は、栃木県経済同友会に加入していることからも、地域経済の発展という同じ目標に向かうための再開発なら、リニアの静岡工区と異なり、利害関係の調整に難航する事態は避けられる可能性が高い。

乗り入れが実現しても、LRVの輸送力に課題?

 これらの障壁を全てクリアして、初めて宇都宮LRTの東武宇都宮線乗り入れが実現する訳だが、LRV(定員160名)と東武車(定員501名)とで輸送力の差が大きいことから、LRVでラッシュ時間帯の乗客を捌き切れるのか。増便で賄えるのかが新たな懸念材料となる可能性がある。

 LRTで使用されるHU300形は、現在は3車体だが将来的に中間車両を増結することを見越した設計となっており、平石車両基地の点検ピットも40m強取ってあることから、4車体化することで、定員が60名程度増えた220名弱まで増強できる可能性はある。

 しかし、軌道法の制約上、車体長を30m以内に抑えなければならないため、国交相の特認措置や法体系の規制緩和でも行わない限り、現状の3車体29.5mが限界となっている。

 ちなみに路面電車で全長が30mを超えた車両が、私の知る限り2例ほどあり、ひとつは広島電鉄5000形(通称GREEN MOVER)で、シーメンス社のコンビーノのモジュールの都合上、5車体連接で30.52m(5.84+7.4+4.04+7.4+5.84)となってしまうことから特認措置が取られている。

広島電鉄5000形

 もうひとつが京阪800系で、16.5m車体の4両編成で、全長66mの電車が併用軌道を走行しており、これは特例中の特例と言える。

 大津線系統は鉄道路線でありながら、歴史を辿ると路面電車として開業しているため、基本的に15m車体の2両編成で運行されていて、軌道法の全長30mが守られていた。

 しかし、97年に地下鉄東西線が開業することで、並行路線である京津線の三条-御陵間が廃止。残存する御陵-びわ湖浜大津間は、東西線に直通する計画となった。

 しかし、地下鉄線内に全長30mの路面電車が乗り入れるのは輸送力の点で都合が悪く、京津線三条-御陵間の廃止により、残存する併用軌道が末端の1区間のみとなったことから、ミニ地下鉄規格の車両がそのまま併用軌道に乗り入れる格好となった。

京阪800系

 宇都宮LRTも、上記のような特認を駆使して4車体40m級、定員220名弱に輸送力を増強することで、2編成(440名弱)で東武車1編成(501名)9割弱の輸送力となる。

 現在、東武宇都宮線はラッシュ時に毎時3本、日中は毎時2本となっていることから、これらを倍増したラッシュ時10分間隔、日中は15分間隔にできれば、輸送力はほぼ据え置きで利便性が向上し、富山港線のように沿線が活性化する可能性もある。

 幸い、全駅に交換設備を有しており、各駅間の所要時分が5分に満たないことからも、10分間隔で捌くことは不可能ではない。

 輸送力に不安が残るようであれば、ラッシュ時に限って、現行通り東武車が東武宇都宮止まりで運転し(東武側がLRVを用意しない限り、鉄道車両がLRTに乗り入れるのは、車両限界を鑑みると現実的ではないため)、東武宇都宮始発の宇都宮駅方面行きLRTをピストン輸送させ、日中のみ乗り入れる形態も考えられる。

 いずれにせよ、この先の日本社会は地方から人口減少が加速するため、大量輸送に適した鉄道路線は、過疎化でオーバースペックとなり、赤字を垂れ流す可能性が高い。

 これまでの価値観だと廃線か、第三セクターで行政に負担を押し付けるかの二択となっていたが、富山ライトレールに次いで、宇都宮LRTが東武線乗り入れで成功すると、沖縄LRTの新設に留まらず、廃線間際の郊外電車をLRTに転用する機運が醸成され、交通弱者に優しい社会と、コンパクトシティ化の双方が図れる未来があるかも知れない。


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