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人生にレールを敷く必要性はあるのか?

前進できなくなった時、脆さが露呈する。

 6月の台風2号の影響で線状降水帯が発生し、高知県某所の鉄道が土砂に乗り上げて脱線した。列車に乗客は居らず、怪我人が誰ひとり出ていないのが不幸中の幸いで、だからこそ話題として取り上げられる節はある。

 日本的メンバーシップ型雇用で、年功序列、終身雇用なサラリーマンの生涯を、レールの上の人生と鉄道に準えて表現されることがある。

 確かに決められたレールの上なら、ひたすら前に進むだけだから、いちいち人生について考える必要もなく、なぁなぁ、まぁまぁの横並び意識で定年まで過ごすことができそうな選択肢ではあるし、かつての私もそんな考えがあったから、工業高校を出て鉄道業界に進んだ。

 しかしリーマンショック辺りから薄々感じていたように、失われた10年、20年、30年で終身雇用など絵に描いた餅だし、バブル期のような好景気が再来する兆しは、今の日本社会に感じられない。

 つまり、サラリーマンとして走れるレールそのものが老朽化して、一部は機能不全に陥っている訳で、前に進めなくなるトラブルは付き物で、その時にレール上の人生の脆さが露呈する。

 大切なのは、それを理解した上で、避けられないアクシデントは誰にでも起き得るものと捉えた上で、仮に今走っているレールが駄目になった時でも、立ち往生せずに済む、常に代替手段を用意した人生設計が重要と言えるだろう。

苦労しても報われない日本社会。

 私は10代の終わりから鉄道業界に片足を突っ込み、あまりの漆黒さに最初に就いた組織に長居する気は微塵にもなかったものの、なんだかんだで業界を転々とするイメージが漠然とあったし、実際に同業他社に鞍替えしたことで待遇を改善させた。

 その意味では何もかもがイメージ通りの、文字通りレール上の人生だったのかも知れない。しかし土砂災害の如く、20代半ばで突如として身体が臨海突破。悲鳴をあげながら、たちまち脱線した。

 1ヶ月間の入院、手術によって、生活環境や価値観が変わったことで、皮肉にも職場のロッカーに、おびただしい量の漢方薬を備蓄していることへの異常さを、まざまざと実感したが後の祭りだった。

 身体はとっくの昔に限界ギリギリまで追い詰められていたにも関わらず、健康診断やかかりつけ医で見落とされ、体調不良を感じながらも職業柄、眠気を催す系の西洋薬は使えず、具合が悪い時に漢方で気休めしていた何よりの証拠だった。もうこのレールは走れないと直感した。

 とはいえ、今のレールが駄目だと感じた時に、みんながみんな都合よく別の路線に転線できる訳ではなく、スキルの溜まらない単純作業で生計を立てていた人ほど、後退せざるを得ない状況に陥り、一度後退してしまうと負のループから抜け出せなくなる可能性が、よそ者に排他的な日本社会は諸外国と比べると高い。

 そんな時に、エヴァンゲリオンのシンジ君が言い放った「嫌なことから逃げ出して、何が悪いんだよ!」の台詞が脳裏に浮かぶ。

 「逃げちゃだめだ」と念仏のように唱えながら潰れたり、再起不能になるくらいなら、何もかも捨てて逃げる方が遥かにマシだと思ってしまうのは、苦労したところで報われない現代の日本社会を表しているようだ。

Stay hungry, stay foolish

 そうして今、個人投資家という周囲が誰も走ったことのない道を進んでいる。無論、決められたレールなどない。

 旧帝大や有名私大に必死にならずとも入れる頭がある人であれば、高学歴社会の潮流に逆らわずに、それを武器にレールに乗っかった方が、人生の満足度は総じて高くなる可能性がある。

 しかし大多数のそうでない人は、端から賃金労働者として、高額歴エリートと評される方々と同じ土俵で競い合ったところで、勝ち目はないのだから、エリートが選ばないであろう土俵を選ぶ方が、生存戦略としては適しているように思える。

 その一例が、個人投資家であり、起業家である。レール上の賃金労働者よりも不確実性が高いものの、上手くいくと収入が青天井になる意味では夢がある。

 これが生存者バイアスによるものであることは百も承知である。無数の屍の上に、今の私が成り立っているのだろうし、明日は我が身だと思いながらリスクテイクしない取引を心掛けている。

 賃金労働者だと非正規なら1億円、正規なら2億円、エリートなら3億円と、天井の相場が定まっている以上、身の丈知らずであれもこれもと散財すると、老後破産まっしぐらなのは想像に難くない。

 煎じ詰めると、限られた収入の中で、いかに支出をやりくりするか論に帰結するのは、FPの相談業務の傾向から見て取れる。それは些か侘しくないだろうか。清貧思考で消極的「それで良い」と、半ば諦めていないだろうか。

 レール上の人生とは、夢を持たない代わりに、経済的な安定、安心感を手に入れる、ある種のトレードオフな選択と考えている。

 スティーブ・ジョブズ氏の名言である「Stay hungry, stay foolish」にもあるような、現状に満たされることなく、前人未到を目指す強欲な人種が、今の日本社会で絶滅危惧種化している気がしてならない。

 それが諦めにも似た、どうしようもない淀んだ空気感を醸成して、後ろ向きな社会を形成しているのなら、私はレールを敷かない愚者でありたい。


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