「投資=怖い」という先入観の根深さ
インフレで預金の価値が目減りする
むかしむかし第一次世界大戦後のドイツに、お兄さんと弟さんが居ました。お兄さんは勤勉に働いてはお金を貯め、弟さんは仕事はそこそこに、毎晩ビールを飲んだくれては、空き瓶を庭に捨てるクズっぷりを発揮していました。
ある時、お兄さんが真面目にコツコツ働いていると、ドイツは賠償金を支払うために大量のマルク(紙幣)を発行しました。
そうしてドイツは空前のハイパーインフレが起き、札束で積み木をする子どもたちや、薪を買うよりお札を燃やした方が安上がりな状況となり、コツコツ貯めていたお兄さんの預金は瞬く間に雀の涙となり、パンを買うのにも窮するようになりました。
一方で、空き瓶を庭に捨てるクズっぷりを発揮していた弟さんは、ビール瓶の価値が上がっていることに気づき、その瓶を拾い集めては売り、勤勉な兄よりもお金持ちになりましたとさ。めでたしめでたし。
日本人のステレオタイプに近い兄に感情移入していた人にとっては、胸糞が悪い結末となっただろう。一方で、ビールを飲んだくれる弟に感情移入していた、私のような怠惰な人間にとっては、ラクして上手くいく生き方そのものであり、救いのある話に映っただろう。
これは私が10歳の頃に、社会の授業で教科書に載ってある、札束で積み木をする子どもたちをガン無視して、担任が脱線した話の内容であり、多少の脚色はあるかも知れないが、実話に基づいたものらしい。
インフレ=通貨価値の下落
お金というのは何かと交換するための道具に過ぎず、インフレで物の値段が上がると、相対的に通貨価値は下落する。故にインフレで預金の価値が目減りするのだが、30年間に渡るデフレに慣れきった日本人には、この感覚が身についていない人があまりにも多い。
郵便貯金で6%みたいな利息が付いた時代であれば、預金(貯金)だけでも問題なかったが、現在のメガバンクの金利は0.02%と限りなくゼロに近いため、インフレに対処できない。
コロナ禍やウクライナ情勢による、一時的なものと思う方も居るかも知れないが、日本が長期に渡るデフレ経済だった間も、世界経済は緩やかにインフレしていたのは紛れもない事実で、グローバルスタンダードに合わせていかないと円安が進行し、輸入面で不利に働くことから、この傾向は続く可能性が高い。
だからこそ、自発的に資産を運用して通貨価値の下落に備えなければならない時代へと変わりつつある。
インフレでお金とモノの立場が逆転する
100年間銀行にお金を貸すと、年6%複利で満期に339倍になる「100年定期預金」が2015年に満期を迎えたことで話題となったが、1円の借用証書だったため、額面どおりの339円にしかならないオチとなった。
2015年だと「たったの1円」と思うかも知れないが、1915年の1円には、お米が3kgほど買える価値があった(一升50銭換算)。その1円を年6%複利で100年運用した339円で、何が買えるだろうか。
お米券1枚(=1kg分)が440円相当となっていることから、少なくともお米1kgは買えない。100円ショップでパックごはんが3つほど買える計算(消費税率10%と仮定)だが、100年後のパックごはんが3つよりは、1915年に3kgのお米と交換した方が、お金の使い方としては理に適っていただろう。
今までの30年間はデフレ経済で、時間が経つとお金の価値が増し、同じ金額で買えるモノが増加していた。(食いもんが徐々に小さくなっていったので、トントンの可能性も否めないが…)しかし、インフレとなるとお金とモノの関係は逆転し、お金よりもモノが強くなることは、100年定期預金からも伺える。
お金をインフレ耐性のある資産に変える
インフレに対処するために、お金をモノに変えた方が良いと言われても、どんなモノに変えるべきか分からない方も多いと思う。端的に記せば資産性のあるモノとなるが、どんなモノが資産性を有しているのか、正しくイメージしている人は少数派だ。
パッと思い浮かぶのは土地や不動産かも知れないが、人口減少社会の日本国内で考えたら、ほぼほぼハズレだろう。この先20年で人口が減少しない自治体は、日本全国で東京都中央区、千代田区、港区の3つしかない。大事なことなのでもう一度記す。日本全国で3区だ。
モノの値段は需要と供給で決まるのが経済学の大原則で、人口が減るということは、需要が減ることを意味する。
その地に住みたい人が10人居るのに、家が5軒しかなければ争奪戦で価格は上がるが、この先の日本社会は地方を中心に、住みたい人が10人に対して、家が20軒もある。みたいな状態となる未来が目と鼻の先まで来ている。
他人に住んで貰うためには、家賃を下げるのが最も有効な手段で、値下げ合戦となる地域の地価は下がる傾向にある。東京都中央区、千代田区、港区を除けば、将来的に土地の値段は下がることが見込まれ、基本的に資産性はない。
建物は言わずもがな経年劣化するため、耐用年数を超えると金銭的な価値はなくなり、そこに資産性はないどころか、大規模災害による倒壊リスクまで伴う。
一般的に伝統的資産と呼ばれているのは株式、債券で、それとは別枠の安全資産として金(gold)は資産性があるが、その中でもリターンが高いのは株式となる。その代わりリスクも高いとされている。
先述の100年定期預金との対比で、1950年から2022年までの72年間、トヨタの株を持ち続けていたら、約18万倍に値上がりしている。1950年当時の1株23円50銭が、差し詰め現在の423万円に化けた計算だ。
株式は、株式会社設立時に出資した者の権利を小口化したもので、その会社のオーナーとなることを意味する。これは、会社の一部を保有している状態を意味する。
リーマンショック後のJALみたいに、倒産したら価値がゼロになるリスクを負う代わり、トヨタのように会社が繁盛し続ける限り、決算で出た利益の一部を配当として受け取れたり(インカムゲイン)、株価上昇(キャピタルゲイン)の恩恵を受けることができる。
JALの前例があるため、絶対ではないものの、誰もが聞いたことのあるような、就職人気ランキング上位の企業が、経営破綻に陥ることは稀だろう。
初めはそうした企業に少額から投資する形でインフレに備えながら、投資=ギャンブル=怖いという先入観が払拭するように努めると、今度はインフレ下で、必要以上の預金を置いておくほうが、インフレ負けしそうで怖いと思えるようになるだろう。
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