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運用手法で求められるスキルが違う。

短期売買と長期投資。

 投資を始める目的の多くは、利益を得ることだと思う。株式で利益を得る方法は大きく分けて2つで、安値で買って高値で売ることによる売買益、つまりキャピタルゲインを得る方法と、権利付き確定日まで持ち越して分配金や配当等のインカムゲインを得る方法とある。

 世界的に金融リテラシーが高くない日本人の多くが想像するのは、前者のキャピタルゲインによって利益を得る方法である。こちらは主に短期売買で用いられる手法で、利益を得るためには、現物取引なら相応の元本が必要だし、元本がないのであれば信用取引を利用せざるをえないことから、配当を得る手法よりもリスクが高いとされている。だからこそ株式で生計を立てると周囲に公言すると、高確率で現実的では無いからやめた方が良いと言われてしまうのである。

 安く買って高く売るだけで利益が得られるシンプルな世界へであるのにもかかわらず、大衆は胴元が必ず勝つようにできているパチンコや競馬などの、やればやるほど損をするギャンブルと同じ括りで投資を扱ってしまっている。これは、FXを始めとする信用取引によって、多額の借金を背負ってしまった敗者の話ばかりを耳にしていることによるものと考えている。

 会社の口コミを掲載するサイトにネガティブな情報が載りやすいのと同じ原理で、多くの成功して幸せに暮らせている人は、ネット上に成功談を書く暇などないのだから、ポジティブな情報が集まらないのは当然である。

 投資の世界でも、まぐれ当たりで成功しただけで、永続的に富を生み出せないことから、怪しい情報商材を売っているような、とても勝者とは言い難い人でもなければ、誰でも簡単にかつ再現性のある成功法則があったとしても他人に教えるような事はしない。

 もし仮に現時点で誰も潜在価値に気付いていない市場でブルーオーシャンだったとしても、他人に勧めてしまえば、瞬く間に広がりレッドオーシャンと化してしまうと自身が稼げなくなり、結果として自分の首を絞めることになるのだから、往々にして有利な情報と言うのは公に出回らないものである。

多くの人は短期売買のセンスを持ち合わせていない。

 先程、投資におけるキャピタルゲインは安く買って高く売るだけで利益が得られるシンプルな世界と表現させて頂いた。疑問を感じた方も居るかも知れないが、その直感は正しい。人は合理的な行動が出来ないことが行動経済学によって証明されているからである。これは私も例外ではなく、短期売買のセンスは皆無である。

 短期売買で勝ち続けるためには、本能から来るさまざまな直感は押し殺し、如何なる場合でもテクニカル分析などによって、あらかじめ決めたルールに従い、合理的に行動しなければならないからである。こういう分野は人ではなくコンピュータが得意とする世界であるから、自分で勉強して自動売買プログラムを構築して機械任せに売買させるなり、模造品を情弱に売りつけた方が幸せかも知れない。

 橘玲さんの著書でも、とある大富豪の自動売買ツールのプログラムはたった4つだったと記されている。そして、死後も利益を生み出していたのだから、短期売買で利益を得ようとするなど、心のある人がまともにやるべきことではないと言うのが私見である。

そもそも短期売買はゼロサムゲーム。

 株式はFXやゴールド、不動産のゼロサムゲームと異なり、プラスサムゲームだから、インフレや税金を考慮した上でも、利益が得られる唯一の資産と言う意見は半分正解で、半分不正解である。

 まず、FXやゴールド、不動産は資産そのものが成長する要素がない。FXの場合、金利差によるスワップ益が発生することもあるが、大抵はインフレに吸収されたり、新興国通貨にありがちな金利の上昇と通貨価値の下落のチキンレースである。ゴールドや不動産は持っているだけで増えたりしないどころか、管理するのにコストが発生する。

 そのため、誰かが高値で売って儲かれば、誰かが損をしているババ抜きの世界と大差なく、ゼロサムゲームと言われる所以であるし、私も同感である。

 それと違い、株式は資産そのものの価値が増殖する機能を持つからプラスサムゲームであり、資本主義が崩壊しない限りババ抜きにならず、多くの人が資産を築けるチャンスがあるとされている。確かに嘘はないが、保険屋の営業トーク同様、株式が市場を介して売買しているものである核心に触れていない。

 会社が資金調達する場合、銀行からの融資に頼るか、株式を発行して購入者を募るかの2つの手法がメジャーである。2つの違いは、貸借対照表で負債に位置するか、純資産に位置するかである。融資は負債で返済義務があるが、発行した株式は純資産で返済の義務がない代わりに、オーナーとして会社の経営に参加したり、生み出した利益の一部を配当で受け取る権利がある。

 つまり、株式は会社設立時に出資したオーナーに対して発行される性質のものだが、多くの人は証券会社経由で市場に流通しているものを売買している。これだけでは、誰かが高値で売って儲かれば、誰かが損をしているババ抜きの世界と変わらない。

 しかし、会社は事業年度でどれだけの利益を得られたか、決算によって明らかにしている。初年度に総資産100で創業した会社が、期末までに20の利益を生み出した場合、その利益が”繰越利益剰余金”として、翌年度の貸借対照表に追加され、総資産が120に増加する。

 増加した資産を配当として株主に還元するのか、事業投資によって更なる利益を生み出すのかは会社の方針で異なるが、いずれにしても継続して利益を得られるなら、1年以上の長期目線で見れば株式そのものの価値が増殖する。しかし、1年以内の短期売買では決算によって利益が確定していない以上、資産価値が変化しない。短期目線で本質的な価値は変わらない発行済みの株式を、相場に応じて売買しているのだから、構図はゼロサムゲームと変わらないのである。

長期投資に必要なスキル。

 短期売買の場合、テクニカル分析と言われるチャートや出来高の変化から投資家心理を読み解き、変化を予測して利益を狙いにポジションを取るスキルが必要である。

 とは言え個人投資家、機関投資家、海外投資家、金融機関などの複合的な要因が絡み合う市場のチャートから、毎回のごとく正確に状況を分析するのは、経済学や心理学、金融や時事問題など幅広い知識が必要であるが故に難易度が高く、アクティブファンドを運用するプロですら外すことのある厳しい世界である。

 しかし、長期投資で必要なのは会計の知識で、日商簿記2級程度の知識があれば、財務諸表と有価証券報告書から、ビジネスモデルや企業体質の強みやリスク、競合や脅威とどのように向き合い、長期的に利益を出し続けることが可能であるかを見極め、可能性を感じた銘柄を保有し続けるだけである。

 短期的な値動きを気にする必要がなく、時間を味方に付けて雪だるまを大きくしていくだけで、短期売買より富を築くまでに時間を要するものの、リスクも難易度も低く、再現性は高い、勤勉な日本人向きな手法と言える。

 ここまで読み進められる方が投資初心者とは思えないが、最近は全世界や米国株式に連動する優良なインデックスファンドが低コストで購入できる時代で、銘柄を選定する必要すら無くなっているので、まだ投資したことがない方は、少額で良いから投じて雪だるまの芯を育ててみてはいかがだろうか。投資の世界に一歩踏み出すきっかけになれば幸いである。


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