iDeCoに加入すべきか、FP2級持ち20代が考える
給与水準が高いほど節税効果も高いが…
NISAの場合、税引き後の所得で資産形成する形となるが、iDeCoは自営業者や会社員などの社会的属性に応じて、毎月の掛け金の範囲に上限があるものの、掛け金は全額が小規模企業共済等掛金控除となるため、実質的に税引き前のお金で老後の資産形成ができる点がメリットである。
とはいえ、資産形成の運用中は非課税なものの、引き出す際は利益ではなくiDeCoで受け取る全額が所得として計上され、控除で相殺しきれない場合は課税されるため、実質的には課税を先送りしているに過ぎない。
また、掛け金は所得控除なので、収入があり続ける前提であり、私のようなドロップアウト組で、収入のない期間があると、そもそも所得がないのだから、控除の恩恵が受けられない。
しかも、一度開設したら60歳まで引き出せないにも関わらず、長い人生には付き物な、止むに止まれぬ事情で掛け金の拠出を止めても、資産管理手数料として年間で792円は徴収される国営ヤクザっぷり。
所得税は超過累進税率を採用しているため、個人の所得に応じて0〜45%の所得税と、住民税が非課税世帯でなければ一律10%となるため、掛け金に10〜55%乗じた分の節税効果があることになる。
年収400万円の会社員(DB、企業DC共になし)であれば、所得税率5%、住民税率10%の、15%の節税効果がある。MAX年66万円(月5.5万円)で、9.9万円減税といった格好だ。
そして、JTCと揶揄される典型的な古の日系企業は、メンバーシップ型雇用で年功序列制のため、若い時の賃金が安く、中年以降は成果に見合わず高給取りとなる傾向にある。
収入が高いほど所得控除の恩恵も大きくなる構造上、所得水準が高くなってからiDeCoを始めた方が、節税できる割合が30%、33%、43%、50%、55%と大きくなるのだから、若い時に掛け金の15〜20%を節税するのに比べて効果が高い。
サラリーマンは引き出す時に課税される可能性大
では、典型的な日系企業の会社員であれば、壮年期からiDeCoを始めれば盤石かと言えば、受け取り時の税金を考慮すると、個々人の状況によって異なるため一枚岩ではない。
iDeCoは10年以上加入すると、60歳以降に一時金として受け取るか、年金として受け取るか。またはそれらのハイブリッドを選ぶ格好となるが、それぞれに適応される税目が異なり、一時金は「退職所得」、年金は「雑所得」扱いとなる。
一時金として受け取る場合
前者の税制優遇措置として、退職所得控除が適応されるが、これは前年から19年以内に一時金で受け取った退職金と合算される。退職所得控除は勤続年数×40万円。勤続20年超の場合、超えた分に関しては70万円が適用される。10年なら400万円。20年なら800万円。30年なら800+700=1,500万円といった格好だ。
若年層からすれば、勤続20年超なんてレアケースのため、ざっくり受け取った退職金が勤続年数×40万円を超えていた場合、既に退職所得控除を使い切った状態と考えて良い。
そのため、仮に先述した会社員の上限である月5.5万円を10年間iDeCoで積み立てて、元本660万円に運用益が乗っかった900万円を受け取る場合、240万円の利益に対してではなく、900万円に対して税金が課せられる。
特別控除50万円を差し引いた850万円を1/2した、一時所得425万円×個人の税率(上記の場合、最低でも30%)で127.5万円が税金として召し上げられ、手元に残るのは772.5万円。
若い時に何かを我慢して15%〜20%の節税をチマチマやって、最短でも60歳まで資金ロックされた最後がコレだと馬鹿みたいに思える。
裏技としてiDeCoを60歳で受け取り、退職金を65歳で受け取ると、退職所得控除が2度支えるが、退職金を65歳に受け取れるよう調整する難易度はそれなりに高い。
また、このルールや退職所得控除が税制改正で改悪※される可能性も高く、20代からすれば、今の税制をもとに老後資産形成をしても、30〜40年後の税制など十中八九変わっているのだから、60歳まで引き出せないリスクに見合わない。
※追記:令和7年税制改正大綱で、iDeCoを60歳で受け取り、退職金を65歳で受け取る、いわゆる”5年ルール”が10年になる方針が明らかとなった。まだ決定ではないものの、やはり資金ロックされる資産の税制がコロコロ変わるのはリスクでしかない。
年金として受け取る場合
もうひとつの年金として受け取る場合も、公的年金等控除は公的年金等の収入金額に応じて、65歳未満が60〜195.5万円、65歳以上が110〜195.5万円と、基礎控除48万円が合算された108/158〜243.5万円/年の範囲内であれば税金が掛からない。
これも、公的年金とiDeCo年金を合算した金額となるため、現役時代の給与水準が高く、厚生年金が手厚い方は、iDeCo分が丸々雑所得扱いとなり、受け取り時に最低でも15%が課税される可能性が高い。
結論、NISAの1,800万円を埋めるのが先
要するに、結構な退職金や厚生年金が貰える見込みがある、大企業のサラリーマンにiDeCoは相性が悪く、課税を繰り延べしているに過ぎない。一方で、それらのベネフィットが皆無な個人事業主などは、税制をハックすることで、活用の余地がある制度程度に捉えておくべきだろう。
iDeCoは10年以上加入しないと60歳以降に引き出せないため、50歳の加入に間に合う心持ちで、それまでに具体的なリタイアメントプランを考え、自分の退職金や年金がいくらくらい貰えそうかを、独力ないしFPなどの力を借りて概算することが重要だ。
概算した上で、退職所得控除や公的年金等控除の枠が余る見込みであれば、非課税の範囲内で引き出せるであろう金額を逆算して(税制改正の大局も掴めると尚良い)、iDeCoの枠で10年間積み立てるのが賢しい選択であり、それまでは1,800万円もの非課税枠があるNISAを埋めることを優先すべきだと私は考える。
ここまで記した税制面の小技も、今はチンプンカンプンかも知れないが、1,800万円の生涯投資枠を埋める過程で、オルカンやS&P 500の”ほったらかし投資”一本では飽き足らず、色々と手を出しては痛い目に遭う、投資家あるあるを一通り経験してNISAを埋め終わる頃には、相応の金融リテラシーが身に付いている筈で、iDeCoはその時になって考えるくらいの温度感で良い。
工業高卒で社会に出た私でさえ、自分の手足のように操る感覚で、金融商品の仕組みや制度、税制を理解できる程度は成長するため、安心してNISAに向き合って頂ければと、一介の2級FP技能士として檄を飛ばして筆を置く。