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大学教員への道(その4):キャリアパス
インターネットで「大学教員 なるには」で検索。よく出てくるのは、”大学院に行って博士の学位を取得するとなれる!”といった情報でした。これではあまりにざっくりしすぎている...もっと詳しい情報発信をしたい。それがこのnoteの立ち上げを考えたきっかけでした。
そこで「大学教員への道」連載コラム第4弾として、大学教員を志す人がどのように大学教員になっていくのか、大学院入学後からから職を得るまでの道のりについて概説していきたいと思います。実は学位を取れば簡単に大学の先生になれるわけではないのです。そのあたりのリアルなキャリアパスを発信できればと思います。
※今回記事もあくまで私の専門領域である社会科学系の教員になるうえでのキャリアパスとなります。理系、医学系教員ではプロセスは異なる場合がありますので、その点に注意してください(ぜひ、他分野の先生はその分野のキャリアパスをご紹介頂ければと思います)。
大学教員になるまでの大まかなプロセス
大学で職を得るまでのプロセスを大学院入学から順に追ってみていくと、①学部卒業後、大学院修士課程に入学→②修士の学位取得後、博士後期課程に進学→③非常勤大学教員→④任期付き大学教員→⑤任期なし大学教員というプロセスを経る場合が多いのではないかと考えます。
そもそも大学教員には任期あり教員と任期なし教員が存在します。任期なし教員になったあとは、業績に応じて助教→講師→准教授→教授といったようにだんだんと職位がアップしていきます。「任期なし教員」はよっぽどのことがない限り大学から解雇されることはありません。安定した生活のためには任期なしの職を得ることが超重要ですので、任期なし教員になることは大学教員における就職の一つの終着点になります。
博士後期課程と非常勤
インターネットの情報では、「学位をとる→大学に就職する」というキャリアが描かれがちです。しかし、僕の領域では学位を取得するまで大学で教えた経験がない人は稀です。なぜなら、多くの人は博士後期課程に入るとどこかの大学で「非常勤教員」として働く場合が多いためです。
非常勤教員は「授業だけ行う先生」で、大学には自分の担当する授業の時間だけ行き、授業が終われば帰るというタイプの教員です。僕の場合には大学院で研究を行いながら、週1日は非常勤で授業を教えるため別の大学に行く、というライフスタイルをとっていました。
大学教員への就職をする上でこの非常勤の経歴はとても大切だと思っています。その理由を簡単に言えば、非常勤の経験がある方が大学公募を行う際に有利になるからです。言わば学位取得前から大学教員への道は始まっているのです。このため、ネットで散見される「学位取得→大学への就職」というパスは正しいと言えば正しいのですが、学位取得=就職と安易に考えるのは危険であると言わざるを得ません。また、就職する上で在学時の非常勤の重要性を軽視していると僕は感じています。この非常勤の重要性についてはまた別途記事にまとめたいと思います。
学位取得後は任期付き教員へ
博士後期課程で学生として研究をしながら、非常勤教員をするという「二足のわらじ」状態をしばらく続け、学位を得てもいきなり「任期なし」教員になれるわけではありません。通常、学生を終え大学教員として始めて就職をする場合には「任期あり」の教員として採用される場合が多いと思います。
(僕は文系の教員ですので、ポスドクなどを経る人はあまりいませんでした。詳しい方は是非この記事を引用しながら理系教員におけるキャリアパスについて情報発信いただければ幸いです)。
「任期あり」教員はその名の通り”雇用期間の定めのある”教員です。僕は現在、任期ありの教員として生活をしていますが、僕の場合は任期3年で更新は2回の契約です。一応、大学教員として正規の職を得ていますが、大学の経営状況によってはクビになる可能性もある。任期あり教員はとても不安定な状況です。「大学教員版 派遣社員」といった感じでしょうか...。
任期あり教員は、任期の有無という違いはあれど基本的に任期なしの教員と同様の仕事をします。一方、非常勤と任期あり教員が異なるのは「雇用期間の定めはあるが任期あり教員は”大学の正規教員”である」という点です。非常勤はあくまで”授業だけ先生”で大学の正規職員ではありませんが、任期あり教員は、大学の正規職員として様々な学内運営業務も行うことになります。ここは非常勤とは大きく異なる点です。
晴れて任期なし教員へ
イメージで言えば「非常勤教員」はアルバイト、「任期あり教員」は派遣社員、「任期なし教員」は正社員という感じです。任期あり教員として採用されたら成果(業績)を上げ、任期なし教員へのランクアップを目指していきます。ステップアップするには、僕の知りうる限り次の2パターンが存在すると思います。
パターン1は、大学で契約期間の満了に伴い任期なし教員として再契約される場合です。イメージとしては、派遣社員が試用期間を経て正社員になるという感じでしょうか。
パターン2は、教員公募に応募して任期なしの教員として採用してもらう場合です。教員公募では採用条件が「任期あり」と「任期なし」の場合でわかれています。任期あり教員として働いていた経験をもって新たに任期なしの公募へと応募することで、不安定な生活からの脱却を目指していきます。
以上の過程を経て、任期なし教員になることができれば大学教員のキャリアパスは一旦の区切りへ到達することになります。
任期なし教員として就職したあとは...
任期なしの教員となれば、基本的には定年退職までその大学で勤めることができます。しかし、より偏差値の高い大学で教えたい、より研究力の高い大学で教えたい、自分の母校で教えたいといったように自分の希望する大学へと移動する場合もあります。
大学教員の場合にも一般の企業人が転職活動を行うように、たとえ任期なしの職を得たとしてもその大学の環境が気に入らなければ,別の大学に移動することができます(もちろん、公募〈求人〉が出てそれを勝ち抜く必要はありますが)。
僕は全くこのフェーズには至っていませんが、諸先輩を見ていると、大体40代後半〜50歳くらいまでには「自分が骨を埋める大学(=定年まで勤める大学)」を決めて、その大学に定着する先生が多いように感じます。それまではチャンスがあればよい大学へと、大学を転々としている先生も多い印象です。このあたりの大学教員の公募や転職の仕組みについてはまた別の記事にまとめてみたいと思います。
結論
以上、長くなりましたが大学教員を目指す人に知って欲しいことは以下の通りです。
・インターネット上の情報には、「学位取得→任期なし教員」という線形のキャリアが描かれがちである。
・しかし、実際には大学教員(任期なし)になるためには「非常勤教員」や「任期あり教員」として仕事をする下積み期間か存在している。
・大学教員のキャリアアップにはこの”下積み期間”は避けて通れず、任期なし教員になるためにはこの下積み期間の実績が非常に重要となる。
僕も早く任期なし教員になりたいです。笑
参考:関連する過去記事はこちら