ソーイング・ビーは公平だから面白い

イギリスの公共放送・BBCが作っているソーイング・ビーという番組をご存知でしょうか。腕自慢のアマチュア出場者が裁縫の腕を競い合う番組です。

 出場者は毎週末の2日間、会場に集まってプロの審査員が出す3つの課題に挑戦します。1つ目の課題は、基本的な技術を見る課題。出場者はその場で与えられた型紙にそって衣服を作ります。制限時間はだいたい2-3時間ぐらいです。
 2つ目の課題では、創造性を見ます。出場者はその場でリメイク素材となる衣服を与えられて、全く新しい衣服に作り変えます。制限時間はだいたい1.5時間程度なので、アイデアと瞬発力が問われます。これで1日目が終了します。
 最後の課題として、2日目には出場者は総合課題に取り組みます。ソーイング・ビーでは、ドレスやコートなど、豪華な衣服を6-7時間程度の制限時間で作成します。あらかじめ前の週にはお題が発表されており、出場者は1週間かけて練ったアイデアを生地にぶつけます。

 課題で作成した衣服はプロ2名の審査委員が審査・評価して、出場者全員分の講評を述べます。十分な出来でない衣服には辛口のコメントを付けて、素晴らしい衣服が仕上がった際には賛美します。講評では何故そのプロが辛口を述べたか、賛美したかの理由が述べられるので、プロのコメントが的確であるとわかります。
 3つの課題が終わったところで、その週の最優秀作品が発表されます。その後、3つの課題の総合評価に基づいて参加者1名が脱落となります。生き残った出場者は、次の週も会場に集まって新しい課題に挑みます。こうして腕利きの出場者が、次第に難しくなっていく課題に取り組みます。

 この番組では、出場者同士がどんどん仲良くなっていきます。彼らは時には互いに助言したり、時にはお互いの出来を称えあい支えあいながら、作品を作り上げます。出場者はライバル同士ではありますが、同時に課題に取り組む仲間として脱落の際には別れを悲しみます。私には出場者の思いに嘘があるように見えませんでした。
 出場者は週を追うごとにみるみる腕を上げます。最初の週には脱落寸前だった出場者が後半戦に残って見事な作品を見せてくれた時には、視聴者の私自身もテレビの前で拍手してしまったほどです。バラエティーの空気とは異なる、本気の競い合いが胸を熱くしてくれます。

 この番組のシーズン2にはリンダとデビットという出場者が登場します。リンダは耳がよく聞こえません。デビットは足に障害があるようで、松葉づえをついています。彼らは障害者です。
 番組内ではリンダに手話のヘルパーが付いて、アナウンスを伝えていました。デビットが作品を審査員に見せる際は、司会者がデビットの作品を運びます。こうした助力は特別に取り上げられることもなく、番組はほとんど何事もなかったかのように進んでいきました。私は、これこそ合理的配慮のあるべき姿だと感心しました。
 リンダやデビットはそれぞれ、手話や運搬の手伝いなどの助力が必要です。しかし手話や運搬は、裁縫の腕には何の関係もありません。一出場者として他の出場者と公平に扱われます。一方で、彼らは「耳が不自由にもかかわらず」「足が不自由にもかかわらず」裁縫の腕を磨く「感動的な存在」としても扱われません。作品の出来が十分でなければ、容赦なく脱落します。リンダもデビットも、その他の出場者も挑戦の機会を公平に与えられて、裁縫の腕前という評価軸の下で競い合っていました。

 この番組の完成度と出場者の意気を見ると、どこかの国のチャリティー番組のように障害者を祭り上げて、その挑戦を「感動」に仕立て上げる必要はないのではないかと思わずにはいられませんでした。出場者の祭り上げは、実は差別的な意識の裏返しに過ぎないのかもしれません。一方で、過剰に障害者を保護する必要もまたありません。障害者が困難を抱えるならば、周囲はその困難を解消する程度の配慮をすることが親切だと私は思います。同時に、障害者がその配慮に甘えてはならないでしょう。
 合理的な配慮はもちろん重要です。その概念が世に広まることを私は願っています。しかし、そんな言葉を喧伝せずとも自然に互いが配慮しあえればいいのにな、と私は感じたのです。

 ソーイング・ビーでは誰もが裁縫の腕前に平等に扱われています。出場者は肌の色も、出身も、障害も様々です。シーズン1では、同性愛者の男性が自然に登場しました。その公平性こそが番組を盛り上げた原動力の一つだったのだろうと、私は推測します。

 ソーイング・ビーは現在、NHKで吹き替え版が放送されています。英語字幕版はFOXチャンネルから視聴できます。FOXチャンネルはHuluやJcomで視聴が可能です。私はHuluを利用しました。

 姉妹シリーズとしてブリティッシュ・ベイクオフという番組があります。こちらの方が有名かもしれませんね。ベイクオフもソーイング・ビーも、どちらも大変面白い番組なのでお勧めです。

 それでは、素敵な1日をお過ごしください。
 red_dash

参考

ソーイング・ビー2 - NHK
https://www.nhk.jp/p/ts/EN7J7NY6LV/


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red_dash博士
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