Vol.19 埼玉県川越市の人口移動仮説
先日、ある自治体の方と話をしていたら
「うちの街には大学などがあり、結構若い世代がいるのですが、就職に合わせてみんな街を離れてしまうんですよね~」
・・・と。
その時、思ったんですよね。
まさにこういう時こそ、データで街の状況を見てみると何か気づくことがあるのではないか、と。
ということで、今回はその自治体ではありませんが、同じように就職世代の方々の人口流出がある埼玉県川越市について自分なりに仮説を立てることにチャレンジします。
○埼玉県川越市について
まずは、川越市に関して少しご紹介します。
○人口動向について
では、まず最初に川越市全体としての人口動向について見ていきたいと思います。
川越市は、近年人口は増加傾向であり、2025年くらいまではその傾向が続くことが予想されています。
ただ、2025年ころをピークに人口は減少のトレンドに入っていきます。
人口増減の要因を「自然増減」「社会増減」に分解して見てみると、自然増減に関しては、2011年から減少していることが分かります。社会増減に関しては、2006年頃から社会増の傾向となり、2020年の段階でもまだその傾向は続いています。
ただ、2025年以降は、人口減少のトレンドに入っていきますので、今後は自然減の拡大や、社会減への移行が予測されますので、それらを踏まえた施策を考えていかないといけませんね。
【用語説明】
●自然増減・・・出生数と死亡数の差がプラスかマイナスか
●社会増減・・・転入と転出の差プラスかマイナスか
〇年齢階級別純移動数の時系列分析
次は、人口増減について世代別での傾向を見ていきます。
これが冒頭でテーマに掲げた就職世代の人口減少について分かるグラフになります。
まず、グラフの見方ですが、横軸が世代、縦軸が人口の純増数となっています。
横軸の年齢の見方ですが、例えば「10~14歳→15~19歳」で見てみると、この読み取り方は、10~14歳だった人が5年後15~19歳になった時に増えているか、減っているかを表しています。つまり、川越市の場合は「10~14歳→15~19歳」は、0よりも上となっていることが分かると思いますが、純増ということです。
では次に、言葉の定義です。
先ほども例に挙げた「10~14歳→15~19歳」と「15~19歳→20~24歳」を①「進学世代」、「20~24歳→25~29歳」を②「就職世代」、「25~29歳→30~34歳」「30~34歳→35~39歳」「35~39歳→40~45歳」を③「子育て世代」とします。
このグラフから分かることは、
①の進学世代は、増加している。これは、③の子育て世代も増回していることから、子育て世代の転入で子供も一緒に転入してきている要因もあると思いますが、もう一つ大学等への進学も考えられます。
実際に川越市には、東京国際大学、尚美学園大学、東洋大学、東邦音楽大学、西武文理大学があります(辻村調べ)
そして、まさに今回のテーマでもある②の就職世代は、大幅に減少していることが分かります。(ただし、近年はその減少幅が縮小傾向にあります)
ただ、ここで思うのは、確かに②の就職世代で大幅に減少していますが、その後の③子育て世代では、大きく増加していることが分かり、これはほかの地域ではあまりない傾向ということです。
これが冒頭で見た社会増の要因であると思われます。
【参考】合計特殊出生率
就職世代の若い人たちの流出ということで、ここで合計特殊出生率と「平均初婚年齢」「未婚率」「有配偶出生率」の分布図をご紹介します。
これを見ると、川越市の合計特殊出生率(総数)(2013年~2017年)は、1.40と全国平均の1.43よりも低くなっています。
その要因を「平均初婚年齢」「未婚率」「有配偶出生率」で見ている訳ですが、「平均初婚年齢」「未婚率」に関しては、「未婚率」の女性以外は全国平均よりも高くなっており、合計特殊出生率のマイナス要因となっています。(平均初婚年齢が高い、未婚の方の割合が高い)
「有配偶出生率」に関しては、全国平均よりも1000人当たり6ポイント程度低くなっており、これも合計特殊出生率のマイナス要因となっています。
ただし、これは先ほど見たように、子育て世代の転入が多く、既に出産を終えた方々が増えていることが影響しているかもしれませんね。
いずれにしても、若い世代が少なくなるということは、合計特殊出生率の観点から見るとマイナスに作用する可能性があることが分かると思います。
〇仮説検討
では、ここからは、なぜ就職世代が流出してしまっているのかを「産業構造」「雇用」「生活」から仮説を立てていきたいと思います。
ただ、川越市の状況だけを見ても分かりづらいと思いますので、今回は、川越市からの転出超過地域上位3地域である「さいたま市」「横浜市」「川口市」と比較しながら見ていきたいと思います。
【産業構造】
まず最初に産業面から見ていきます。
産業面で私が思ったことは、もしかしたら産業構造的に偏りがあり、若い世代からの人気が高くない業種が多いのではないかと仮説を立て、売上高(企業単位)・企業数(企業単位)・事業所数(事業所単位)・従業者数(事業所単位)で4地域を比較してみました。
このグラフを見る限り、産業規模的には、この4地域で比較すると川越市が一番小さな規模感となりますが、産業構造的に大きな特質的な違いは見受けられません。
下記「地域内産業の構成割合(生産額(総額))」を見ると他地域に比べると川越市は、3次産業の割合が少なくなっていますので、産業構造として見た場合では、もしかしたら3次産業であるサービス業が少ないのが影響しているのでしょうか?
【雇用】
では次に、【産業構造】で見た通り、産業規模的に比べると川越市は4地域の中で一番小さかったので、もしかしたら、雇用を受け入れるそもそもの基盤がないのでは?ということで調べてみました。
これを見ると「企業数」こそ2009年から減少傾向ではありますが、「事業所数」は2012年から横ばい、「従業者数」に関しては増加傾向となっています。
また、それぞれの県内・全国順位は、全体から見たらかなり上位に位置しており雇用の受け皿がない訳ではないことが分かります。
ただ、先ほど見た産業の構成割合を細分化し、別の観点から見ていくと地域の雇用の受け皿として影響のある「建設業」の割合が少ないことが分かります。それとは逆に、その他地域では構成割合が少ない「情報・通信機器」の割合が高くなっています。
もしかしたら、このようなことも影響しているのかもしれません。
【生活】
では最後に、生活に関わる観点から見てみようと思います。
これは、2020年、休日、自動車で条件を指定をして目的地として検索された場所をグラフ化しています。
これを見ると、川越市は「川越氷川神社」が、ダントツに多く検索されていますが、その他地域は、どこか1か所に集中している訳ではなく、目的地として検索されるスポットが複数あることが分かります。
更に細かく見ていくと、その他地域は、商業施設や遊戯スポットも多くあるような感じがします。
これら傾向を見ると、若い世代(就職世代)は、やはり買い物や遊ぶ場所が多い地域に住みたい傾向があるのでしょうか?
でも、こういった場所だと生活費が多くかかりそうですが、そういった観点からも少し見てみます。
こちらは、1㎡あたりの住宅地取引価格になります。
直接的な支出を把握できる訳ではありませんが、見ての通り、土地取引価格は全ての地域において川越市の2倍以上となっています。
当然ですが、アパートやマンション価格もそれに比例して高いはずですよね。
これだけ住居関連費にお金をかけても就職世代の若い方々は、このような地域に転出されていることになります。
では次に、就職世代に特化した数値ではありませんが、雇用者所得や支出について見ていきます。
【用語説明】
●雇用者所得(地域住民ベース)
勤務地を問わず、地域に暮らす住民等に支払われる雇用者所得
●雇用者所得(地域内勤務者ベース)
居住地を問わず、地域内で働く勤務者等に支払われる雇用者所得
●総支出(地域住民・企業ベース)
どこで支出したかを問わず、地域の住民・企業等が支出する場合
これを見ると、川口市の雇用者所得(地域内勤務者ベース)を除き、すべての項目に対して、川越市よりも所得も、支出も高くなっている。
これら観点からも就職世代(若い世代)は、支出が多くなっているにも関わらず、このような地域に住む傾向が高いことが分かる。
※川口市の場合は、さいたま市・横浜市とは少し傾向が違い、雇用者所得(地域住民ベース)が高く、雇用者所得(地域内勤務者ベース)が低くなっていることからも、恐らく就職世代が川口市で勤務しているというよりは、さいたま市や東京都内の企業に就職し、住まいだけを川口市に置いている可能性があります。
実際に通勤状況を調べると都内への移動が多くなっていることが分かります。
〇まとめ
ここまで、川越市の就職世代の人口減少について【産業構造】【雇用】【生活】の面から見てきましたが、以下のような仮説というか、深堀して調べる必要があると思います。
産業構造においては、特異的な違いこそないが、やや3次産業の割合が高いので、就職世代の就職に関する希望を聴取したい
「情報・通信機器」の構成割合が高く、「建設業」の構成割合が低いことが、何か影響を及ぼしているのか?
就職世代は、生活費が高くても、買い物や遊ぶ場所が多い地域を生活圏として選択するのか?
RESASでこの辺りまで目星をつけ、その後は現地でのヒアリングや学生へのアンケート調査などを実施することで、深堀をして、更に仮説の深度を深めていく必要があると思います。
やみくもにヒアリングやアンケート調査をするのではなく、ある程度絞り込んでおくことでヒアリングやアンケート調査も制度が高まるのではないでしょうか?
余談ですが、今回は就職世代の人口減少について見てきましたので、これ以上深堀はしませんが、私であれば、子育て世代が増えている原因究明をしてみるのも面白いと思っています。
やはり子育て世代が増えているということは、川越市の特徴ですからね。
しかも、その調査自体を大学等を交えて一緒に行えば、もしかしたら大学生も数年後に迫る子育て世代の方々が、なぜ川越市に転入してきたかを知ることができれば、就職時に転出せずに残るかもしれませんからね。
きっとそこには川越市の良さがあるはずなので・・・
では、今日はここまでとします。