Column Vol.10 洋上風車建設と船の種類・後編
こんにちは、レラテックの新宅です。レラテックでは風況シミュレーション・解析を担当しています。
前回は「洋上風車建設と船の種類について」の前編、洋上風車の建設について紹介しました。今回はその後編、洋上風車建設で使用する船についてです。
洋上風力発電設備を設置する際に使用される船舶は、およそ10種類。それぞれの作業に特化した船舶が、建設や操業時に活躍しています。
洋上風車建設で活躍する船の種類
①海洋探査船
洋上風車の建設では、基礎の形式と仕様を決めるために、海底面の調査やボーリング調査に使用されます。海洋調査船の名称には『ちきゅう』『みらい』などがあります。一度は名前を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
②自己昇降式台船(SEP船)
「自己昇降式」というのは、船が目的地に到着後、4本の脚を海底に着床させ、船体をジャッキアップすることによって海面から浮上させ、自立する仕組みです。一般的に、SEP船(Self-Elevating Platformの頭文字)とも呼ばれています。
水深10~65mの海域で作業でき、海が荒れて波が高い時でも影響を受けず、安定した姿勢で工事ができることが特徴です。
③半潜水台艇/台船
半潜水艇とは、船体をある程度まで水没させて航行することができる船舶のことを言います。洋上用の着床式基礎や浮体式基礎などの輸送に使用され、沖合にて半潜水状態で浮体を浮上・進水できることから、作業の効率化を図ることができます。
④起重機船
船にクレーンを搭載した形体が一般的で、風車や基礎構造などを吊り上げて移動させる用途に特化した船舶です。
⑤ケーブル施設船
海底ケーブルの新規敷設、修理、撤去に用いられます。底引き網漁や投錨による切断事故を防止するために、海底に埋設する作業ができるものもあります。
深海では海底面上に海底地形に沿って敷設することが多いようです。デッキ上に巨大なドラムを有しケーブルを収納しています。
⑥洋上風力発電アクセス船
洋上風力発電所へ作業員を輸送するための交通船の役割を担っています。厳しい気象・海象条件の下でも安全に移乗できるよう双胴船型であることが多いです。
純国産のSEP船が満を辞して登場
業界内でも大変話題になったのが、2022年秋に清水建設が披露した世界最大級のSEP船「BLUE WIND」です。洋上風車の建設にSEP船は必須ですが、日本ではまだ少ない状況でした。3)
この数値だけでもこの船の規模感が想像できますね。
BLUE WINDは一度に大量の資材を運搬することができるそうで、例えば、8MW級の風車であれば7基を10日間で、12MW級ならば3基を5日間で据え付け可能になります。これは従来の工期の約半分に値します。
また工法では、支柱を2分割したり、港と施工海域を往復したりする必要がある従来工法よりも、効率的な施工が可能になるとのこと。例えば、高さ約90メートルの支柱と頂部に設置する発電設備、長さ約80メートルのブレードの3体であれば、一度に搭載して組み立てられるようになりました。
さらに国産のSEP船ということで、冬の日本海の高波の中でも稼働率を上げられるように工夫がされており、稼働率(日数)90%を確保できるとされています。
洋上風力は構造体以外の基礎、系統連系や設置に掛かるコストが半分近くを占めているので3)、事業者にとって、このSEP船による作業期間の短縮は事業費の削減に直結するのです。実際に、2023年5月には、富山県下新川郡入善町沖で3MW風車3基を施行しました。4)
昨今、環境省が推進する「2050年のカーボンニュートラル実現に向けて」により、洋上風力発電の導入が加速しています。事業者や風車メーカーだけでなく建設に関わる船舶も含めて、純国産の風車が稼働する日がいつか訪れてくれれば、と願っています。
レラテックでは風況コンサルタントとして、風力発電のための「観測」と「推定」を複合的に用いた、最適な風況調査を実施いたします。