不妊のこころ (3)タイミング法の落とし穴
「あなた、今日、排卵日だから早く帰ってきてね」「うん、わかった」そんな夫婦の会話が繰り返される不妊治療があります。医師が、基礎体温や卵巣の状態から排卵日を予想し、性交日を指導するタイミング法です。医療にかかる前に、基礎体温表や市販の排卵検査薬を用いて自分たちで試みている方も多いですよね。
タイミング指導は、高度な技術は用いず自然妊娠に近いため、最初の治療として受け入れやすい反面、落とし穴もあります。たとえば、運悪く、夫の帰りが遅くなった場合。ずっと待っていた妻は、思わず、「今日は排卵日って言ったのに」と責めます。夫も、「仕事だから仕方ないじゃないか。酒も飲まず帰ってきたのに」とカチンと来ます。何とか、お互い気を取り直しても、義務的な性交は、うまくいきません。妻は、「今日が排卵日なのに」と落ち込み、夫は、「俺は機械じゃない」とお互いが不満を抱えることに。こんなことが続くうちにセックスレスになったり、夫婦の距離が離れていったりしてしまうのです。
自然妊娠に最も近いタイミング法で、夫婦関係が不自然になってしまう。本来は楽しみやコミュニケーションの役割もある性交が、子作りのためだけになってしまい起こる問題です。
悲劇を防ぐには、排卵日以外にも、純粋に2人のための性交を持つこと、そして、タイミング法は夫婦関係が悪くなるほど長く続けないことが大切です。今は精液を清潔に膣に注入できるシリンジが通販でも手に入るようなりましたし、排卵日に合わせ、夫の精子を妻の子宮に注入する人工授精を行う選択も悪くはありません。
性交のプレッシャーがない、ある意味不自然な治療をうまく利用することで、自然な夫婦の関係を取り戻していくことができるかもしれません。
※本記事は、以前読売新聞で連載したコラム「不妊のこころ」を再編集したものです
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