経済安定と平和
よく、失業率の上昇、経済活動全体の停滞による閉塞感で社会不安が高まる、より具体的には犯罪が増えたり戦争のリスクが高まる、ということが話される。読者個人の感覚としてもそのように感じているかもしれない。
私にとってこの仮説は、第二次世界大戦をふり返り、その理由をより深く理解しておきたくなる時に改めて確認したくなるポイントであった。
そして以前、過去の統計にあたって深めに検証した人を見つけたのでレポート含め紹介したい。
検証したのはRay Dalioという投資家で、世界最大のヘッジファンドとなったBridgewaterを作った人物だ。
その研究結果がこちらだ。記事からレポート原文まで読める(英語)。
このレポートでは20世紀のポピュリズムの台頭(多くはそこから戦争へ突入している)という社会不安の極みのような現象について調べているのだが、そこにはある共通点がある。まず、社会に次のような現象が起こる。
・高い失業率
ナチスドイツ台頭前の1920年代、ドイツはほとんどの期間20%-30%と高止まり。右翼台頭のあった1920年代イギリスも1920年代を通じて15%あった。イタリアや戦前日本はデータが見当たらないが、おそらく同じ第一次大戦の戦勝国であるイギリス位にはあっただろう。
・経済停滞
世界恐慌のあと1930年前後のドイツはGDPがマイナス10%超、ムッソリーニ台頭前の第一次大戦後のイタリアはGDPが2年間にわたりマイナス10%程だった。日本やイギリスのデータは無いが、日本について2000年の経済企画庁レポートは下記のように述べており、少なくとも日本についてはイタリア並に悪かったのではないかと思わせる。https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je00/wp-je00-0020j.html
「(戦時経済への傾斜と日本経済)第一次世界大戦後に始まった不況は、関東大震災(1923年)、金融恐慌(1927年)、1929年の世界恐慌を経て、1930年の金解禁に伴う昭和恐慌へと事態を深刻化させていった。」
このような現象に続き、強力な政治リーダーによる現状打破を訴えるポピュリズムが徐々に社会に広がり、法の支配や合理性を超えて変革を起こそうとする政治勢力がその勢いを増す。
・日本では軍部が満州侵攻、政治の他勢力を弾圧する動きが1930年代に起こる
・ドイツでは1930年代にナチス台頭
・イタリアでは1920年代にムッソリーニ台頭
・イギリスでは1930年代にファシズムが5万人程の活動になる
そしてポピュリズムが特に主導権を握った国々により、戦争に突き進んだのである。
このレポートを受けて、私はかなり仮説の確度が高まったのではないかと思った。もっと細かく意思決定プロセスを検証する余地は当然あるが、困窮が暴力的な利益確保を正当化する要因になっていく現象はいつの時代もあることなのだろう。
次に現在地を見たとき、特に気になるのは中国である。不動産バブル崩壊は起こり始めていて、若者世代の失業率が20%を超えているというニュースを見た。過去の例に鑑みるならば、ポピュリズムの勢力台頭の条件は揃いつつある。
その様子が選挙でわかる政治体制ではないので、台頭する勢力が表出するとすれば、ある時突然、軍部独走(政府の最高権力者は黙認)のような形の事件を起こすのではないかと思う。
これが防がれるよう、中国が経済を立て直し、社会の安定を再び強めるような政策があるならばそれを支援したいし、安定的な発展を求める動きを応援したい。
日本は1941年の会議の空気で戦争に進んだとか、資源禁輸措置で戦争に進んだとか言われるが、それらの根本原因になった満州侵攻がそもそも何故起きたのか考える時、1930年代の日本の経済停滞による社会不安という要素がとても大きい戦争の原因だと考えざるを得ない。
そして現在、そんな社会不安に覆われつつあるであろう中国を憂慮せざるを得ない。
平和な社会であってほしいと願う。
2023年夏