社会の展望
2024年のノーベル経済学賞を受賞したうちの2人、ダロン・アセモグル教授とジェイムズ・ロビンソン教授は、「国家はなぜ衰退するのか」という共著を持っている。
この書籍で繰り返し述べられるメッセージは、社会の繁栄にとって政治制度で人々の経済活動へのインセンティブを高めることが決定的に重要であるということだ。決定的にというのは、この仕組みが無ければ他の道具がそろっても社会の繁栄につながらないということだ。
読み解くところ、大原則は次の二点である。
・政府が法による支配を公平に実施すること
・法は社会の全ての層を代表する(包括的な、と述べられる)議会によって決められること
この運用が回り始める包括的民主主義の状態では、全ての層にとって望ましい法が検討されて施行される。その結果として財産権をはじめ人々の権利が広く守られ、権利が守られている信頼から人々が労働や発明に向けて取り組み(総合的にみて、そうでない状態の社会よりも)、技術革新や文化の発展がもたらされる。
包括的民主主義でない状態は、絶対王政や独裁政治、藩閥政治など、一部の層を代表する法の決定者や実施者によって社会が運営される状態であり、ここでは他の層の権利は容易に侵害される。歴史上の例では、既得権益層を脅かすものとして技術革新の普及が阻害される、例えば鉄道の工事が禁止されるといったことが多く起こってきたことが説明される。
一度包括的民主主義を確立しても、この制度は様々な権力から挑戦を受けることになる。有力者が法による支配の公平さを変更しようとした数々の事例も述べられている。そのような事例の結果は、その時々の人々の判断によって変わってくるものである。この挑戦は、政治制度の目立つ部分に対するものよりも、経済活動などのルール・制度に対して少しずつ行われる。何らかの規制の適用が不公平だったりという形だ。
豊富な事例で社会の繁栄を説明する名著である。
この本は政治制度に対する見方や、小さなルール・制度への意識を大きく変えるものだった。我々は社会の繁栄のために、ルール・制度に目を配り、包括的民主主義の大原則が守られていることを、大原則に沿って発展出来ていることをいつも確認しなければいけないのだ。これは社会人としての責務のようなものであろう。
レポートバンクに関しても、そのような目配りにとって有意義なものとなるような働きが出来ると良いと改めて考えた次第である。
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