続・虚 離
実は前回でのエレクトーンの先生との話には
続きがあります。
何処まで遡ったは方がいいのか、
何処から前提を踏まえた方がいいのかは
思案どころで、この部分の微妙なさじ加減がとても難しく、遡り過ぎても、前提を下げ過ぎても、「それくらい分かってんだよ!」とか「馬鹿にしてるのか!」と苦情がくるし
もうここまでは当然の如く分かっている事だろうから前提も踏まえなければ事象を遡る事なく話し初めてしまうと、これまた何を言っているな分からないと苦情がくる。
日本では兎角、個人的な得て不得手があったとしても、中学校は小学校での勉強が出来ている事が前提だし、高校では中学での勉強が出来ている事を踏まえているし、大学では高校の勉強が出来ている事を踏まえた上でという日本のシステムの中、ここまでの事は踏まえた上でという話しから入る事が多いので
諸外国のように識字率がバラバラな国とはちがって、前提を踏まえる所が違うだけで、
板挟みになるか、どちらからか必ずと言って良いほど苦情がくる国である。
どっちにしたって苦情がくるなら、いちいち気になんてしてられないと投げやりに思ってみたり、だったら自分の好きにすればいいじゃん!と突き放したくもなる。
そんな前置きはともかく…
前回の話しのその後を書いてみたいと思います。
私が習っていた最高ランクの先生の最初のレッスンの日には実は初対面ではなかった。
先生の中に記憶が残っていたかどうかは分からないけれど、私の中ではエレクトーンを習い初めてから、ランクテストの時には必ずと言っていいほどランクテストの審査員として
テスト会場にいらっしゃった先生だったから。
先生が変わって初めてのレッスン日に、教室のドアを開けて中に入った瞬間、私の中に
あのランクテストの時に居た先生だったんだと記憶が甦って来て初対面のはずが、
一気に初対面ではなくなった。
言うなれば私がランクテストの度に
トンチンカンな演奏をする事を見続けて来て下さったとも言える。
けれど、何十人も受けるランクテストの中のうちの1人にしか過ぎない私の事を先生が覚えているかどうかまでは分からない。
学校の授業中に手を上げる事さえ嫌だった私にとって先生の記憶の中に私という存在の記憶が残っていると思うだけで居た堪れなくなる私には、それ位で丁度よかった。
目立ちたがり屋さんや焼き餅やき屋さんには
耐えがたい話しなんだろうなぁと思う。
私にも自分の事を覚えていて貰えない事に不愉快さを感じていた時期もあったと思うけれど、幾つもの修羅場を経験していくうちに
いつしか余り気にならなくなっていた。
というりよ気にしても仕方がなく、ダメだと言った所で人は気になる人の所へ目が行ってしまうのが性なのだから。
ある意味では、お姉ちゃんとして育てられて来たからこそ耐えられる事なのかもしれない。
そんな中、少なくても私の中だけでは実際にレッスンは受けた事がなかっただけで面識のある人である事には違いがなかった。
私の通っていた楽器店ではグループレッスンをしない方針の楽器店だったので、全て1on1のレッスンだった。
先生だからと言っても生身の人間だから、生徒さん(人)の名前と顔を一致させるのが得意な先生ばかりとは限らず、不得手な先生にとっては好都合だったとも思う。
さてさて…
先生から「堂々と間違ってくれてありがとう」と言われた意味を知り、私の中でのそれまでの当たり前が当たり前ではない事が分かって腑に落ちていると、先生から「なんだけどさ〜」と次への言葉が出て来た。
「?」と思ってまた先生の話しを聞いてみると、その表現力がある様に見せて、譜面通りに演奏できていない事を隠してしまう生徒さんに、キチンと話しをしてレッスン中は出来ていない事を隠さず弾いて欲しい事を先生から伝えると、隠さなくなったのいいのだけれど、今度は自分で自分の指の確認が出来なくなったと言う。
私がまた「?」と言う顔をしていると、
先生曰く自分の顔は鏡がなければ自分の顔がいつも見えている訳ではないでしょと言う。
私が「はい。」と相槌を入れると、
「でも自分の指はいつでも自分の目で目視できるよね。」と先生が言う。
私もまた「はい。」と相槌をいれる。
要は隠さず弾いて欲しいとの先生の言葉が
何故かその生徒さんには先生の許可が必要との解釈に変わってしまった様で…
その生徒さんに、譜面を指しながら右手の指は3の指、左手の指は1の指で音符の縦の線を揃えて音を出すタイミングがズレない様にと譜面に縦線を書き入れて教えていたら、
いつしかその生徒さんは演奏する事よりも譜面を自分で読む事よりも
先生に指ずかいの確認をしてもらう事の方が大事になってしまって鍵盤に指をおく度に先生の顔を見る様になってしまったと言う。
先生が取得しているライセンスのランクからして指導している生徒さんは中学生以上の人が多いと言う。
まだ入って来たばかりの人や幼稚園や小学生なら分からない話しでもないんだけれど、
それなりに年齢がいっている生徒さんが多いから、先生としてもあまり言いたくない事なのだけれど、意を決して「見るのは先生の顔ではありません。自分で譜面と指の位置を照らし合わせて一致しているかどうか自分自身の目で判断して下さい。」と伝えなくてはならないという。
そうして1曲仕上がったと思うと、先生として
は次からは何も言わなくても表現力のあるふりをして演奏を誤魔化さない。譜面の音符の縦のラインをそろえる。自分の指は自分の目で確認する事を踏まえて能動的に練習して来てくれるつもりでいたのに、次の新しい曲に入ると、表現力のある振りして演奏を誤魔化す所から、また始まってしまうという無限のループになってしまうという。
また流石に思い余って、「新しい曲の練習に入る度に、リセットさせて表現力のある振りをして演奏を誤魔化す事から始めるのはやめましょう。これからずっと表現力のあるふりをして演奏を誤魔化さない。譜面の音符の縦の線は自分で揃える。自分の指は自分の目で見える事を踏まえ練習してきて下さい。」と伝えるないと理解されない言う。それも毎回同じ生徒さんなんだよね。と…
第3者としては笑って聞いてられる話しなんだけれど、当事者の先生としては頭がハゲそうになると言う。
ただでさえ先生は教科書に沿っての練習を主軸にしているので、何度も同じ曲を違う生徒さんに教えたり演奏をしてみせたりしている事は生徒さん達の理解の範疇には及ぶはずもなく、そこまで掘り下げないと分かって貰えない生徒さんがいる中で先生にとって私という生徒は先生が予め踏まえていて欲しい事を踏まえてくれて、尚且つ勝手な解釈をしないでいてくれるから手がかからなくていいと言う。
でもランクテストになると、何故が緊張のあまりトンチンカンな演奏になるんだよねと
笑っていた。
すると先生は「ごめ〜ん!この後レッスンする生徒さんがいないと思ったら、つい長話になっちゃつた。」と言って普段あまり聞く事が出来ない話しをしてもらって何時もより長めのレッスンが終わった。
その先生は私が18歳になって指導級のランクテストを受験できる様になるまでレッスンをしてくださって合格するのを見届けてくれた様にして本社での譜面を書き起こす業務へと
移動されていった。
これにて完結。