半べそなstreet smart

私が20代後半〜30代始め頃のだったと思う。
当時、集合住宅に住んでいた。
ペットを飼う事が禁止事項とされていたので、同意の上での契約として入居が認められていた。
勿論、全世帯おなじ条件。

ある日の事だった。
今は他界してしまった前夫からの携帯がなった。
さっき家を出たばかりなのに何だろうと
電話に出てみると、集合住宅の敷地内で飼い犬を轢いてしまったと言う。
その言葉を聞いた瞬間、ショックのあまり私の表情は固まってしまった。

もう少し詳しく話しを聞いてみると、同じ集合住宅に住む人の飼い犬でリード無しで出て来たと言う。
何処か前夫も動揺しているようだったが、兎に角
冷静に対処しようと、飼い主さんと一緒に、動物病院へ連れていって来ると言う。
とりあえず事情は分かったと言って携帯電話を切って
前夫の帰りを待つ事になった。

どこか気もそぞろな私。

時間がどれくらい経ったのも分からないまま家の中の事をしていると前夫が帰って来た。
とりあえず飼い主さんに、かかりつけの動物病院を聞いて送り届けて来て、こちらの自宅の連絡先と名前を伝えて、相手の方の連絡先と名前を頂いて来たと言う。
相手の飼い主さんも、かなり気が動転していて、それ以上の話しも出来ぬまま、動物病院に送り届けて来ただけでワンちゃんの怪我の容態までは分からないと言う。

そのあと前夫は、自分がやってしまった事だから、相手方の人とは自分が対応すると言う。
私なりに前夫を見て来た上で、前夫の言葉に一抹の不安を覚えた私は、保険屋さんに間に入って貰った方がいいと思う事を伝えると、等級が下がるし自分がやった事だから自分が対応するから、お前は口出すなと言って、頑として譲らなかった。

それから数日間、前夫と相手方との交渉が続いた。
その間、私の負の胸騒ぎがおさまる事はなかった。
何せ、相手の話の真意を聞く事より、言い返す事が先になってしまう人だったから。
「拗らせなければいいけれど…。」と思っていた矢先「俺じゃ埒が明かない、後はよろしく。」と言って、拗らせるだけ拗らせてしまった話しを私に丸投げして来た。
嫌な予感は的中してしまった。

本来なら入居時の契約違反をしてペットを飼っていて
尚且つリードもせずに犬が出て来たと言うのだから、
ある意味では、こちらが加害者とも言えるのだけれど、話を拗らせてしまったし、犬好きの私としても気が痛む所もあり、重たい足どりで飼い主様の所に詳しい話を伺いに行った。

玄関のチャイムをならして、こちらの名前を名乗ると、飼い主様が出て来た。
主人がお騒がせしてしまった事にのみ、お詫びを入れて話しを聞いて見ると、怒りが収まらない飼い主様は
次から次へと言葉を捲し立てて来る。
ひたすら黙って話しを聞いていると、部屋の奥から他の御家族まで出て来て3人がかりで私に言葉を捲し立てて来る。
事故が起きてから、まだ気が動転して冷めやらぬうちに、どうも前夫が自分の正当性ばかりをあげつらってしまった様だった。
それにご立腹された飼い主様は、次から次へと動物病院での治療費や入院費、検査費用や自分達の精神的負担面について、ひたすら喋り続けていた。

とにかく3人がかりで喋ってくるので、相槌をうつ暇もないまま、ひたすら私は黙って話しを聞いていた。
どれくらい時間が経ったのかは分からないけれど、何とか飼い主様の話しが一区切りした所で、現時点での事情は分かりましたとお伝えした上で、私どもで対応できる事はさせて頂きます。ですが飼い主様の全てのご要望に応えられるとは限らない事をお伝えして、その場を後にした。

こちらから依頼をしない限り保険屋さんも相手の方と対応する事ができないので、前夫に承諾を経て保険屋に連絡を入れた。

保健屋さんも直ぐに対応して下さったのだけれど、
保険のシステム上、いた仕方ない所もあるのだけれど相手方の飼い主様の気持ちをまるで逆撫でして、更なる追い討ちをかけるかの様に、ペットは物損扱いになる旨の通知を郵送したのだった。

その通知書を持って激怒してきた飼い主様が、血相をかいて私の家の玄関のチャイムを鳴らした。
私が玄関を開けると、飼い主様は開口一番
「うちの大事な家族なのに物損扱いなんて、どうしてそんな酷いことができるの！」と凄い剣幕だった。
でも、それは何処の任意保険会社でもペットが物損扱いになる事は変わりなく。
また、延々と物損扱いに納得できない胸の内を捲し立ててくる。

気が動転してしまっている事は確かだけれど、
まるで自分だけが被害者とばかりの、こちらの不手際や不適切さばかりを言ってくるので、これまで黙って聞いて来た私もさすがに思わず、
「リードを付けてさえいれば未然に防げた事故ですよね。ましてや契約違反をしてペットを飼っていらっしゃる事を私どもは承知してる上で、それでもワンちゃんを車で轢いてしまった事に対しての自分達の責任として最大の誠意を見せているのに随分なお話ですね。それならリードを付けずにいた事と、契約違反でペットを飼って入居していらっしゃる事を、こちらとしても訴えさせて頂きます。」と言ってしまった。

すると相手の方は「そんなに騒がないで下さい。」
と怯んでしまい、保険金も下りなくなってしまうどころか、退居させられてしまう事を恐れて、それから何も言ってこなくなった。

どんなに避けて通りたくても戦うべき時がある。

その後、担当の保険屋さんにも通知事での出来事を念の為に連絡を入れておき、その後の対応はスムーズに終える事ができた。
でも飼い主様とはご近所とはいえ関係性は悪いままで気まずくなってしまったけれど、私のほうから事故があった事は、同じ集合住宅の他の人に一言も話した事はなく、相手の方も契約違反をしてペットを飼っている都合上、話しを大っぴらにする事はなかった。