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ひとり飲みに向いていない

美術モデルで出張に来ており、ここ数日間はホテルに滞在している。

夜はほぼ毎日、ひとりで飲み歩いていた。
あるときはその町の居酒屋へ、あるときはラーメン屋で、またあるときは疲れ果ててしまい、近所のファミレスに行くので精一杯のときもあった。

それで気づいた。

ひとり飲みって、全然楽しくない。

おいしいものを食べても共有できる人がいない。今日あった出来事、最近考えていることを語り合える人もいない。だいいち、ひとりだとあんまり食べられない。

孤独のグルメでは、主人公の井の頭五郎がいつもたのしくひとりでランチを楽しんでいる。自分のペースを乱されず、ただ美味しいものを好きだなけ食べられることに、この上ない幸せを感じているのだろう。ひとり寂しく晩酌をしながら、いつも楽しそうに大量の料理をかっくらう五郎さんのことを思い浮かべていた。

それに若い女性ひとりで見知らぬ町の居酒屋へ行く、というのもかなりの勇気が要る。変な人に絡まれやしないだろうか、大将が色々聞いてくる人だったらどうしようか、そういう心配が尽きない。ひとりで店を探すときはいつも憂鬱になるのだ。

店に入れたとしても、周りから聞こえてくる声や見える景色が気になってどうも食事に集中できない。
今回も入った店のひとつで中年男女が同伴のようなものをしていて、「反社の人って〜」「あの人、うっかり騙されて〜百万」などの生々しい話が聞こえてきたり、ファミレスではやたら声の大きい男性2人がサンダルを脱ぎ、素足を椅子にあげて食べているのを目撃してしまった。
最近のファミレスは卓上のタッチパネルで注文、料理は猫型ロボットで届けられるという非常に味気ないものになっているが、そこで細かい料理の注文をしようとして「いや、注文は全部タッチパネルからしてください」の一点張りで対応しようとする店員と客との攻防もみられた。
非常に気が滅入る。

もちろんこういった類のことはどんな居酒屋にもあるあるだと思う。人と飲んでいるときにはごまかせていたものが、ひとりで飲みに入った瞬間に全部あらわになる。それが辛い。

旅先などで、ひとり飲みを楽しむYouTuberの動画をよくみる。
しかし彼らはどんなことをモチベーションに、あちこちの居酒屋に入っていくのだろう。もちろんおいしいものを食べ、一期一会の出会いを楽しみたいというのはあるのだろう。でもたとえば、ビールサーバーの匂いが気になる生ビールとか、メニュー表で見た写真と全然違う、頼りげない唐揚げとかが出てきたときはどうするんだろう。動画は全く嘘がつけないから、違和感や嫌悪感も全部出てしまう。それが全くこちらの視聴者に伝わってこない、ということは、隠せているのか、気にしない性質なのか……。天性の愛想とポジティブシンキングがなければ、動画を投稿し続けることは不可能なように感じる。そう思うと、彼らはすごい。

ひとり飲みというイベントが、私にはことごとく合わないということが今回の出張で分かった。なお今回の滞在で一番おいしかったのは控え室でひとりで食べる弁当、ホテルの自室に戻って啜ったどん兵衛の天ぷらそばだ。ひとりで食べるなら、やっぱり家、部屋がいちばんだ。

……そう書いてるだけで惨めな気持ちになってきた。今日も一日がんばりましょう。

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差詰レオニー
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