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「素直に夢みる大切さ」~『虹の彼方に(Over the Rainbow)』に寄せて

皆さん、こんにちは! 在米27年目、ニューヨークはハーレム在住の指揮者、伊藤玲阿奈(れおな)です。



日本公式デビューの思い出


私が公式に日本デビューを果たしたのは、音楽総監督として出演した、2015年4月10日に東京芸術劇場における第2回国際平和コンサートでした。舞台には国連旗が掲げられ、国連本部からも軍縮上級代表がメッセージを寄せて下さっています。

前半は、各地から参加した子供たちが学校ごとに演奏を披露。後半から私の出番で、千住真理子さんなど特別ゲスト、および新日本フィルハーモニーなど在京プロオーケストラのメンバーらで構成されたオーケストラを率いました。

日本公式デビューになったコンサートのチラシ


このコンサートでとりわけ思い出に残っているのは、最後の最後にすべての出演者が舞台に登場して、「Over the Rainbow(虹の彼方[かなた]に)」と「赤とんぼ」の2曲をオーケストラ伴奏で大合唱したことです(リンクは別コンサートでの演奏動画)。

ただ、全国からの参加だった関係上、この2曲の全体練習は当日のみ約30分しか取れませんでした。なので私は、かなり早めに楽譜と注意事項を各学校の先生へと送ることにしたのですが、それと一緒に子供たちへの個人的なメッセージもいくつか付けていました。

その中のひとつ、「虹の彼方に」に寄せて届けたメッセージをご紹介します。文章はほぼ原文通りですが読みやすいよう改行などを加えました。

以下、メッセージの引用を始めます。


「虹の彼方に」に寄せたメッセージ


この曲は、「オズの魔法使い (The Wizard of Oz)」の1939年映画版で主人公の女の子・ドロシーが歌う名曲中の名曲です。しかしながら、公式に歌われている日本語訳は、メロディーに合わせる為に大幅に意訳されていて、原詞の勉強には向きません。

また、ネット上などに色々な訳がありますが、この機会に私が自分で訳してみました。原詩の一行一行に対して逐語訳を施した上で、意味がとりにくい部分にはカッコつきで言葉を補っています。

英語の勉強にもなるので、ちょっと読んでみて下さい。


Over the Rainbow(虹の彼方に)
訳:伊藤玲阿奈


Somewhere over the rainbow
虹の彼方のどこか
Way up high
遥か(空)高くに
There's a land that I heard of
私が聞いた国があるの
Once in a lullaby
いつか子守唄で


Somewhere over the rainbow 
虹の彼方のどこか
Skies are blue  
(そこでは)空は真っ青で
And the dreams that you dare to dream
そして、あなたの願った(夢見た)夢(のすべて)が
Really do come true  
本当に叶ってしまうの


Some day I'll wish upon a star
いつの日か、私は星にお願いをするの
And wake up where the clouds are far behind me
そうして、目を覚ますと、雲は私の遥か下にあって
Where troubles melt like lemondrops
そこでは、悩み事なんてレモンの雫のように溶けてしまう
Away above the chimney tops
煙突のてっぺんの遥か上(注:つまり雲の上)
That's where you'll find me
そこに私がいるの(をあなたは見つけるのよ)


Somewhere over the rainbow
虹の彼方のどこか
Bluebirds fly
(そこでは)青い鳥(注:幸せの象徴)が飛んでいるの
Birds fly over the rainbow
鳥たちが虹を超えて飛んで行く(飛んで行けるのなら)
Why then, oh why can't I? 
どうしてそれなら、ああ、どうして、私に出来ない訳がないんじゃない?
(私にだってきっと出来るはずだわ!)


読めば分かるように、この詩は、楽しいことや明るい希望を素直に夢みること、その喜びや素晴らしさを歌っています。

楽しくないこと、辛いことは人生にたくさんあり、素直になるのがバカらしくなる時もあります。そして、素直に楽しめず、希望を持つのが難しくなると、人は自分が許せなくなり、そして他人も許せなくなります。

その結果、平和は遠のいてしまうのです。つまり、平和とは、単に戦争をしないことに留まらず、私たち一人一人の心の持ちようでもあるのです

私は、このような信念から、この曲を選びました。どうか平和を願うコンサートでこの曲を歌うことの「意味」を、一人一人が各自で考えてみて下さい。

以上、メッセージの引用おわり。


後日談:天沼小学校の児童とジュリー・べラフォンテさん


以上は私の考え方ですが、皆さんはどう思われますか? 10年前の伊藤玲阿奈を思い出すと、あの人間力レベルでよくもまあ偉そうなことを、、、と自分自身は恥ずかしくなります。けれど、そう言っていたら何もできなくなりますね。

もうちょっとだけ、後日談をさせて下さい。

最後の全体演奏の様子
カーテンコールで天沼小学校のお友達から千羽鶴をプレゼントされました


このメッセージもひと役買ったのか、全体演奏も大成功で、涙した方が多くいらっしゃったそうです。そして演奏後のカーテンコールでは、出演団体の一つだった杉並区立天沼小学校の皆さんが折った千羽鶴をプレゼントして頂きました。

その頃の私は、「バナナ・ボート」などを歌った伝説の歌手&俳優ハリー・べラフォンテさんの元奥様ジュリー・べラフォンテさんと懇意にしていたのですが、NYに戻った私は、90年近い人生の多くを反人種差別や平和に費やした彼女にその千羽鶴を託すことにしました。

ジュリー・べラフォンテさんへ天沼小学校からの千羽鶴を託す(NY市内、彼女の自宅にて)


受け取った老ジュリーは大喜びで、すぐにお礼のメッセージを天沼小学校の児童にしたためました。それを半年後にまた帰国したときに、私が学校へ直接お届けしたのです。

直筆のメッセージを手に取っているときの子供たちの目と言ったら! ワクワク・好奇心しかないといった感じで、まさに「虹の彼方に」で私が伝えたかった素直さそのもの!

その時ちょうど運よく毎日新聞の取材が入ってくれて、素晴らしい写真付きの記事にしてくれました。今でも時おり見返しては、エネルギーをもらっています。


あれから早9年。この子たちはもう成人を迎えようとしているはず。どうだろう、みんな元気にしているかな。きっと、あの時の目そのままでいてくれていると思います。

自分の子供はいないけれど、たくさんの子供たちと心と音楽の交流をしてきたことが私の宝です。

©伊藤玲阿奈 2024 無断転載をお断りします

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執筆者プロフィール:伊藤玲阿奈 Reona Ito
指揮者・文筆家。ジョージ・ワシントン大学国際関係学部を卒業後、指揮者になることを決意。ジュリアード音楽院・マネス音楽院の夜間課程にて学び、アーロン・コープランド音楽院(オーケストラ指揮科)修士課程卒業。ニューヨークを拠点に、カーネギーホールや国連協会後援による国際平和コンサートなど各地で活動。2014年「アメリカ賞」(プロオーケストラ指揮部門)受賞。武蔵野学院大学大学院客員准教授。2020年11月、光文社新書より初の著作『「宇宙の音楽」を聴く』を上梓。

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伊藤レオナ(在NY指揮者)
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