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「大卒選手」が増えている背景の話 【Voicy文字起こし】


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本記事はVoicyチャンネル「国内サッカー、たまにビジネス。竹中玲央奈のここだけの話」の文字ver(おまけ付き)です。今回は2023年5月2日に配信した『「大卒選手」が増えている背景の話』のテキストverを一部トピックを付け加えて配信します。


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大学サッカーはJリーグを見ている人だったら馴染み深くなっていると思います。どのクラブにも大卒で入った選手が主力として活躍しているので。特にJ3、J2では大卒で入団して活躍しJ1にステップアップすることも増えてきました。パッと思いつくのがガンバ大阪の杉山直宏(熊本→G大阪)あたりかなと。

何より、2022年のカタールW杯では、大学サッカー経験者が2002年以降で最も多かったというデータもあります。代表選手の26人中9人が大学サッカー出身者でした。長友佑都選手や上田綺世選手は卒業を待たず3年でプロへ行っているので「大卒」ではないのですが。

ちなみに1998年の日本が初めてW杯に出たときが、大卒が最も多かった大会です。ただ、1993年にJリーグができて5年ほどで、まだ日本リーグ時代の名残もあったことが大きい。日本リーグ時代は大学まで進みサッカーをして、卒業して企業に入ってプレーを続けるというキャリアが主流でした。また、大学サッカーがアマチュア最高峰という立ち位置でもあったようです。

その後、Jリーグが発足し高卒→プロの流れが確立され、Jクラブの育成組織が増えました。その動きが生まれて、育った選手が20代前半で生きのいい感じになり、迎えた2002年ワールドカップという流れが生まれた、という形です。

当時は高卒プロやユース上がりの選手が主力で大卒選手は少なかったんですけども、そこから徐々に盛り返していった、と。こういうのも変なのですが。2010年代ぐらいからまたちょっと大学サッカーブームが来たような感覚があります。

環境の変化とか、大学ならではの良さみたいな点が再認識されて、あえてプロに昇格せず、高校卒業時点で、プロのオファーがあったけど断って大学に行くという選手が増えてきました。

背景がいくつかあります。まず一つはフィジカルの向上にプラスして、試合経験を詰めるという点です。その点では、高卒時点ではプロより大学を選ぶほうが正解なんじゃないか、と。

高校2年から3年生ぐらいの間で身体は出来上がっていきます。高校3年生から9cm身長が伸びる、ということはほとんどないですよね。身長が伸びきったあたりで横の筋肉を付けることに注力できる。そこにプラスして試合に出るという、この合わせ技が選手を成長させる上で大事だと思ってるんですよね。

例えば上半身の筋肉をつけて体幹を強くして、フィジカルで負けない成功体験を公式戦という緊張した舞台で味わうことによって自信がつくでしょう。「自分って戦えるんだ」と思えるようになり、次のプレーにもさらにもう一歩踏み込んでいける。強そうな相手に向かっていける。そういう効果はあると思います。

ただ、試合に出られないでフィジカルを鍛えていても、「身体は大きくなったけどどうなんだろう」と少なからず思ってしまうのかなと。プロに行っても身体は鍛えられるけど、それを発揮する場所がなかなかないというのが、高卒Jリーガーが直面するものとして大きいと思っています。

公式戦の緊張感を積められる場所が多い

加えて、大学サッカーはどのカテゴリでも公式戦の機会がたくさんあります。トップチームは関東リーグ、サブはインデペンデンスリーグ……。全て全国大会に繋がっています。3軍、4軍にいたとしても、最近は大学サッカーのチームが社会人リーグに所属しているので、そこで企業のサッカー部や将来のJリーグ入りを目指す鼻息荒い地域の振興クラブと戦う機会もあります。

Jクラブに行って試合に出られず練習試合中心になるより、競技レベルは落ちるけど毎週しっかり公式戦ができて、勝ち点3をもぎ取りにいく戦いができる環境にいる方が、個人的には選手の成長にとって良いと思います。

ただ、全員が全員、18歳を超えた選手はそこの環境がいいかと言われるとそうではない。

卒業してもすぐにプロで通用する技術やメンタリティを持っているなら18歳でプロに行ったほうが良い。でも、大半はそうではないのも事実です。だから、基本的にはプロを目指す選手は大学を選んだほうが良いと思っています。

大学サッカーのレベルの高さ

また、大学サッカーってレベルが高いです。そもそも高校サッカー、Jユースのトップクラスの選手が集まってきているので。選手権で活躍した選手、各都道府県の決勝準決勝に出たレベルの選手でも、大学サッカーをやらない選択肢を取る人は結構多いです。

どういうことかというと、本当にプロになりたいと思って“ラストステージ”として覚悟を持っている選手たちの集まりなんです。

それに加えて、大学サッカーのトップの選手は基本的にJ1、J2のクラブに即戦力として迎えられます。J1・J2で主力になる選手の予備軍がこぞっているわけです。4年生にまでなればJリーガーと遜色はない。そういう意味では、天皇杯の都道府県予選でJ3のクラブが大学に負けることもありますが、個人的には番狂わせ、ジャイアントキリングではないと思っています。

あとは、レベル感もちょうど良いんですよね。18歳の卒業後、Jクラブに入っても代表経験者がいたり外国人がいたりする中で、ポジションを取らなければいけない状況はしんどいです。

ただ、基本的に大学は広くて3歳差で年齢も22歳以下なので「このライバルとなら戦える、やれるな」と感じられると思います。外国人や代表選手がいる中でレギュラーを取るのは難しいけどその段階を一つ下げて、でもレベルがある程度高い中で公式戦を戦って成長できる。それが大学サッカーの良さだと思っています。

実際に、大学サッカーで試合経験を積んだU-20大学選抜と、Jリーガー中心のU-20代表が戦って前者が勝つ、みたいなこともあります。試合経験、真剣勝負の場数の差がここに現れるのかなと。際の部分の戦い方とか強度みたいなのは試合で覚えるので。試合勘は本当に大事です。

結果、「大学生の方がやれるよね」と、スカウト人たちも高卒よりも大卒に強く目を向けるようになってきた。

また、冒頭に話した三笘薫のように大学経由で活躍した選手が最近は増えているので、それを見た高校生は「大学という選択肢もありだな」と思っそちらを選ぶと。もうこの選択を取ることは珍しくない。

オフザピッチにおける成長

プラスして、人間関係構築力が育まれるのはなんやかんやで大きい。18歳まで高校サッカーだったりユースをやっていた子って接するコミュニティがかなり限定的だと思うんです。

Jユースの全国大会に出たり、代表に入ってればいろんなバックグラウンドを持ってる人と話すことがあると思うんですけども、それでも触れられる外部の人の数は多くはない。

でも、大学に入るとサッカー以外の学業でもいろんな活動をしている学生と出会えます。例えば学生団体でボランティアをしていたり、ビジネスを起こしたり、めちゃくちゃバイトしていたり……そういう多様な人種と触れ合える。そういった人たちとコミュニケーションをとることで、社会で生きていく能力は育まれると思っています。

また、部活をしながらバイトをする選手も多いですが、その中で大人と仕事でやり取りをすることで“社会で働く” “労働を知る” “社会の一員でる自覚が芽生える” という効果もあるのかなと。

結果、いろいろな年代と触れ合うことで社会で生きていく術が自然と身につく環境だと思うんですね。

プロになった後も、午前練習を終えて13時に終わって、22時に寝るとしても残り9時間をどう過ごすかという部分で大卒と高卒では差が出ると思います。外のコミュニティに出ていって誰かに会ったりとか、チームメートに声をかけどこかに行ったりすることは、高卒の選手ではなかなか難しいようにも思います。

でも、大学を経験してると、オフザピッチの人間関係形成能力みたいなものが育まれれる。サッカー選手に限ったことではないですが、これは大きいんじゃないかなと思っています。

最後に、もっとも大きな変化について話します。それは、大卒選手でも海外にいけるようになったこと。海外のマーケット、ヨーロッパのマーケットが開けて日本の大卒選手を見てくれるようになったのは大きいなと。

例えばベルギーへ行った坂元達裕選手や渡辺剛選手なんかもそうですし、三笘選手もそうですよね。これ、昔だったら例えば渡邉千真選手なんて1年目で13得点取ってるけど国内に残った。今だったら多分、海外に行ってると思うんです。これまで海外へ行くには高卒選手でなければ、という風潮がありましたが、大卒選手でも海外へ行きやすくなった。これはやっぱり大きいです。

というような感じでした。大学サッカーが盛り上がってきていますし、ぜひ注目してみてください。

さて、note版のオマケトピックです。

良質な選手を共有するという面で考えると「大学は3年がちょうど良い」という考えもあります。それはなぜか。

結構、大学3年生でピークが来る選手が多いんです。

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