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【浮体式洋上風力#4】浮体メーカー紹介②Principle Power Inc

前回までは浮体式洋上風力のメーカーであるBW Ideol社について解説しました。


今回は第二弾ということで、10年以上前から実際に浮体を浮かしているメーカーであるPrinciple Power社を紹介したいと思います。


②Principle Power Inc "WindFloat"

Principle Power社は会社の頭文字をとってPPI社ともいわれています。


PPI社の浮体概要

浮体は"WindFloat"という名前で、セミサブ型で3つの円筒型浮体によって浮かんでいます。


https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Diagram_of_Principle_Power%27s_WindFloat.jpg

会社HPによると、この浮体のメリットは以下の通りということです。


「WindFloat®」は、水深や海底の状態に左右されずに風力発電所を最適に配置することができ、より質の高い風力資源を持つ未開発の土地にアクセスでき、利害関係者や環境への影響を最小限に抑えることができます。

https://www.principlepower.com/windfloat


WindFloat®は、恒久的に係留される洋上風力発電用の半潜水型3柱式安定浮体式プラットフォームで、ダンピングプレートやスマートハルトリムシステムなど独自の性能向上機能を搭載しています。

WindFloat®は、構造物の軽量化、設置・運用時の物流簡素化を図りながら、優れた安定性能を実現するために特別に開発されました。
洋上での仮想的なピッチ・ヨーフリー性能により、カラムの1つに設置された既存の商用洋上風力発電機を、制御ソフトウェアにわずかな変更を加えるだけで使用することができます。
WindFloat®は、水深や海底の状態からプロジェクトの経済性を大きく切り離すことで、洋上風力発電所が最高の風資源にアクセスすることを可能にします。これにより、風力発電所は責任を持って設置され、環境と他の海洋利用者の両方への影響を最小限に抑えることができます。

https://www.principlepower.com/windfloat/the-windfloat-advantage

特徴的なのはスマートハルトリムシステムでしょうか。この円筒状の構造物には海水が入っていて、浮体の傾きに応じて中の海水量を調整することで傾きを調整し、転覆しないようにしているんですね。

これは一般的な船でもこういったシステムがあり、船の安定性確保や燃料消費量を最小化するための船の長さ方向の傾きの調整に役立っています。




日本の会社から出資を受けています


そして、実は東京ガス社が早くから目を付けており、この会社に出資しております。


東京ガス社は福島沖での浮体式洋上風力発電事業の検討も進めており、恐らくこの浮体が使用されるでしょう。




実績

色々と書いていますが、PPI社は技術面だけでなく実績も豊富です。
①すでに2011年に実証機をポルトガルで浮かべています(WindFloat 1)
②20年には巨大風車を乗せてポルトガル沖で運転を開始しています(WindFloat Atlantic PJ)
③23年4月の時点で、最も大きな風車(V164-9.5MW)を乗せた浮体で実際に発電させている(Kincardine  PJ)

それぞれのPJについて解説します。



WindFloat 1

WindFloat 1 プロジェクトは、②25MWのWindfloat Atrantic PJの実証施設として、2011 年にポルトガルの Póvoa do Varzim (ポヴォア・デ・ヴァルジン)沖合に配備されました。


浮体が配置された場所

2 MW の Vestas V-80 風力タービンを備えていました。

リスボン港で組み立てられたユニットはタグボートにて約 400 km 曳航され、最終的にポルトガルのアグサドゥラ沖 5 km に設置されました。

この技術実証プロジェクトは、浮体式風力タービンと半潜水型プラットフォームを組み合わせた初めてのプロジェクトでした。

5年間の実証試験中にWindFloat 1 は、高さ 17 m を超える波と 40 m/s を超える風を含む大西洋の極端な気象条件に耐えました。


出資者
PPI
EDP(ポルトガル電力公社)
レプソル
ポルトガル・ベンチャーズ
A.シルバ・マトス
 
サイト容量
2.0MW(2MW×1基)
 
設置時期
2011年~2016年(撤去済み)
 
構造
半潜水型プラットフォーム:Colmun 浮体基礎(φ8.2m x H23.2m×3本)コラム間隔を38mとして三角形に配置し、ガンウェイとトラス部材で接続
 
製作期間
・リスボン港での建設:2016-17年


WindFloat Atlantic

ポルトガルのヴィアナ ド カステロ沖合 20 km で稼働している 3 つの巨大な風力タービンは、海面から 185 m の高さに立っています。

これらの 8.4 MW の風力タービンは、3 つの WindFloat® プラットフォームの上に配置され、100 m 下の海底にカテナリー係留ラインで固定されています。

この革新的なプロジェクトは、半潜水型技術を使用する最初の本格的なプロジェクト、ヨーロッパ大陸で最初の浮体式風力発電所、銀行融資を確保する最初の浮体式風力発電所など、世界初がいくつもあります。

WindFloat Atlantic プロジェクトは、クリーンな再生可能エネルギーで 60,000 世帯に電力を供給しています。


出資者
Seawind、レプソル、プリンシパルパワーの3社、さらに欧州投資銀行などから6,000万ユーロの融資を受けている。
 
サイト容量
25MW(8.4MW×3基)
 
設置時期
2020年運転開始
 
概要
基地港湾であるフェロル港において半潜水型プラットフォーム基礎 (鋼製)を製作し、ドックで進水させた後、アッセンブリを行い、現地まで曳航して設置した。


浮体に風車を搭載して、丸ごと引っ張っていきます!
https://www.offshore-mag.com/renewable-energy/article/14188688/windfloat-atlantic-represents-major-offshore-wind-milestone

構造
半潜水型プラットフォーム:Colmun 浮体基礎(φ8.2m x H30.0m×3本)コラム間隔を65mとして三角形に配置し、ガンウェイとトラス部材で接続。


製作期間
・フェロル港での建設:2018-2019
・完成:2019年12月30日
・運転開始:2020年1月2日

設計上の特徴
・各コラムの下部に取り付けられた特許取得済みの WindFloat® ダンピング プレートは、波とタービンによって引き起こされる動きを最小限に抑え、プラットフォームを軽量に保ちながら、はるかに大きな構造であるかのように機能させます
・各柱の下部にバラスト タンクがあり、一時的な段階と運用段階の間でプラットフォームの喫水を調整できるため、システム全体を現場に牽引する前に、ほとんどの港に風力タービンを設置して試運転する柔軟性が得られます。海に出ると、これらのタンクは海水で満たされ、プラットフォームの運用ドラフトを達成し、全体の重心を下げ、安定性をさらに高めます。



Kicardine PJ(Phase 1/2)

Kincardine Offshore Windfarm(KOW)はPrinciple Power が開発している、2018 年から今まで運転の2MW実証機。

手続きの都合上、2018年に2MWタービンのみを設置(これがPhase 1)、その後2020年にさらに5基のタービン(9.5MW)を設置し、プロジェクト容量を50MWに引き上げました。


出資者
PILOT OFFSHORE RENEWABLES LIMITED
Cobra Wind International ltd
 
認証
American Bureau of Shipping, DNV
 
サイト容量
47.5MW(9.5MW×5基)
 
タービンメーカー
MHI-Vestas
 
タービンモデル
V164-9.5MW
 
海域
スコットランド、アバディーン沖北海
  
海岸からの距離
15 km
 
運転開始
2021年10月19日
 


まとめ


今回はPrinciple Power社の浮体を紹介しました。

PPI社は欧州での実績が豊富であり、日本においても東京ガス社が出資して福島沖でのプロジェクトが進んでいます。

恐らく日本近海においても近い将来にPPI社の浮体が浮かぶことでしょう。


私が思うPPI社のデメリットとしては、この浮体がかなり大きいことにあります。

浮体を製作するには大きな港が必要になりますが、PPI社の浮体は制作時の喫水(海に沈んでいる深さ)が10mを大きく超えてきます。

現時点で大きなフラットエリアがあってこのような深い喫水にも対応できる港は日本にはほとんどありません。

これはPPI社に限らない問題ですが…


日本の浮体式洋上風力は色んな課題が山積みで、この「港問題」はその中でも最も大きな課題の一つになります。

このあたりも近いうちに開設できればと思います。


引き続きよろしくお願いいたします!


Ren

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