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【浮体式洋上風力#6】続・浮体はなぜ流れていかないのか?

前回は浮体式洋上風力発電設備のキモとなる「係留」について解説しました。


今回も係留についてもう少し深堀したいと思います。具体的には、係留に使用される「係留索」の種類と、「アンカー」の種類についてです。


係留索の種類


浮体係留の係留索は船舶同様にチェーンを用いるのがこれまでの主流でしたが、価格、施工性等を考慮した材料も使用されています。

①鋼製チェーン

最も一般的に使用されるスタッドリンクチェーンは、使用期間中に何度も付け替えが必要な係留物に最もよく使われ、スタッドレスチェーンは永久係留物によく使用されます。

http://www.hamanaka-chain.co.jp/products/

②ワイヤーロープ

ワイヤロープはチェーンと比較すると、同じ破壊荷重に対して重量が少なく、弾力性があります。

③合成繊維ロープ

今後の大きなトレンドとしては係留索に合成繊維ロープを使用することが一般的になってきています。代表的な素材として、ポリエステルやナイロン、HMPE(超高分子量ポリエチレンロープ)があります。合成繊維ロープの主な利点は、軽量で弾力性に富む点で、係留システムの他の構成要素に接続するために、専用のスプールとシャックルで終端されます。

https://www.fiber-tokyorope.jp/products/cat/

合成繊維ロープは材料毎に特性が大きく変わります。

例えば「ポリエステル」であれば伸縮性があり、すでに石油業界での実績も豊富です。

「ナイロン」だと、ポリエステルよりも伸縮性があり、衝撃を吸収できるのではと期待されています。一方で劣化に弱く、10年もしないうちに交換しなければならないかもしれません。

また、「HMPE(超高分子量ポリエチレン)」というものもあり、こちらは水に浮くのに鉄よりも強い、まるで魔法のような材料です。

それぞれメリットデメリットがあり、それぞれの設置海域の海象条件や水深、浮体の種類、などなどから最適な係留索を選定することになります。


これから世界各国で浮体式洋上風力が普及していくとなると、この係留索は大量に必要になってきます。ただ現状は浮体式洋上風力に使われるような巨大なチェーンや係留索を製造できる工場は世界に片手で数えるほどしかなく、大きなボトルネックの一つになると見ています。

では続いて、アンカーの種類について解説します。


アンカーの種類

①ドラッグアンカー

現在、最も普及しているアンカーで、使用時は部分的または全体的に海底に貫入します。水平方向の大きな荷重に耐えるのには適していますが、垂直方向の力には弱く、大きな力で引っ張るとすっぽ抜けてしまいます(実際にその方法で撤去することになります)。

②杭式アンカー

このタイプのアンカーは、海底に杭(パイル)を深く埋め込むことで、浮体の安定性を確保します。杭式アンカーは高い固定力を持つ反面、コストや施工の難易度が高いため、プロジェクトの規模や環境条件に応じた適切な設計・計画が求められます

③サクションアンカー

サクションアンカーはコップを逆さにした形に似た形状であり、内部の海水を抜くことで負圧を生み出し、海底に設置されます。サクションアンカーは高い固定力と深海への適応力が特徴であり、浮体式洋上風力発電をはじめとする多くの海洋構造物に使用されています。設置や運用コストは高めですが、長期的な耐久性と環境影響の少なさから、近年の海洋プロジェクトで注目されるアンカー方式の一つです。

④重力式アンカー

重量そのものを利用して浮体や海洋構造物を海底に固定するアンカー方式の一種です。そのシンプルな構造と設置方法から、比較的浅い水深での利用に適しており、設置コストを抑えられる点が特徴です。一方で、風車の巨大化に伴い必要となる係留力も大きく、故に必要なアンカー重量も大きくなります。


まとめ

今回は係留索とアンカーについて簡単にまとめました。実際の係留設計においては、浮体の型式に加えて、サイトの気象海象条件や地盤条件、サプライチェーンや作業船のスペックなどによって制約条件が大きく異なります。そのため、プロジェクト特有の係留の組み合わせになり、非常に高度なエンジニアリング力が必要となります。





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