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二匹のマシンガンを追いかけて


今年も「THE SECOND」がはじまる。


先日、空港へ向かうために荷造りをしていた時のことだ。
普段はアパートから東京へ向かうのだが、今日の行き先は関西だ。朝一番の飛行機に乗るためには実家から向かった方が早い。玄関先で鞄を整理していると「今日はどこへ行くの?」と背中越しに母から声をかけられた。

奈良だよー橿原ってとこ、橿原ってどう行くの?伊丹から電車で1時間半ぐらいかなぁ、そっち泊まるの?いや明日仕事あるから、と答えると母から大層驚かれた。

「本当に好きなんだね。マシンガンズ」

確かにお笑いライブを2本立て続けに見て飛行機でとんぼ帰りとはなかなかの弾丸遠征だ。最近では当たり前になっていたから忘れていた。

昨年5月に開催された漫才トーナメント「THE SECOND」決勝から約10ヶ月。
この賞レースをきっかけに、2023年大会で準優勝したお笑いコンビ・マシンガンズのファンになり、ライブ現場に通う日々を送っている。


2人を知るにつれ、ハマった当初より好きになっている自分に気づく。
今回は1ファンから見たマシンガンズの魅力について、好き勝手に書いていけたらと思う。


ビジュ爆おじさんの正体

マシンガンズを好きになったきっかけについては、以前noteに書いたことがある。

100人にも満たない箱で初めてマシンガンズの漫才を見て、熱量に圧倒されたのを昨日のことのように覚えている。その後のファン対応も素晴らしく、単純な自分は”アイドル漫才師”として御輿を担ぐ決意をした。
しかし、様々なメディアやライブで2人を見ているうちに「別にこの人たちアイドルじゃないな…」と早々に思い直していた。

もちろん、マシンガンズのビジュアルは相変わらず好評だ。
昨年末、ファンからの熱い期待に応える形で「抱かれずにいられない」というタイトルの写真集を発売した。カメラマンは同じお笑い芸人のかが屋・加賀さんだ。この写真集はグラビアも売りのひとつで、滝沢さんはなんと47歳にしてお尻まで出している。

売れ行きは好調のようで、売上ランキングの上位に食い込んでいた。グラマラスな女性の表紙ばかりが並ぶ中、スーツ姿のおじさんがランクインする様子はなかなか異様な光景だ。


ただ、マシンガンズの最大の魅力はビジュアルではなくその人間性にある、と私は思う。
聖人君子という意味ではない。言うならば、知れば知るほど「人間臭い」のだ。

滝沢さんは、芸人とゴミ清掃員を兼業し、2020年には環境省より「サステナビリティ広報大使」に任命されている。世間一般ではゴミ清掃員としての印象の方が強いのかもしれない。
一度ゴミに関する講演を聴きに行ったことがあるが、90分間ノンストップで澱みなくユーモアを交えながら分かりやすく教える様は、まさに先生そのものだった。
また、トークだけではなく文才もあり、最近では小説の執筆活動で次々に結果を残している。

漫才中は叫ぶことも多いので粗野な印象を受けるかもしれないが、元々は勤勉な性格だ。大学時代のエピソードとして、親にお金を払ってもらってるからと、普通なら126単位で卒業できるところを226単位も取得したそうだ。

一方で経営者のようなバイタリティを兼ね備えており、自身の運営するごみクラブやマシンガンズを発展させていくためのアイデアを次々と実現している。
特筆すべきはその行動力だ。専門知識を持ってる人へ次々にアポイントを取り、周りの人をガンガン巻き込んでいく。アクティブの塊のような人だ。

…とここまで書くと非の打ち所がない超人に思えるかもしれないが、一方で予想もつかない言動をとることもある。狙ってないのにトリッキーな発言をして周りをポカンとさせることもしばしばだ。

そして、ひとつの笑いのためなら平気で自分の身を捧げてしまう型破りな一面もある。先日もスタジオで笑いを取るためにアクセル全開で突っ走り、勢いあまってコースアウト、なんてこともあった。
そんな滝沢さんだが、決して他人と感性がズレているというわけではなく、前述の失敗談を西堀さんにイジられると分かりやすく狼狽していた。そのギャップがいいのかもしれない。


一方の西堀さんは気遣いの人だ。ラジオを聞いても、直感的な滝沢さんに対して、全体のバランスを取る発言をしていることが多い。
そして人の変化によく気づく。会話の中でも相手の良いところを見つけるのが上手だ。古くからの友人である流れ星・ちゅうえいさんも「人を褒めるのがとにかく上手い」と太鼓判を押す。
また、私服も常にオシャレだ。昔は大層モテたんだろうなと余計なことを考えてしまう。

また、自身のインスタやXでの発信も積極的だ。
元々マメな性格なのだろう。初めこそ”マシンガンズバブル”と呼ばれるワーキャー人気に懐疑的だったが、今では毎日ファン向けに写真をあげたり、自身の出演する番組の前後で必ず宣伝している。

ハッシュタグの開発にもセンスが光る。「#嫁撮りおじさん」のタグは、都内の夜道を散歩している様子を奥様が撮影しているものだが、言葉の端々に愛妻家が滲み出てるのも微笑ましい。
先日も、給料日にいいお店で奥様とのディナーを報告してくれた時は、ファン一同顔を綻ばせた。


もちろんお笑いの実力も折り紙付きだ。
ライブのMCでは共演者への返しの速さやセンスもピカイチで、準優勝直後は、このまま順調にテレビのバラエティで売れていくんだろな、と思っていた。

ところがだ。実際テレビに出てみると、なんだか普段の西堀さんと違う。
スタジオでは借りてきた猫のように静かで、素人から見ても緊張しているのが分かる。それをMCの川島さんにイジられた時は、顔を真っ赤にして照れていた。
そんな西堀さんを初めて見た時は、驚いたのと同時に親近感が湧いたのを覚えている。

一方で、オードリーやタイムマシーン3号など気心の知れた旧友と共演するときはリラックスしており、楽しげな雰囲気がこちらまで伝わってくる。
あちこちオードリーで西堀さんがソロで出演した時は、若林さんの隣で他の共演者へ軽快なツッコミを入れていた。本領さえ発揮できれば、バラエティでも充分活躍できるに違いない。

仮に、才気溢れる若き天才ならもっと安心して応援できるのだろうが、きっと自分はここまで熱心に応援してなかったと思う。

完ペキじゃないけど、気さくで優しくて、たまにとびきりカッコいい。
マシンガンズの2人には、ほっとけない魅力があるのだ。


唯一無二のアドリブ漫才

その人間臭さは漫才にも現れている。
マシンガンズの漫才の特徴としてよく挙げられるのは、漫才中のアドリブの多さだ。
漫才と一口に言ってもボケツッコミの数や種類、フォーマットは芸人の数だけ無限に存在するが、最初の掴みから最後のオチまで台本で決まっているものが大半だ。

しかしマシンガンズの漫才は違う。
お決まりのネタ(くだり)を繋ぐ会話は、毎回全くの別物だ。会場のキャパや客層に応じて変化し、2人の軽快な会話で笑いが起きる。言い換えるなら「同じ漫才は2度と見られない」のだ。
本人達に言わせると、ネタを作るのが面倒だから雑談で時間を伸ばしているだけらしいが、毎回汗だくで目の前の客を笑わせている様子は、れっきとした漫才師だ。

滝沢さんは「マシンガンズのエンジン」のような存在で、ステージを縦横無尽に動き回り、時にはステージを降り、客席へマイクパフォーマンスを行う。さながらロックスターのようだ。
本人の調子がそのまま漫才へ反映されている。滝沢さんの言動で会場の笑いが増幅していくのだ。

一方の西堀さんは「マシンガンズのハンドル」。アドリブと本ネタを行き来する漫才スタイルにおいては、西堀さんがきっかけで脱線しはじめることが多い。悪ふざけでリミッターが外れるととんでもない方向へ行ってしまうのだ。
例えば、持ち時間が15分もある浅草東洋館では、金にシモにと平日の昼間からやりたい放題だ。
客席に背中を向けて笑いを堪えてる西堀さんが見られた日は、今日もいい漫才が見れたなと嬉しくなってしまう。

そして、2人とも客席の温度を察知する能力に長けている。
温かい会場ではのびのびと、重い会場ではもがきながら少しでも笑いを取ろうと必死だ。
なんと言っても賞レースの会場では、闘争心を剥き出しにして漫才を行うのだ。

今年2月に開催された「THE SECOND 選考会」は現地で見ることができた。
マシンガンズが出てきた瞬間、表情の違いにまず驚いた。今まで見てきた漫才はだいぶリラックスしていたことを思い知らされる。

6分への集中力が凄まじい。声量、テンポ、熱量すべてが圧倒的だ。Wツッコミという両翼がピッタリ重なると、とんでもない爆発力を生み出す。この人達の漫才は賞レース向きなんだな、と改めて思った。

ラッキーと追い風だけで、ガクテンソク、ランジャタイ、金属バット、三四郎…という実力派の漫才師を倒したわけではない。
その場の客を笑わせるために必死で漫才をした結果、勝つべくして勝ち、準優勝になったのだ。

皆で作り出す「マシンガンズ」

マシンガンズは客へ毒付くネタも多いが、それだけ客席をよく見ているということなのだろう。
全国各地のお笑いライブへ行って気づいたのだが、どの地域にもマシンガンズのパーカーやTシャツを身につけているファンが少なからず存在する。
以前、金属バット・友保さんが会場を埋め尽くすパーカーに「ゆるめの宗教」と評していたが、あながち間違ってはいない。

出演者全員と客がハイタッチできるようなライブでは、パーカーやTシャツを着ているファンを見つけて喜んでくれる。
もちろん話題作りもあるのだろうが、ファンの心を掴み、巻き込む力が凄いのだ。これも2人の器の大きさが成せる技なのだろう。

昔のやさぐれていたマシンガンズを知る旧友達からは今の変貌っぷりにファンごとイジられたりするが、それもご愛嬌だ。
マシンガンズのファンでいることは楽しい。インスタやXが更新される度に仲間と盛り上がり、テレビやラジオをリアルタイムで実況し、ライブで大笑いする。
その中心にはいつも楽しそうな2人がいる。

以前、ラジオでマシンガンズという船を一緒に漕いでほしい、と西堀さんが冗談まじりに言っていた。滝沢さんも事あるごとにファンへ意見を求める。
できる限りファンの意見を汲み取ろうとしてくれるので「マシンガンズ」を一緒に作ってる感覚になれるのだ。

そして、あれだけやらないと言ってきた単独ライブも、ファンの声に応える形で開催される事になった。
現実味がなかったが物販で購入したパンフレットをめくった瞬間、胸に込み上げるものがあった。
いよいよ待ちに待ったマシンガンズ2人だけのライブが始まるのだ。


「最初で最後」の単独ライブ

待ちに待った3月1日。逆光の中から明転すると、ポケットに両手を突っ込んで仁王立ちする滝沢さんと客席を食い入るように見つめる西堀さんがいた。
滝沢さんからの新衣装のサプライズもあり、黄色い歓声が湧き起こる。その声を噛み締めるような2人の表情が印象的だった。

ファンのための単独ライブ、というのは社交辞令ではなかった。
OPや幕間ではファンの撮影した写真を沢山使用し、アレンジした過去のネタと新ネタの7本を披露。十八番のWツッコミだけでなく、文学3部作と言われる「蜘蛛の糸」や西堀さんの演技力が光るようなネタも初めて見ることができた。
普段のアドリブ部分で笑いを取るスタイルではなく、台本のストレートな笑いをとっていく。
ベストアルバムのような漫才には、26年の積み重ねが感じられた。

500人の笑い声が響く。マシンガンズが好きな人だけが集まったよみうりホールは、とても幸せな空間だった。

売れてよかったなぁ。
興奮冷めあらぬ中打ち上げ会場の居酒屋へ向かう。友人達と歩いた並木道は、季節外れのイルミネーションで彩られ、浮き立つ心と共にキラキラと輝いていた。


歩きつづけるかぎり

毎週のように遠征をする日々が続いているせいか、いつの間にか私の周りではマシンガンズと私が紐づいているらしい。
友人の家では、マシンガンズがテレビに出る度に私の話題が上がるそうだ。別の友人から「これ知ってる?」と区の広報誌に載ったマシンガンズの画像が送られてきたこともある。
「奈良まで行かなくても近くに来るみたいだよ!」
通知を見ると母からのLINE。お笑いフェスのスクショだった。ありがとう、チケット買ったよと返した。

人を応援するということはつまり、その人と同じ夢を見るということだ。

以前、雑誌のインタビューで「THE SECONDのおかげで、お笑いの輪の中にいられて嬉しい」と2人は語っていた。
読んでいて胸が熱くなったのを覚えている。

今年も「THE SECOND」がはじまる。
賞レースで結果を残すことは、昨今のお笑いムーブの中では売れるための必須条件になりつつある。

マシンガンズを取り巻く環境は、準優勝という肩書きを手に入れた今、大きく変化している。
追う立場から追われる立場になることは、もしかしたら戦いにくい部分もあるのかもしれない。

しかし、メディア露出こそ格段に増えたが、比例するように漫才も加速度的に面白くなっている。
優勝してほしい。マシンガンズの漫才にはそのポテンシャルがある。そう信じてる。

“一生好き”でいるかは正直分からない。
確証のない約束をするのは、なんか不誠実な気がするからだ。

でも、これだけは言える。
マシンガンズがもっと売れて、ずっとお笑いの輪の中にいられますように。それが私の今の夢だ。


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