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#3 今月はケータリング強化月間なんです

初めて依頼をこなした日から数日後の夜、私は3件目の依頼場所へと向かっていた。ネットの生配信番組を制作しているADさんからの依頼で、顔出しありのエキストラ出演がその内容だった。

私は自分のレンタル人間ポリシーとして顔出しを可としているので引き受けることにした。事前に送られてきていた依頼詳細によると、依頼主は私の他に2〜3人のレンタル人間を集めていて、同時にエキストラ出演してほしいという。

指定された時刻に集合場所に着き、依頼主に控室へと案内されると、私が一番乗りでまだ他のレンタル人間はいなかった。しばらくして他のレンタル人間が2人やってきて、名乗る程度のお互いの簡単な自己紹介をしたところで、依頼主であるADさんから今日の流れの説明を受けた。

  • まず配信を行うスタジオで場当たり

  • その後控室で1時間半ほど待機(その間に生配信番組が開始)

  • ADさんの指示でまたスタジオへ移動して出番まで待機

  • キューが出たら配信に乗るので、カンペの指示に従って簡単な演技

  • 出番自体は5分もかからず終了

  • 終了次第、解散

事前の依頼詳細の通り、全部通して拘束2.5時間ほどの内容だった。

場当たりは「キューの合図はこれです」とか「カメラはこれです」「立ち位置のバミリはこれです」といった非常に簡単なもので、リハなどはなかった。エキストラなので構えずにアドリブで十分です、とのこと。

その後、控室での長い待機時間に入り、レンタル人間3人の雑談が始まった。私はまだ依頼3件目のペーペーなので話せることはなかったが、他二人はレンタル人間歴が先輩だったため、興味深く話を聞くことができた。

一人目Aさんはレンタル人間歴2年目(当時)の男性。
これまでの依頼は雑談や買い物代行などが多いと言っていた。

もう一人のBさんはレンタル人間歴3〜4年目(当時)の男性。
これまでの依頼は同じく雑談、あと同行などもたまに依頼があると言っていた。

それぞれの初依頼の話になった際、Aさんの話は正直失念してしまったが、Bさんの話が強烈だったので今でも覚えている。

Bさんの初依頼は、日本語が中級レベルで話せる外国籍の男性からの電話雑談だったという。「単身日本にやってきて友達もおらず、日本語の練習もしたいので話し相手になってほしい」。そういう依頼だった。

何回か電話で話し相手をしていたら(厳密に言えばこの時点ですでに初依頼ではないが)、依頼主が「自分は同性愛者である」とカミングアウトしたらしい。
それは別に個性なので、Bさんも気に留めず会話を続けていたら「あなたのプロフィール写真が好みなので、このまま電話口で致したい」と申し出たと言う。
Bさんが「それはさすがに…やり方もわからないし」と固辞すると、「私がリードするので聞いてきてくれるだけでいい」と依頼主。
結局、電話口で依頼主が一人で果てるのを聴き遂げた、というのがBさんのデビュー戦だった。

その後、その依頼主から「直接会いたい」という連絡があったらしいが、それは丁重にお断りしたとのこと。
Bさんとしては、当時はまだ新人で、依頼の断りポイントが掴めなかったから最後まで付き合ったけれども、今なら受けない、と言っていた。

そんな話で盛り上がっていると、スタジオへの移動時間になり待機。
出番のタイミングで、場当たりで言われた通りのキューが出て、レンタル人間たちの素人演技と顔が全国に5分弱配信され出番は終了となった。

また控室に戻ると、すぐにレンタル報酬(出演費)とお弁当がADさんから手渡された。お肉とうなぎが入った随分と豪華な内容だったので「いいお弁当ですね」と思わず言うと、「今月はケータリング強化月間で、いつもの予算の倍以上なんです」と返ってきた。

控室で食べる時間はなく、お弁当を片手に追い出されるようにスタジオを後にし、帰宅。

いただいたお弁当を調べてみたら、今日の自分の報酬よりもお弁当の方が高かった。とても美味しかった。

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