1人で気楽に野宿な旅 --台湾花嶼--
老闆娘:「あなた、今日一体どこに泊まるつもりなの?」
私 :「えっ!? あっ、、、はい、あっちの涼亭(ベンチ)」
老闆娘:「ふーん、なるほど」
こうして人生始めての野宿が決まった。何の準備もしていなかった。
この店が民宿だと踏んでいたのだが、、、
しかし、まあそんな大げさな話でもない。
ここ台湾離島の夏は、外で寝ても何の問題もない。涼亭の硬い木製ベンチで数時間横たわって寝るだけのこと。只ただ、楽しかったのでここに記す。
花嶼
2020年8月15,16日、島に渡ってから民宿を探したが、当てが外れた。涼亭の木製ベンチは硬く背中が痛かった。それでも疲れていたので、昼間の出来事を思い出しながらすぐ眠りに落ちた。
昼間の出来事 澎湖島馬公にて
花嶼には澎湖島の馬公港から船で来た。馬公では花嶼の船宿らしきところにTELを入れた。しかし、うまく言葉が通じない。
「宿泊、宿泊、予約、今晩」
などと言ってみるが全く通じない。
もちろん中国語で言っている。
電話口の向こうから
「ティヤーボ」
と聞こえてきた。
台湾語で「わからない」の意味だ。
仕方なく電話を切った。
島に渡る船の出航時間がせまっているので、行くか辞めるかを判断しなければならない。
島に宿が有るのか確信がもてないので街行く人にも聞いてみた。
「花嶼の民宿を予約したいが知っていますか?」
何人かに聞いたが皆同じことを言う
「花嶼に民宿はない」と。
まさか!そんなことはないだろう?
Facebookに船宿らしきページがある。民宿が無い訳ないだろう、船宿ぐらいあるだろう、と思った。
時間がないので下調べはやめて、とにかく港に向かって歩いた。
とにかく乗船する
埠頭では目星をつけておいた船に乗り込む。本当に花嶼に向かう船なのか少し確かめながら、周りの人についていく様な感じで乗り込んでいく。ちょうど一時間、花嶼の港についた。そこからはGoogleMAPだけをたよりに歩き始める。レンタルバイクでもあれば借りようと思ったのだが、そんなものは無かった。民宿の看板もない。観光産業を連想させる文字、商業的な看板は一切みかけなかった。
小さな島なので歩いてまわってもしれている。嶼の隅々まであるきまわった。もちろん民家の脇はなるべく避ける。嶼に大きな木は無い。低木と草の嶼。
私は離島に行くと必ずダムを確認する。しかし花嶼にダムらしきものは無い。水はどうしているのだろうか?低木草原の中を進む小道の脇に太い塩ビのパイプが横たわっていて水の流れる音がしている。多少の勾配はあるが、しかし、こんな平らなところでどこから水が来るのだろうか、不思議だ。
だんだん夕方になり台湾最西端にある灯台を見に行った。回転式ではなく点滅式だった。嶼の最西端であるにもかかわらず、反対側、しまの東側の海まで見通せる。フラットで低木しか無い特性のおかげだ。晴れた日にはきっと台湾本島の中央山脈や玉山もきっと見えるのだろう。ここに至る道には一切街路灯はなかった。ライトは持っていなかったので真っ暗になる前に人里にもどっていった。
夕方~日暮れ
歩き疲れて、嶼で唯一の売店である船長の店にやってきた。昼間に一度きたのでこの日二度目の来訪となった。嶼のおじさん、おばさんたちが台湾語で楽しそうにおしゃべりをしていた。
昼間と同じ質問をしてしまった。
私 :「なにか食べるものは無いですか?」
老闆娘:「ない」
と、昼間と同じ返事が帰ってきた。
しかし、店内のショーケースに粽子が入っているのが見えた。素朴な気持ちでそれを指さした。すると老闆娘は少し困った顔をした。おしゃべりしているおじさんおばさんたちの一人と少し話をしてから戻ってきた。粽子を食べられることになった。どうやらこの粽子は売り物ではなく、おしゃべりしていた内のひとりのおばさんのものだった様だ。大きな粽子2つをただで譲ってくれた。私はお礼を言って頂いた。本当に感謝だ。
この店が民宿または釣りの宿ではないかと期待していたが、冒頭のやりとりとなった。私は動揺を必死に隠した。馬公の街を行く人達の助言どおりだったのか、、、
涼亭で眠りに落ちるまでの僅かな時間でそんなことを思い出していた。
夜間~朝
嶼の夜はとても静かだった。波の音、風の音、虫の声、まれに走り去るバイクの音、それ以外は何も聞こえなかった。
不思議なことに、そんなに遠くない場所にあり、嶼の電力を賄う発電機の音さえなぜだか聞こえてこなかった。夜9時半頃には眠っていたと思うが、夜中の3時半頃に人の声で目を覚ました。漁の準備をしているのだろうか、、、。
私は不審者
起き上がってベンチに座りぼーっとしていると涼亭の脇を人が通る。そのとき人の気配を感じ、つまり私が居ることに異様な感覚をもったのか、立ち止まってのぞきこんできた。
私はすかさず
「早(ザオ)」
と朝の挨拶言葉をなげかけた。
それで安心したのか、その人も「早」と返してくれて通り過ぎていった。だんだん空が明るくなってきた。朝焼けを撮りに行ったが雲が多くてだめだった。
まあ、野宿と言っても特別なことはなかった。特別感動的な何かが有ったわけでもなかった。しかし、外の風に吹かれて眠った感覚は、花嶼の風景とともに台湾駐在生活の忘れられない記憶の一つとなった。
狙ったわけではなく、結果としての野宿。少し島の人に不安を与えてしまったかも知れない。次はやらない。
治安が良く、安全で、気候の良い台湾離島ならではの旅だった。忘れてしまう前に書き留めておこう。