深き森いざなう季節に森へ入る翳は
時の地図を片手に静かに合図を待つ
しかし狼は慟哭を忘れたのだ
君の後ろには亡霊も精霊も音を立てずに続く
森の深さに空も姿を見せることはない
ただ闇と気配だけがあった
巨大な岩の上では黒い影が舞を披露していた
翳は歩く
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あるく
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アルク
.
.
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と 一つの音が落ちていた。
拾われた音は翳の手の平で弾け 風に乗る
それは今までに聞いたことのない音だった
あるいは記憶の箱に入っていたのか
永遠のルウプと踊れど
それはいづれ化石になる時がくる
狼が過った
それに年を経た鹿の亡霊が続く
時を隔てた一瞬の幻に怯むな
鹿の亡霊は狼を恨んではいなかった
森の深きよ 翳の暗きよ
導き給え 足音
一筋の光が戯れ始める
目が醒めると風車が
カタカタと音を立てている
水溜りには天が映っていた
(2023年5月24日記)