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学びは遊びから!イナカ町が開く子どもたちのサードプレイス | 遊び場/ただのあそび場 秋田県南秋田郡五城目町(2020年掲載事例記事)

※本記事は、弊社旧ウェブサイト(rerererenovation!)からの移行記事です。2020.12.11に制作/更新されたもので、登場する人や場所の情報は、インタビュー当時のものです。



ただのあそび場ってどんなところ?

秋田空港から車で約1時間。南秋田郡五城目町(ごじょうめまち)は、豊かな海に囲まれた男鹿半島と、マタギの里としても知られる阿仁(あに)のちょうど中間にあることから、古来より海の幸と山の幸が集まる市の立つ町として栄えてきました。その歴史はなんと500年とも言われる五城目朝市は、0、2、5、7のつく日は市が立ち、現在も町民の生活を支えています。

主な産業は農業と林業、そして木材の加工業。かつては城下町として栄えたこの町は、企業誘致の一環として廃校になった小学校をサテライトオフィスや支社として活用するプロジェクト「五城目町地域活性化支援センター BABAME BASE(ババメベース)」が2013年にスタートしたのをきっかけに、全国から起業者が集まり、ビジネス、子育て、食、朝市のアップデートなど、多岐にわたる分野で、まちに新しい風を吹かせています。

「ただのあそび場」で過ごす子どもたち。まちの中心部に放課後のひとときを過ごす場所ができたことで、夕方のまちに子どもの声が響くようになった(提供:ただのあそび場)下左)朝市で有名な下タ町の朝市通り。まちの中心地に位置し、午前中は朝市でにぎわう。「ただのあそび場」ができてからは午後に子どもたちの元気な声が響くようになった(撮影:石倉 葵)
0、2、5、7のつく定期朝市の開催日のうちさらに日曜日にあたる日を「ごじょうめ朝市plus+」とし、朝市の風景はそのままに、若者出店や新たなチャレンジを応援するしくみをプラス。平均来場者数3,000人・平均出店70店舗が出店し、にぎわう(提供:五城目朝市わくわく盛り上げ隊)

ただのあそび場ができるまでのストーリー

STEP 01 こんな経緯で始まった

学校でも学童でもない、「サードプレイス」をみんなでつくる

まちの中心地である五城目朝市を子どもたちが駆け抜ける。「学校と家の間の徒歩圏内にサードプレイスをつくる必要性があった」と丑田さん(提供:ただのあそび場)
ハバタク株式会社代表の丑田俊輔さん。小3と2歳のお子さんを五城目で育てながら、週4-5日は五城目町、週1日は東京というのが基本の生活ペース。年4-5回は海外へ渡る。サンフランシスコ、ホーチミンにもスタッフが駐在する(撮影:石倉 葵)
壁に落書きしたってOKなぐらい自由な空間を大人にも、子どもにも。子どもたちが自分の足で行ける場所にサードプレイスをつくる試みが「ただのあそび場」だ(提供:ただのあそび場)


まちの中心地である朝市通りに「ただのあそび場」をオープンさせたのは、教育と人材育成を主たる事業とするハバタク株式会社の代表、丑田(うしだ)俊輔さん。アントレプレナーシップや社会課題の解決など多様な学びの場を国内外で経験する教育プログラムを学校や企業に提供しています。丑田さんが共同代表を務めるハバタクの本社がある東京都千代田区は、五城目町との姉妹都市。そんなご縁から五城目町と出会い、BABAME BASEをはじめとした町の環境や人に一目惚れし、家族で移住したのだそうです。

ハバタクの手掛ける領域の一つは「プレイフルラーニング」。ワクワクして没頭するような体験を豊かにすればするほど考える力や集中力、想像力が刺激されると言う丑田さんですが、一方で今の子どもたちをとりまく「あそび」の環境が窮屈なものになっているように感じたと言います。

「今の子どもたちは、あそび時間、とりわけ街なかや自然での遊びが減っているという調査結果があります。それにイナカは車社会ですから、友達同士で遊ぶといっても、親同士がLINEで連絡を取り合い、アポを取って車で送迎しないと遊べない。小学校の統廃合や少子化の影響や、社会情勢の影響も相まって、子どもたちが自然に集まって近所の空き地で遊ぶ、ということが案外できないんです。このまちは共働き率が非常に高いので、学童もつねに満員状態。学校と家以外の場所で、子どもたちが自分の足で行ける場所にサードプレイスをつくりたい。せっかくイナカに住んでいるわけだから、ハード面では巨額な資金はなくてもできるはずだと考えました。それが『ただのあそび場』の構想の発端です」と丑田さんは語ります。


STEP 02 物件との出会い

子どもの通学路内に、みんなのあそび場をつくる

「ただのあそび場」が入居する建物。向かって右側が「ただのあそび場」。向かって左のドアの向こう側は地域の女性がオープンさせたカフェ。「ごじょうめ朝市plus+」の時はこのにぎわい。
「ただのあそび場」入り口。空き店舗に活気が戻り、まちに波及していく。
リノベーション前の空き店舗。まちの中心地である朝市通りの入り口に位置し、町唯一の小学校からも徒歩15分程度のところにある(提供:すべてただのあそび場)


「あそび」を日常化するために、車社会で弱者になりがちな子どもを中心に、車を持たない人も自由に立ち寄れるところにつくるのは「ただのあそび場」の最も重要なポイントのひとつでした。丑田さんはまちの中心地である朝市通りで物件を探しましたが、最初はなかなかちょうどいいところが見つからなかったそうです。

「中心市街地の物件は借りるまでの関係性づくりが大変とは想像していましたが、加えて『ただのあそび場』なんて儲からないことをやろうなんていう怪しさもあったとは思います」と丑田さんは笑います。やがて、空き店舗を貸してもいいと言ってくれる現在の大家さんと出会い、手頃な値段で物件を借りることができました。

「『ただのあそび場』は、誰もが学校や会社の世間体や評価から離れて、今やってみたいことに没頭できる、自由な場所。いわば、誰かが始めた遊びに、誰かが乗っかってきて思いもよらぬ展開が生まれたり、出会った仲間とつるんでまちに飛び出しても良いような場所。一歩踏み込んで言えば、結果を求める場所にしないことが大事だったんです。儲からなさそうなこともやっていいし、遊びなんだから飽きちゃってもいい。そういう自由が相互承認される場所をつくるには、低予算であることが大前提でしたから、大家さんの承認は心強かった」と丑田さんは振り返ります。


STEP 03 超低予算+D.I.Y.でまずは「始めてみる」

つくり手と使い手の境をなくしてみんなでつくる

クラウドファンディングと補助金、自己資金の3つの財源から集めた改修費で床張り、壁塗りなどを実施。
子どもたちもチョークペイント塗りなど参加できるところは自分たちの手で場所づくりに参加。
地元の川村鉄工所がボランティアで取り付けたうんてい。地域の大人たちも積極的に参加して場づくりを進めた(提供すべて:ただのあそび場)


建物のリノベーションは、クラウドファンディングで110万円、新規事業開発の補助金で約100万円、そこに自己資金として100万円を上乗せした総額約310万円程度でスタートしたといいます。無料の施設を民間でオープンし、運営していくわけですから、事業計画としても大きな投資なしに、多くの人が関われる場所づくりが必要でした。

「大事なことは、豪華な遊具や設備もないし、何かあそび方が決まっているわけでもない、本当に『ただの』場所であるということです。なにもないところから、自分たちで自由にあそびをつくり、遊具もつくる。そういう空き地のような懐の深い場所をつくることが目的だったので、超低予算+D.I.Y.でまずは始めてみよう、と」と丑田さん。

D.I.Y.と遊具づくりはKUMIKI PROJECTの桑原憂貴さんと湊哲一さん(湊さんはミナトファニチャー代表でもある)を中心に、子どもをもつ地元のお母さんたち、県内の学生ボランティアなど多くの人たちの手によって行われました。空間ができてからも、地元の鉄工所が「この天井にうんていを付けたら、子どもたちが喜びそう」とうんていを加えるなど、地域の人たちが自然と関わって、あそび場が充実していったのだそうです。


STEP 04 無料施設を運営する方法を生む

マネタイズしにくい「ただの遊び」を運営するために

子どもたちでにぎわう「ただのあそび場」。1階はボルダリングの壁やはしご、うんていのほか、子どもたちが自分たちで取り付けたターザンロープもある。壁には落書き自由!(提供:ただのあそび場)
2階にはちゃぶ台が置かれている。子どもたちが宿題をしたり、大人がノマドワークをしたりするスペース。子どもと大人の付かず離れずの距離感が心地良い(提供:ただのあそび場)
同じ建物内にオープンしたカフェ。取材時は店主が産休中につき、カフェの開店を目指す若者が出店トライアルとして臨時カフェ「ミノルカフェ」をオープン、多くの町民で賑わっていた(撮影:石倉 葵)


「ただのあそび場」は多様な遊びが生まれる自由な空間でありながら、大人と子どもがゆるやかにつながれる、なんだか昭和の「空き地」のような良さがあります。でも、「ただ」の場所をどう運営しているのでしょうか。

「まず、この場所自体で大きな貨幣的利益を生まなくてもいいという前提から始めます。この建物はまちの遊休不動産である建物に、遊び場とカフェのほか、教育ベンチャーのG-experienceも入居しています」と丑田さん。テナントの複合化により、家賃負担を軽減だけでなく、子どもを迎えにきたお母さんたちがカフェでお茶をしていくなど、入居テナント同士でもポジティブな相互作用も生みだしているそうです。

また、「ただのあそび場」には固定のスタッフがいません。スタートアップの1年間はハバタクのスタッフが1名常駐したものの、その後の運営は地域の大人たちが自発的に行っています。地元のお母さんたち、入居テナントのスタッフや、ハバタクのメンバーをはじめフリーアドレスで仕事をする大人など、誰か大人が一人はその場にいて、子どもたちのことを見守る状況をつくるというゆるやかなかたちにシフトしていったそうです。

このように、地域のボランタリー経済を前提として固定支出を極小化した事業設計を行いながら、地域団体の貸し会場としての利用や、アートスクールなど遊びと学びをつなぐ有料プログラムを提供するなどして、収支をバランスさせているとのことです。

丑田さんはさらに中長期的な事業のビジョンも話してくださいました。

「主に二つの方向で考えています。一つ目は、ボランタリー経済とマネタリー経済の相互補完。例えば『ただのあそび場』があることで、お店や商店街の売上や賑わいが向上するかもしれない。また、あそび場が全国に自発的に増えていき、ある一定のクラスタ(同じ考え方を持つ集団)に対するアプローチがしやすくなることで、地域や企業のイベントやPRなどの仕掛けがしやすくなりますよね。そのために設計図や運営方法はオープンソース化し、どんな場所でも“ただのあそび場”化できるようにしました。

もう一つは、遊びからはじまるエコノミーの実証。『遊び』という目的や言語では表現しきれない営み、短期的に貨幣換算しにくい活動が、これからの時代に価値を増していくと考えています。学ぶことも、働くことも、地域や企業の未来も、遊びと溶け合っていく。一例として『遊び+学び』の領域を探究するプレイヤーはまだまだ多くないのが現状で、『ただのあそび場』の知見は、自社のさまざまな事業にも展開できることでしょう」


STEP 05 エリアに波及する

地域を学びで醸して「世界一子どもが育つまち」へ

子どもたちが「なぜ飛び出しはいけないのか」に自ら気づき、危険を回避したりルールを守る方法を自分たちで考えて実践したりしている様子が見られる(提供:ただのあそび場)
「ただのあそび場」の外には子どもたちがつくった立て看板や「とびだしきけん」の張り紙などがある(撮影:石倉 葵)
チョークペイントの壁の掃除も子どもたちとボランティアが行う。「自分たちのことは自分たちで」が基本(提供:ただのあそび場)


朝市通りは午後から車通りが増える場所でもあります。最初のうちは「子どもが飛び出してきて危ない」というクレームが入ることもあったとか。そんななか、子どもたち自らが「これをやったら危ないね」とお互いに話し合い、ルールづくりをする様子が見られるようになりました。「あそびのなかから学びが生まれるってまさにこういうことだと思うんです」と丑田さん。

丑田さんら移住者と、それに刺激を受けた地元の若い人たちを中心に起こっている五城目の一連のまちづくりは、近年全国から視察がやってくるほど注目の的。そのなかでよく言われるのが「強力なカリスマがいるのではなく、地域のプレイヤー一人ひとりが自発的に始めた動きが不思議とつながって良い連携プレーになっている」ということだと丑田さんは言います。

「五城目町には330年の歴史を誇る酒蔵『福禄寿』があります。米も水も人も地元産で酒造りをしながら、唯一無二のブランドとして全国に五城目町の存在をアピールできる稀有な存在。酒造りには『発酵』が欠かせないわけですが、発酵は人の手で促すことはできても、最終的には微生物が自らの生命力で発酵して酒ができます。それを教育という分野に置き換えると、あそびは水、学びは土。そこで咲く花がビジネスでも、カフェでも、パン屋でもなんでもいい。水と土を豊かにすることで、その土地ならではの試みが勝手にぽこぽこ生まれてくる。それこそが大事だと思っているんです」

「ただのあそび場」が目指したのは、日常から離れかけている「あそび」をもう一度日常に取り戻すことでした。グローバル化や、AI化が進む現代社会で、これから大切になるのが「あそび」なのだと丑田さんは言います。「ここから学び方や働き方、暮らし方の変化が生まれていけば、同じ悩みを抱える地方自治体の先行事例にもなり得ます。そのために遊具の設計図と立ち上げ〜運営の手引きはオープンにしています」と丑田さん。無料ではあるが、もはや「ただの」とは言えない可能性を秘めた「ただのあそび場」。まちのプレイヤーがまちづくりしたくてむずむずする、“あそびたくなる空気”を生み出す拠点になりつつあります。


(Writer 石倉 葵)

遊び場 ただのあそび場
秋田県南秋田郡五城目町下夕町59番地6
URL http://tadanoasobiba.jp/
運営 ハバタク株式会社