登攀
山を登れば太陽が嫌いになるくらい暑くて、雨が好きになるくらい降ってくる、風は吹雪くし、雲はとなりでだらしなく漂っている、夕焼けに染まった向こうの山はどんな神様が住んでいるんだろう、山小屋からみえる北斗七星を数えるのが好きだった、生きているからそれでいいんだと思えた、遠くのほうでゆれる砂粒のような光が懐かしく思えて愛おしかった、この光を瓶に閉じ込めれば百本の薔薇を贈るより、きみたちは笑顔になれると信じたから、信じてしまったから、山を登ってしまったから、もう、この世界で生きていくことが生きるということになっていた。
ああ、全身に満ちる一杯の水が
ただひたすらに今日を迎える。