日本株式の集中投資の現状と課題
涙腺の違う(もしくは、涙腺の無い)人には教えたくないシリーズ。
第2弾です。第1弾は こちら。
↑のノートでご紹介した本を著した、『山を動かす』研究会のメンバー、堀江貞之さんの論文です。
https://www.nri.com/jp/opinion/r_report/pdf/201203nenkin.pdf
この論文には2つの発見があります。
一つは堀江さんが野村系のシンクタンクに所属されているということ。論文で提言されているようなプロダクトが個人投資家向けに野村系の投信会社からは一切提供されていません。分かります、大きな組織では間尺に合いませんからね。とはいえ、こうした提言がなされることが野村グループの懐の深さなのかもしれません。
もう一つの発見は、この論文が発表された時期です。
2012年3月です。
コーポレートガバナンス・コードも、スチュワードシップ・コードも、『伊藤レポート』も世に出る前なんですよね。
さて、この論文のテーマは、日本の上場企業への「集中投資戦略」です。
私が自分のポートフォリオの中に組み込みたい、そう考える戦略は「長期企業価値評価型」であり「経営への積極関与型」です。この論文でもこの2つの戦略にフォーカスされています。
ちなみに、私のポートフォリオに組み入れているファンドで「長期企業価値評価型」の戦略の濃度が特に濃いと捉えているのが
です。
「経営への積極関与型」の戦略をベースにしていると捉えているのが
スパークス・日本株式スチュワードシップ・ファンド(愛称:対話の力)
です。
論文に戻りましょう。
「集中投資である理由」として以下の3点が挙げられています。
長期的な目線で持続的な成長が見込まれる会社を選別、丹念に調査して、リーズナブルな価格=株価で買い入れる、市場の評価が会社の本源的な価値を大きく超えている場合は売却する、そのような行動をするのが「長期企業価値評価型」戦略のマネジャーです。
「経営への積極関与型」戦略のマネジャーは、自らのエンゲージメントを通じて会社の本源的な価値を高めようとするわけです。
このようなマネジャーをどのように選ぶかについても言及されています。
集中投資のスキルセットは、株価ではなく、最終的には長期の企業業績を正確に見通す能力にある。
このような集中投資戦略の普及の条件についても論じられていますが、この戦略を支持する顧客=投資家の裾野を広げることの重要性が述べられています。とりわけ、印象的な個所があります。
ピーター・バーンスタインのコメントとのことです。資金の出し手、投資家の振る舞いが非常に重要ですね。
非常に読み応えのある論文だと感じましたので、私と涙腺が似ている個人投資家の皆さんにはぜひご一読を、とお勧めしたいと思います。
さて、この論文をきっかけに、日本株式のアクティブファンド(公募投信)について考えたことがあります。
どのような戦略を基に運用しているか、もっとハッキリと投信会社は示すべきではないか、ということです。「(どれくらいの期間を想定しているかは特段明示せず)ベンチマークを上回る運用を目指します」的なマネジャーと、「企業価値評価型」戦略のマネジャーは、行動原理、日々の行動が明らかに違うわけですし、「長期企業価値評価型運用をします」と堂々と宣言すれば良いのではないでしょうか。そういう意味で「長期企業価値評価型」という言葉がもっと広がるべきだと感じました。
もう一つ考えたのは、こうした戦略を実践するマネジャー、投信会社に対して投資家が支払う報酬、信託報酬のことです。こうした戦略のマネジャーは、ベンチマークをちょっと上回るように株価を睨みながら、短期目線で運用しているマネジャーと日々の活動内容が全く違っていることでしょう。より付加価値の高いサービスを提供しているように感じられます。そうしたことを考えると、「信託報酬は安ければ安いほどいいのだ」という考えは支持することができません。むしろ、相応の信託報酬を設定すべきだと感じます。なぜなら、「集中投資」戦略をしっかりと実践していくうえで、ファンドの規模は制約条件になるはずだからです。こうした戦略の実践には運用可能な金額の上限が現れます。パフォーマンスとの兼ね合いもありますが、多少のプレミアムの付いた信託報酬を正当化できるものと考えます。
この戦略を実践するマネジャーが続々と登場してほしいと思うのですが、それを理解して支持する「熱いオーブンの上で立ち続けることができる」投資家の裾野が広がらないと実現しないでしょう。ただ、まずは「長期企業価値評価型」戦略、これを実践している投信会社、マネジャーがもっと、もっと積極的に発信して他の戦略と区別して自らを語ってほしいと思います。
我々は「長期企業価値評価型」の投資戦略で運用しています!
と。