自分の作風や理想などを総合的に判断して、影響を受けたと言える作品を並べてみました。

略して総受け。

今回は少し趣向を変えて、僕が影響を受けた作品を媒体問わず紹介していきます。『好き』と『影響を受けた』は若干違うので、好きなだけの作品は省いています。ネタバレは極力控えつつ紹介しておりますので、安心して一文字ずつ舐めまわしてください。


1⃣小説

夏と花火と私の死体/乙一

僕が最初に読んだ小説です。初手で選ぶにしては『殺された少女の一人称』は些か癖がありますが、クラスメイトから借りたものだったので、当時の僕はこれがスタンダードとさえ思っていました。平易な言葉選びで、何かしら驚きを盛り込むという新田の基礎は、ここからきていると思います。

太陽の塔/森見登美彦

新田のママ。この作品が世に出ていなければ、僕が小説を書くこともなかったです。堅苦しい文章なのにコミカルで、偏屈極まりない。登場人物はどこか芝居がかっているのに人間臭く、灰色の中でたしかな輝きを放っている。物語の本筋とは関係のない文章を読むだけで楽しい、という読書体験は初めてでした。今でこそ森見登美彦さんの影響を受けたであろう文体を沢山見かけますが(僕もそうです)、やはり彼が綴る筆致は唯一無二だと思います。

鹿男あをによし/万城目学

新田の2人目のママ、思春期に浮上する新事実。壮大な法螺話をそれっぽく見せる天才こと万城目さんの二作目ですね。エンタメ小説に必要なものがぎっしり詰まった大傑作です。何度読み直したかわかりません。万城目学さんは前述した森見登美彦さんと共に『京都を焼け野原にした』と評される作家ですが、言い得て妙だと思います。僕はその上でテントを張り続け、いつの日かお二方に見つけてもらうのが大きな夢ですね。 

桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活/奥泉光

新田の3人目のママ、ついに明かされる複雑な家庭環境。ジャンルでいえば大学を舞台にしたユーモア・ミステリーでしょうか。ミステリー部分も好きなのですが、この作品の面白さはやはり日常パートでしょう。評価サイトでは地の文に対してやや辛口なレビューが目立ちますが、個人的にはめちゃくちゃ面白いと思います。ケチで偏屈で小物の主人公がいい味出してるんですよね。激安スーパーや無料食材を駆使して涙ぐましい節約(読む側は愉快でしかない)を強いられるシーンなんて、ずっと読んでいられますね。

万事快調〈オール・グリーンズ〉/波木銅

第28回松本清張賞受賞作、女子高生が校舎で大麻を栽培するという、えらくインモラルでやたらとサブカルワードが飛び交う変な青春モノです。選考委員の森絵都さんが述べた『粗の多い作品だとは思う。巧いとは一度も感じなかった。が、際立って面白かったのは事実なので授賞に賛成した。』という選評通り、誰の視点なのかわからなかったり、時系列が突然飛んだりと、僕の目から見ても上手いとは言えない。けれど文句なしに面白かったです。小説で大事なのは小手先の技術ではなく面白さなのだと、改めて気づかされました。あと、不意打ちのように襲い来るボケも好きでしたね。

タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース/窪 美澄

最近読んだ中で一番やられました。時代の吹き溜まりと化した団地を舞台にした姉妹の物語。常に不穏さを孕むストーリーラインから滲み出るやさしさが絶妙なんですよね。貧困や差別といった重苦しいリアルに胸を痛めつつも、幸せな読後感が待ち受ける。そんな作品です。僕も優しく在りたい。

2⃣漫画

セトウツミ/此元和津也

基本的には、男子高校生が放課後に河原で喋るだけ。それなのに笑える。作中で飛び交う冗長になりすぎないボケとツッコミがとにかく秀逸。そしてただ面白いことを言い合うだけでなく、伏線もしっかり回収して笑いに繋げる構成の巧さも勉強になりました。コメディパートで悩んでいる方は、一度触れてみてほしい漫画だと思っています。ちなみに作者は、怒涛の複線回収で話題になったアニメ『オッドタクシー』の脚本も書いておられます。多才。

ぐらんぶる/井上堅二原作・吉岡公威作画

セトウツミが掛け合いの上手さなら、こちらは空気づくりの上手さ。大学のダイビングサークルが舞台なものの、ダイビングシーンはあまりなく、とにかく男子大学生のお馬鹿なノリが際立っています。ライトノベルのコメディはもちろん会話劇も大事ですが、面白いシチュエーションを用意してあげるのも同じくらい重要ですし、そもそも原作がバカテスの作者なので読んで損はないかと思います。でも未成年飲酒はやめましょう。

正反対な君と僕/阿賀沢紅茶

タイトル通り、地味な男の子とギャルの女の子がイチャコラするラブコメ漫画。こう書くと量産型の漫画みたいですが、思春期の頃に誰もが抱えたであろう名前も知らないモヤモヤの解像度がバチクソに高いです。感情の教科書。あと、この手のラブコメ漫画はサブキャラクターが『主人公カップルの背中を押すだけの役割』に留まりがちですが、この漫画は全員のキャラクターが立っているので、もれなく好きになってしまいます。西さん可愛すぎる。

まったく最近の探偵ときたら/五十嵐正邦

顔芸と異次元のツッコミ。「鏡の中の羅生門か?」なんてワード、どうやって思いつくんだ。前述したセトウツミと違い、流れるような会話劇というよりも「そのワード使いたかっただけやろ」と言いたくなる笑いの作り方なので、小説でそのまま取り込むのは難しいかもしれませんが(違和感がないシチュエーションを逆算で用意する構成力が必須になるので)、うまく扱えたらとんでもない武器になるかと思います。

RAVE/真島ヒロ

ば、ば、バイブル―! 僕は異世界ファンタジーを書くのが苦手なので、影響を受けたかどうかは微妙なラインですが『何者でもなかった少年が特別な力に目覚め、謎の美少女と出会い、世界を守るため冒険する物語』なんて男の子は全員好きでしょ。なんだかんだ王道はいつ読んでも面白いんですよ。そりゃエリーのおっぱい拝みてえよ。僕は一時期、オリジナリティを追及してとんでもない方向に走っていたのですが、王道路線に戻れてよかったなと心から思っています。

3⃣アニメ

ぼっち・ざ・ろっく!

あらゆる面で凄すぎて、毎週ひれ伏すしかなかった作品。超が付くほどわかりやすいストーリーラインと、陰キャというアイデンティティを活かしたまま最後まで駆け抜けるブレのなさ。そして、あざといくらいエモい雰囲気作り。パッケージが完璧すぎて「令和のエンタメはこう売るんだよ」と頬を殴られた気分になりました。バンド周りはリアルではなくリアリティといった印象ですが、アニメという媒体を考えると、限界値までライブシーンに寄せた文句なしの作りだと思います。あとメインの4人をどんなセットにしても機能する点も光ってますよね。

ゾンビランドサガ

現代のエンタメはいかに新しい組み合わせを探すかだと思いますが、このアニメは『ゾンビとご当地アイドル(しかも佐賀)』というくじ引きで決めたような組み合わせで大成功を収めた傑作です。その要因としては、ゾンビ・アイドル・佐賀県の三つを『死』『後がない』という共通項で結び、そこから『復活』『目覚め』といった真逆の要素でひっくり返すカタルシスが強いからだと睨んでいます(佐賀県の方々、誠に申し訳ありません)。間違いなく、東京や大阪が舞台だと成立しなかったアニメでしょう。無駄にならない題材選びって大事ですね。

フタコイ オルタナティブ

どうやってたどり着いたのか覚えてない作品。昔あった『双恋』という読者企画のスピンオフアニメらしく、なんかやたらと双子が多い。スラップスティックな展開で主要人物を掘り下げる1話、日常に落ちている優しさや切なさを拾い集めるような2話〜5話、ゆるやかな崩壊とままならない現実を突きつける6話〜9話に、街を破壊するイカ型人造人間と戦う10話〜13話と急展開にも程がある構成。でもね、めちゃくちゃいいんですよ。『エモい』という言葉が今の意味ではまだ無かった時代のエモさが全編に溢れてます。最近は『パターン化されたエモ』みたいに冷笑されがちな概念ですが、良いものは色あせないので、生産性のない批判は無視して、好きならばバンバン取り入れるべきだと思います。

色づく世界の明日から

先週観たばかりなので、まだ影響は作品に現れていませんが、いずれ出ます。そう断言できるくらい良かったです。『予想できない面白さ』も好きなんですけど『予想できる面白さ』も同じくらい好きなんですよね。周囲との別れが最初から定められた環境で、主人公が成長し、恋をする……お前ふざけんなよと。そんなもん切ないラストに決まってるやろと。終盤へ向かうにつれ、揺れ動く各々の感情に泣かされました。俺だって瞳美に紙飛行機を飛ばされたい。あと、青春の濃度がむせかえるほど高いのもいいですね。個人的に名作といえる青春モノって、主人公が全力で走っている気がします。

宇宙パトロールルル子

影響というよりも理想。このアニメは荒唐無稽のドタバタハイテンションSFラブコメディ?って感じなんですけど、なんかよくわからないけど熱くて、なんかよくわからないけど感動する。本当によくわからないアニメなんですよ。でも、こういう作品をいつか書き上げたい。今の僕はまだひよっこなので、創作論だの感情術だのをこねくり回していますが、熱量で押し切れる作品が書けたら引退してもいいかなって思ってます。だって、理屈抜きで面白いって最強じゃないですか。

4⃣映画

きっと、うまくいく

エンタメ映画の大大大傑作。友情、ダンス、恋愛、努力、笑い、驚き、ダンス、挫折、爽快感、目的の達成と、3時間弱の中に必要なものが全部詰まっています。「インド映画って、むさくるしい人が踊るやつでしょ? ナートゥ? 存じねえよ」と偏見を持っている人にこそ観てほしい。いや、しっかり踊るんですけどね。僕の作風は娯楽の提供なので、この映画が目指すべき到達点です。

ミスト

言わずと知れた胸糞映画界のトップランカー、悪夢のイクイノックス。とはいえ僕が影響を受けたのは大枠の流れではなく、途中で出てくるカルトなおばさんです(影響を受けたと言うと語弊はあるが)。パニック映画ではわりと定番の流れなんですけど、極限状態に陥ると明らかにおかしな人間にもカリスマ性って宿りますよね。普通の環境で変に持ち上げると「現実的でない」と切り捨てられますが、こういうシチュエーションを用意してあげるだけで同じ行動でも説得力が段違いに増します。ハリボテの神でも縋りたくなる。僕はキャラクターの行動原理と整合性の取れた展開作りを重視しているので、改めて勉強になった映画でした。

青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない

可愛いロリを苦しめるのは禁止カードです。それはさておき、各々が相手のことを考えた末に自己犠牲を選び……という構図は胸が痛みますね。でも、ハッピーエンドに至るなら登場人物をどれだけ苦しめてもいいと思っています。最近はどん底まで落とす物語を書いていないので、新作を書く機会があれば徹底的にやりたい。でもロリは悲しませないぞ。


ひとまず以上です。どの媒体も本当はもっとありますが、文字数が爆増するのでこのあたりで止めておきます。もし気になる作品があれば、ぜひとも触れてみてください!

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