奈落のはてのキャロル 3話脚本

①2話ラストシーンの続き。
キャロルに鉄パイプを振りかざす銀髪の少女。
間一髪のところで、割り込んだカグラが肩で鉄パイプを受け止める。
カグラ「――くっ…」

カグラが肩を押さえ蹲る。キャロルは車椅子に座りながら屈むようにして様子を窺う。
キャロル「おにーさん、大丈夫?」
カグラ「ああ…」

カグラ(数発程度なら上腕で受けられるが…)(少しズレたら鎖骨が折れちまう)

カグラ、メスを構えて銀髪の少女と対峙。
カグラ「それでも…やるしかねえな」

キャロル、不安そうな表情で畳み掛ける。
キャロル「え、おにーさん強くないよね?」「これはジャンケンじゃないよ? フツーに殺されちゃうよ?」
カグラ「士気が下がることを言うな!」

カグラ、銀髪の少女に切りかかろうとする。
カグラ「上の連中はな、鉄パイプより強い魔道具を使うんだ」「この程度で死ぬなら、上を目指しても同じこ」

カグラの頬に鉄パイプがクリーンヒットする。
カグラ「と」

カグラ、キャロルの足元まで吹っ飛ばされる。キャロルは呆れたように呟く。
キャロル「ホントに喧嘩慣れしてないんだね…」
カグラ「…自慢じゃないが、したことねえよ…」

キャロル、車椅子を自分で動かして前に出る。
キャロル「仕方ないなあ」
カグラ「…その身体じゃ無理だ!」
キャロル「大丈夫、作戦はあるから」

キャロル、満面の笑みで中指を立てて銀髪の少女を挑発する。カグラはやや引き気味に。
キャロル「ねえ銀髪ちゃん、いつも私たちに突っかかってくるけどさ… 勝ったコトあったっけ?」「あ、でも何言ってもわかんないか 頭の中にゲロと残飯しか詰まってないし、まともに喋れないもんねッ」
カグラ(なんだこの煽り性能は…)

銀髪の少女、歯を食いしばる。力が強すぎて歯が欠ける音が鳴る。
そしてキャロルの頭に鉄パイプが振り下ろされる。
銀髪「ああし、ばあじゃないッ!」

キャロル、身をよじるようにして上腕で鉄パイプを受ける。
キャロル「いっ…」
カグラ「大丈夫か!?」

キャロル、にやりと笑いながら。
キャロル「うん、おにーさんの受け方を見たから」「ここなら大丈夫っぽいね」

カグラ、驚きを隠せない表情で。
カグラ(…なるほど、あの挑発は頭部への振り下ろしを誘うためか…!)(怒れば怒るほど攻撃は雑に かつ急所を狙うようになる)

銀髪の少女の猛攻により、キャロルは防戦一方に。
カグラ(だが、このままじゃジリ貧だ)(なんとかして、俺が隙を見つけて反撃しなけれ)

カグラ、銀髪の少女に飛びかかるが鉄パイプで殴られる。
カグラ「ば」

キャロル、派手に倒されたカグラに生暖かい視線を注ぎながら。
キャロル「…おにーさん、適材適所ってあるからさ?」
カグラ「…そ、そうだな」

その隙を狙い、銀髪の少女がキャロルの頭部に鉄パイプをフルスイング。直撃してしまう。
キャロル「――ッ!」
カグラ「キャロル!」

反動で浮き上がったキャロルの顎に、二発目が直撃。キャロルは脳震盪を起こし、車椅子から剥がれるように倒れる。
キャロル「…」

カグラ(まずい、脳震盪は精神力でどうにかなる問題じゃない)(このままでは…)
カグラ「クソ!」

カグラは銀髪の少女の足元にしがみつくが、鉄パイプで何度も攻撃され流血する。
銀髪「いねいねいねいねいね!」
カグラ「うっ…がぁっ…!」

カグラ(ダメだ…意識が…朦朧としてきた…)(何をやってるんだ俺は…)

銀髪の少女は鉄パイプを振りかざし、最後の一撃をカグラに浴びせようとする。
銀髪「あぁぁぁぁぁッ!」

カグラは目を閉じるが、痛みが襲ってこない。
不審に思ったカグラは、恐る恐る目を開く。
カグラ「…?」

銀髪の少女が吹っ飛ばされ、壁に激突している。そしてカグラとキャロルを守るように、クシーが力強い瞳で立っている。
カグラ「…クシー、なのか?」

キャロルが笑いながら目を覚まし、口元の涎を拭う。
キャロル「意識トばされたときはヤバかったけど なんとか間に合ったね」「クシーちゃん、起動完了だよ」
カグラ「…まさか、ずっとクシーに魔力を流していたのか!?」

キャロル、平然と言い放つ。カグラは畏怖を乗せた視線でキャロルを見る。
キャロル「うん、あの銀髪ちゃんが侵入してきた時から」「魔力って遠隔で使えるから便利だねえ」
カグラ「…嘘、だろ」
カグラ(じゃあ片手間で機転を利かせ、攻撃を凌いでたのか…?)

キャロルは優しげな眼差しをクシーに向け、問いかける。クシーは人差し指を唇に当て、上を向いて考える。
キャロル「クシーちゃん、お目覚めの気分はどんな感じ?」
クシー「んー…」

クシー、花畑の中で微笑むように。
クシー「最高だよっ、キャロルちゃん!」「身体も軽いし、お腹も減らない気がする!」

カグラ、得体の知れない寒気に襲われながら。
カグラ(死体が動くだけでも大成功なのに、記憶を保持したまま自律思考だと!?)(こんなの、生命の理を逸脱している…)

クシー、買い物に行くかのような足取りで銀髪の少女へと近づく。
クシー「じゃ、まずはお仕置してくるね」
キャロル「うん、いってらー」

カグラのモノローグを背景に、クシーが銀髪の少女に飛びかかる。
カグラ(なんだ、この少女は…)

カグラのモノローグを背景に、同じ構図でクシーが銀髪の少女の首をねじ切るように折る。
カグラ(なんなんだ、この姉妹は…ッ!)

カグラ、目を瞑るキャロルとクシーをイメージしながら。
カグラ(膨大な魔力を得た使用者(キャロル)に、天武の才を有したまま入れ物になった魔道具(クシー)…)(最上層でもそうお目にかかれない組み合わせだが…)

クシー、返り血を拭いながら脱力した表情でキャロルに近づく。キャロルも自然体で会話。
クシー「クララちゃんも懲りないねえ」
キャロル「その子、そんな名前だったんだね」
クシー「もう、人の名前はちゃんと覚えなよ」
キャロル「覚えても意味ないじゃん、すぐ死ぬんだから」
クシー「私だって死んじゃってるのに?」

クシーはそのままキャロルの上半身を抱きしめ、慈しむように目を瞑る。黒塗りの背景の中で、キャロルとクシーの二人だけが華やかに映る。
クシー「それよりキャロルちゃん」「ちゃんと私を食べてくれて、ありがとう」
キャロル「へへ、思ってた形とは違ったけどねえ」「これでまた、二人で生きていけるねッ?」

カグラ、二人の歪な影から目を背けるように俯く。
カグラ(…あまりにも、歪で危うい)

②“最下層”東区
病院跡地の外へ出た三人。
クシーはキャロルの車椅子を押し、カグラに声を掛ける。
クシー「さて、カグラさん 目的は全てキャロルちゃんの魔力から聞きました」「相手が油断しているうちに行っちゃいましょう」

カグラ、戸惑いながら問う。
カグラ「行くってどこに…」

キャロル、上機嫌な様子で。背景には関所の扉のイメージ図。
キャロル「え、関所しかないじゃん 扉なんて叩けば開くでしょ」「誰か出てきた瞬間にぶっ殺して そのまま下層に突入しようよ」
カグラ「策もクソも無いな…」

キャロル、弾けるような笑顔でカグラに手を伸ばす。
キャロル「そんなの、今の私たちには必要ないよ」「いこ、おにーさん!」

カグラ、名前を覚えられていない理由を知り、複雑な表情で頷く。
カグラ「あぁ…」
カグラ(おにーさん、か…)

歩き出す一行を前から映した図。カグラはキャロルとクシーのやや後方をついて歩くように。
キャロル「そうだ、出発前にメカおじのお墓でも立てようよ」
クシー「そうだね。豪華なお墓にはできないけど」
キャロル「大丈夫だよ 気持ちさえ込めておけば、鼻水垂らして喜ぶと思うし」
クシー「…そのスタンスで気持ちって込もるのかなあ」

微笑むキャロルの口元がアップになる。
唇の端から、一滴の血がだらりと垂れ落ちる。
キャロルは違和感を覚え、手の甲で拭く。
キャロル「…?」

次の瞬間、キャロルが大量の血を吐く。
キャロル「――ッ」
クシー「キャロルちゃん!?」

カグラ、血相を変えてキャロルの元へ。
カグラ(なんだ!? 拒絶反応か!?)(しかし、キャロルのケースで吐血の事例は…)
カグラ「とにかく、病院に戻るぞ!」
クシー「は、はい!」

カグラ(クソッ、頼む…)(ただの疲労であってくれ…!)

③“最下層”東区 病院跡地
ベッドで横になったキャロルが、ゆっくりと目を覚ます。
キャロル「…あれ、ここは…」

クシーとカグラ、意識を取り戻したキャロルに駆け寄り安堵の息を漏らす。
カグラ「良かった、無事だったか」
クシー「キャロルちゃん大丈夫?」「何も変なところない?」
キャロル「え、私…どうしちゃったの?」

カグラ、キャロルをからかうように。
カグラ「血を吐いて、二日ほど寝込んでたんだよ」「ったく…威勢のいい事を言っておきながら」

キャロル、カグラを手で宥める。
キャロル「ごめんごめん、おにーさん」「なんか突然、電池が切れたみたいになっちゃって…もう大丈夫だから」

クシー、ぐっと背筋を伸ばして提案。キャロルは朗らかに答えながら。
クシー「じゃ、メカおじのところに行こっか」
キャロル「そうだねえ」「あれでも恩人だし、出発の挨拶くらいはしなくっちゃ」
クシー「うん」「しっかりお墓を作ってあげようね」

キャロル、不思議そうに目をぱちくりとさせる。
キャロル「…お墓って、誰の?」「メカおじはまだ生きてるじゃん」
クシー「…キャロルちゃん?」

カグラ、何かに気づく。クシーは結論を急かすように。
カグラ「…そうか、そういうことか」
クシー「どういうことですか?」
カグラ「クシーの臓器で魔力は操れるが、脳はキャロルのままだ」「不慣れな力を使うためには モーターをスペック以上に回転させる必要がある…」

カグラ、たどり着いた結論を述べる。
黒塗りの背景に吹き出しだけを置くコマ。
カグラ「魔力を流せば流すほど、キャロルの脳が少しずつ焼き切れる…」「クシーを動かせば…色々な障害が現れるってことだ」

いいなと思ったら応援しよう!