北の海賊ヴァイキング〜vol.13『余暇と娯楽』〜
こんにちは、北欧情報メディアNorrの管理運営兼ライターをやっております、松木蓮です。普段はデンマークの大学院に籍を置きつつも、北欧に関する発信をしています。
今回の連載ブログは、「北の海賊ヴァイキング」と称して、書籍に基づいて彼らの歴史を紐解いていこうと思います。参考文献は「Viking Age: Everyday life during the extraordinary era of the norsemen」です。2019年の夏、ノルウェーの首都オスロにあるヴァイキング船博物館にて購入した一冊です。
今回は参考文献の第6章「Recreational Life」より、「ヴァイキング達の余暇と娯楽」について見ていきます。情報量が少なめの短い回になりそうです。
↑ヴァイキング船博物館(オスロ)にて
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これまでヴァイキング達の対外政策(イギリス都市建設やアイスランド入植など)について見てきました。今回は打って変わって彼らの国内での娯楽が主なテーマです。
現在の北欧諸国は余白の時間が多いと表現されるように、比較的娯楽や自己投資への可処分時間が相対的に多いです。気候的な要因から、インテリアが充実し、今に見る世界的なインテリアブランドが北欧諸国でいくつも生まれています。娯楽においてもデンマークのLEGOに代表されるように、室内でいかにして楽しむかには目を向けられるポイントです。
屋外においては、ウィンタースポーツが盛んで、人口550万人ほどのノルウェーは冬季五輪において世界一の総メダル獲得数を誇るなど数字でも結果が出ています。
さて、そんな北欧を1000年以上前に生きた先人達はどんなことを娯楽として楽しんでいたいたのでしょうか?現在との共通点はあるのでしょうか?
▼ヴァイキング達の娯楽
娯楽を大きく2種類に分類します。屋外と屋内です。それぞれどんな娯楽を楽しんでいたのか見ていきます。
▼屋外の嗜み
屋外での娯楽として、スポーツが深く関わっていたようです。アイスランドのサガなどに記録されているように、肉体的な強さを競うことが多かったそう。
略奪時に敵軍を打ち負かすために、武器のトレーニング(剣の使い方など)をする人は多かったですし、他にも弓矢(アーチェリー)や槍投げなども盛んに行われていました。
弓矢の練習をする様子
画像:Vikings
他に力比べとしてレスリング、腕相撲、重い石を持ち上げる競技などがありました。敏捷性や平衡感覚などとして山登り、船と船を飛び回る(義経の八艘跳びみたいなイメージに近いと思います)ことで比べ合っていたとか。
スキーやスケートはウィンタースポーツとして楽しまれていました。いつかの章でも取り上げたように、氷上の交通手段としても使われていました。
今でいう競馬や騎馬のような娯楽も楽しまれていました。ルールは不明確ですが、馬に乗って競い合ったという記録もあるようです。
そして、狩猟も盛んでした。娯楽というよりも生活の一部としての意味合いが強かったはずですが、海鳥を撃ち落としたり、鹿や野ウサギなどは食肉として、狐は毛皮として重要でした。
球技についてはホッケーに近いスポーツがアイスランドにて行われていたとされています。
▼屋内の嗜み
屋内ではタフル(tafl)という戦略的ボードゲームがとりわけ楽しまれていました。
Source: Play Hnefatafl Online
史料は少ないにしろ音楽やダンスも娯楽の一部として楽しまれていました。音楽に関するスキルは教養のある人のものとされていて、祭事(特に婚約)の時に演奏されていました。
一番典型的な娯楽(=気晴らし)は宴会だったようです。労働の小休止や肉体的な休息の時間として楽しまれていました。季節の祭事や祝賀の意味合いもあり、伝統的には異教徒に犠牲に捧げることで執り行っていました。
キリスト教へ改宗したリーダーはこれを廃止する流れに持っていき、ヴァイキングらの祭事や祝賀イベントはキリスト教の聖人らの宴会へと意味が変わるようになります。つまり、クリスマスやイースター、ミッドサマー(夏至祭)などです。
クリスマスは今でも北欧で祝われますが、元々冬至に行われたお祭りの名前Yuleにその名残があります。このため、北欧ではいまだにクリスマスを「Jul(ユール)」と呼びます。
宴会ではお酒がつきもので、浴びるように飲んでいたと言われています。これは今の北欧人たちにも共通することですね。動物の角をくり抜いてコップ替わりにして飲んでいたのですが、飲むのを拒否すると罰として追加で注がれていたりと、その飲みっぷりが垣間見れます。
画像:Vikings
▼この章のまとめ
自明ですが、今のような娯楽は西暦1000年前後にはありませんでした。外であっても、肉体的な強さを競い合ったりとこれはヴァイキングとしての強さにも結びつくことで、完全に独立した余暇の時間とは言い難いでしょう。狩猟についても同様に、生活(食)と密接に関わっています。
屋内での娯楽はどうでしょうか。ヴァイキングオリジナルのボードゲームは楽しまれていたようですね(オスロのヴァイキング博物館、ベルゲンのブリッゲン博物館で売ってました)。ちなみにデンマークの図書館や書店にいくとかなりの種類のボードゲームが所狭しに置かれています。僕自身、スウェーデン、ノルウェーを生活してきましたが、デンマークがずば抜けてボードゲームが豊富だと感じます。
↑デンマークの書店にて / ©︎ Ren Matsuki
↑デンマークの図書館にて / ©︎ Ren Matsuki
その他、音楽やダンス、宴会などと普遍的な娯楽を楽しんでいたヴァイキング達。スマホやテーマパークで余暇を楽しむことが増えた現代においてはこうした余暇への比重は相対的に下がったかと思います。
それでも、現代の北欧社会を見ているとこうしたヴァイキング時代の時間の楽しみ方は似たような形で残っています。
例えば、冬場に凍結した湖でスケートする人は今でもいますし、スウェーデンなんかでは飲み会の場では乾杯時の歌があったりします。
Credits: Helena Wahlman/imagebank.sweden.se
狩猟とは若干文脈は変わりますが、全ての人に自然享受権が保障されている北欧では森の中でベリー摘みをしてジャムを作ったりすることも一般的です。山登りやハイキング、コテージで長期休暇をのんびり過ごす、といったようなアウトドアもその一つの形なのかもしれません。
Credits: Friluftsbyn Höga Kusten/imagebank.sweden.se
Credits: Johan Willner/imagebank.sweden.se
(ベリー摘みの様子)
肉体を鍛えるという面からするとフィットネスへの意識は(年齢層問わず)とりわけ強いなと感じます。
こうして見てきたように、ヴァイキング時代の娯楽のあり方は今に見る北欧の余暇のあり方と同じようなシルエットがしているような気がします。1000年前から変わらない精神性はヴァイキング時代の無形財産とも言えるのでないでしょうか。
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さて、今回で13章を迎えたこの連載ブログもいよいよ佳境に差し掛かりました。次回は参考文献の最終章「Religious Life」からヴァイキング時代の宗教観(北欧神話)やキリスト教改宗などについて見ていきます。
それでは!
Hejdå!!
参考文献:
Wolf, K. (2013). Viking Age: Everyday life during the extraordinary era of the norsemen. Sterling Publishing.
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