北の海賊ヴァイキング〜vol.0 『ヴァイキングとは?』〜
こんにちは、北欧情報メディアNorrの管理運営兼ライターをやっております、松木蓮です。普段はデンマークの大学院に籍を置きつつも、北欧に関する発信をしています。
さて、北欧と聞いてどんなコトやモノを思い浮かべますか?
ー「可愛らしい雑貨?」
ー「男女平等?」
ー「高税率高福祉?」
ー「高い幸福度?」
様々だと思います。そうした”イメージ”はメディアによって作りあげられた実像であり、虚像であると思っています。一般的にポジティブに捉えらがちな北欧諸国ですが、歴史的に見るとそうとも限りません。農業にも適さない土地で、せっせと地を耕した過去がある彼らは、海に出ては魚を取って食い繋いでいました。
氷点下を下回る厳しい気候、日照時間の短さはさることながら曇天の中での生活を強いられます。
そうした負の側面は、裏返せば、人が寄り添い微かなる光に温かさを求める国民性に与したでしょうし、誰もが働かざるを得ないという環境が早々に男女平等の礎を築いたのかもしれません。限られた資源の中で人を育てることに早々に気付いたことが教育改革の先陣を切ることになったのかもしれません。
今あるような北欧に対するイメージは、そうした過去に遡ることで本質にたどり着くことができると思っています。『ヴァイキング』です。かつてヨーロッパを席巻した北の海賊のDNAは今を生きる北欧人の血にもしかと受け継がれている、そんな風に思えてきます。
今回の連載ブログは、「北の海賊ヴァイキング」と称して、書籍に基づいて彼らの歴史を紐解いていこうと思います。参考文献は「Viking Age: Everyday life during the extraordinary era of the norsemen」です。今年の夏、ノルウェーの首都オスロにあるヴァイキング船博物館にて購入した一冊です。
できるだけ沢山の人に楽しんでもらえるよう、わかりやすく噛み砕いてご紹介していこうと思います。
それでは、まもなく船出の時間です。
bon voyage!!
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▼ヴァイキングとは何者?
今回は、序章ということでヴァイキングという言葉や定義について認識の擦り合わせをしておきたいと思います。
ヴァイキングという人々はそもそも誰を指すのか?ここから見ていきましょう。
ヴァイキング(viking)は、スカンジナヴィアの人々と同義に考えて良さそうです。というのも、"viking"という単語は中世期のスカンジナヴィア以外ではほとんど使われた形跡がなく、ここから北欧に起源を持つ言葉だと考えることができます。
ところで、この"viking"という語源については古ノルド語(今のスカンジナヴィアの先祖に当たる言語、日本でいう古文ですね)に由来しているようです。古ノルド語では"vik"は名詞で、"bay(湾)"、"creek(入り江)"、"inlet(入り江)"を意味します。つまり、"viking"は入り江にて略奪や交易の目的で船を持っている人たちを指す言葉になります。この連載ブログのタイトルにもなっている「北の海賊」というのは"viking"という言葉の由来にも見てとれるわけですね。
この入り江というのはどうやら事実のようで、ノルウェー南部にVikという場所があります。ヴァイキング初期に、略奪する艦船の中心地であったようです。
それから、古ノルド語の動詞"víkja"は、「departing(出発する)」「going away(遠くへ行く)」「leaving home(家を去る)」を意味し、ここからも"viking"の起源が言われています。
古ノルド語以外の説は?という可能性については古英語が取り上げられます。ラテン語の"vicus"の借用語となっている古英語の名詞"wic"は"camp(キャンプ)"や"trading-place(交易場)"を意味し、これが"viking"と結び付けられるようです。
ともかく、ヴァイキングとはスカンジナヴィアにかつて住んだ略奪や交易を生業とした人々を指します。
▼ん?スカンジナヴィアってどこ?
先ほどからヴァイキングはスカンジナヴィアにいた人たちと説明してきましたが、肝心のスカンジナヴィアの領域を説明していませんでした。なんとなく、「スカンジナヴィア(Scandinavia)=北欧」という認識を持つ方も多いと思います。いや待てよ、「ノルディック(Nordic)=北欧」でもあると思うんだけど、その違いは何なの?という方もいるかもしれません。この辺の詳しい(ややこしい)違いについては北欧情報メディアNorrの記事になっているのでこちらも合わせてどうぞ!
ここでも単語の語源を元に遡ってみましょう。"Scandinavia"という単語自体はヴァイキング時代には使われていなかったようで、18世紀頃からだそう。
"Scandinavia"は"Scania"に由来していて、ここはスウェーデン南端部を指す名称です。今となっては"Skåne(スコーネ)"というエリアを指します。このScaniaを中心としてその周辺を取り巻くエリアを"Scandinavia"と呼びます。
今でいうと、スカンジナヴィア半島を共有するスウェーデンとノルウェーが狭義のスカンジナヴィアになります。が、歴史的な背景を無視できません。ノルウェーは長きに渡ってデンマーク国王に支配下に置かれていて、加えて先ほどの"Scania(スウェーデン南端部)"を含むスウェーデンの領域はデンマークに属していました。
この3国は言語的にも文化的にも極めて近いこともあり、一般的なスカンジナヴィアの定義では、「スウェーデン、ノルウェー、デンマーク」を指します。
※フィンランドは?と思われた方も多いかもしれませんが、フィンランドはスカンジナヴィアにカウントされません。ノルディックという大きなエリアに含まれます。言語的にも大きくスカンジナヴィア諸国と異なるなどの理由からです。フィンランドの歴史の概観について北欧情報メディアNorrに記事があります。こちらもオススメです。
本書では、スウェーデン・ノルウェー・デンマークのそれぞれの説明について書かれていますが、今回はあくまでもヴァイキングにスッポトライトを当てるということでここでは割愛します。
簡単な国の説明を知りたいという方は以下をご参照下さい。
『スウェーデンってどんなとこ?』
『ノルウェーってどんなとこ?』
『デンマークってどんなとこ?』
出典:北欧情報メディアNorr
▼ヴァイキングっていつの時代の人?
ヴァイキングってどんな人を指すのか、どこに住んでいたのかがわかったと思います。が、ところでいつの時代の人なのかがまだわかりませんよね。
ヴァイキング時代とは、8世紀〜11世期を指すことが多いです。
その始まりは、793年。日本でいうと、鳴くよ(794)ウグイス平安京の時代ですね。そんな中、ブリテン島(今のイギリス)の東海岸中部にあるリンデスファーン島にて事件が起こります。どこからともなくやってきた北の異族らが襲撃してきたのです。リンデスファーン島に降り立った彼らは、現地民を震撼させ、破壊と略奪をしたんだとか。これがヴァイキング時代の幕開けとされています。以後、ヴァイキング達は、ヨーロッパに止まらず世界中を蹂躙する海賊として知られるようになります。この辺は次の項にて。
それでは、いつこの幕が閉じたのか。1066年です。この年号を聞いてピンッ!と来た方。世界史専攻でしたか?
そう、ノルマン=コンクエストです。テン(10)シックスティーシックス(66)ですね。奇しくも始まりと同じイギリスにてヴァイキング時代の幕を閉じます。
ノルマン人(ヴァイキングの末裔でフランス北西部にノルマンディー公国を築いた人々)によってイギリスが征服され、ノルマン人らによって新しくノルマン朝が成立しました。
とはいえ、1066年以後すぐにヴァイキングが撤退したわけではなく、ダブリン(アイルランド)などに居残ったので1066年に早々にヴァイキングが終わったということではなさそうです。
そんなわけで、ヴァイキング時代は広義に見て800〜1100年頃とされることが多いです。
▼どこまでも足を伸ばしたヴァイキング達
さて、数百年に渡って勢力拡大をしていたヴァイキング達ですが、実際にどこまでその領域が及んでいたのでしょうか?
この答えは、全世界です。
もっと正確にいうと、行けるところにはどこまでも行った、というのが正しいです。先ほどの通り、ヴァイキングと言ってもスカンジナヴィアの人たちで、範囲は広い。今のスウェーデンにいた人と、ノルウェーにいた人とでは進んだ航路が違います。ここでは、そうした違いは無視して、ヴァイキングとしてどこまで行ったのかを見ていきます。
東は、ロシアやカスピ海、黒海にまで。
南は、北大西洋湾岸部に沿って、スペイン、そしてジブラルタル海峡(スペインとモロッコの狭間)を超えて地中海にまで。
西はというと、大西洋を跨いでアイスランド、グリーンランド、そして北アメリカにまで到達しました。
画像:「みんなが知らないフィンランドの歴史」
北欧情報メディアNorr
ん?新大陸(アメリカ)の発見はコロンブス(1492年)じゃなかったっけ?そう習った方がほとんどなはずなのですが、史実ではヴァイキングが先に到達しているんです。
そんなわけで、ヴァイキング達は小さな船を器用に漕ぎながら、大西洋を囲むあらゆる地域に足を伸ばし、略奪と交易をしていたんですね。
▼この章のまとめ
さて、「ヴァイキングとは?」ということで簡単なヴァイキングの説明をしてきましたが、何となくわかりましたか?ここで少しまとめておきましょう。
ヴァイキングとは、スウェーデン、ノルウェー、デンマークにいた人々で、活動期間は800〜1100年頃。周辺地域だけでなく、大西洋を囲う色んな地に赴き、略奪や交易を生業としていた。
ぼんやりとしたヴァイキングのイメージが少しクリアになれば嬉しいです。今を生きるスカンジナヴィアの人々の先祖として、彼らの過去を知ると今の北欧が少し見えてきそうです。
初回はジャブ程度でヴァイキングの説明をしようと思いましたが、少し長くなっちゃいましたね。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。お疲れ様でした。
ヴァイキングとの旅はまだ始まったばかりです。また次回お会いしましょう!
Vi ses!!
参考文献:
Wolf, K. (2013). Viking Age: Everyday life during the extraordinary era of the norsemen. Sterling Publishing.
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