見出し画像

都市伝説解体センターを遊んだ感想(ネタバレあり)

途中からネタバレあり。


映像がすごい

2000円のインディーゲームとは思えない映像のリッチさ。単純にグラフィックの質が高いだけでなく、普通ならテキストで済ますような描写もアニメーション付きのカットシーンがあったり、モブ顔で済ましそうなキャラにも専用のグラフィックがあったりと、とにかく力の入れようとこだわりが半端ない。
場面によっては恐らく3Dアニメーションをドット絵風に加工していると思われるが、類似作でこの域に達しているものを見たことが無い。ドット絵アニメーション表現ではトップを走っていると思う。

その映像と演出だけで既にお釣りがくる内容なのだけれど、ゲーム部分については良く言えば誰でも楽しめる・・・悪く言えば何もない。総当たりな調査にヒントが露骨な3択でやや退屈。まあ、仮にガチなミステリゲームを求めている人がうっかり買っても満足はできるであろう魅力はあるはず。


以下、ネタバレとほぼ不満点。


都市伝説

全6話のうち1~5話は「なんか面白くなりそうだがなかなか面白くならない」という感想だった。1話の最後で今後面白くなりそうな予告を出しておいて本編が動き出すのは5話の終わり際からというのはちょっとプレイヤーに貸しを作りすぎな気がする。

盛り上がりに欠ける一因としては達成感が希薄なところか。主人公達の目的が曖昧で、「都市伝説の正体を暴く」なのか、あるいは「都市伝説を浄化する」なのか調査に対するスタンスがよくわからず、どの話も謎解きに至るまでの情熱や解いた後のカタルシスが弱かった。

そもそも都市伝説というモチーフを持て余している感がある。都市伝説の魅力とは身近に潜む怖さとそれを演出する物語にあると思っていて、例えば「ベッドの下の男」の話の肝は「気づかれないように外に連れ出してくれた友人の告白」であって男の方ははっきり言ってどうでもいいのである。しかし本作で取り上げられるのはベッドの下の男の「男」であり、コトリバコの「箱」であったりする。これではファンタジーの魔物を召喚するのとそう変わらない。


・・・本作をクリア済みの方がもし上記の文章を読んでいたならば「そんなことはどうでもいいんだよ」という感想を抱くかもしれない。何しろ言ってみればこの物語は全て主人公の自作自演であり、謎を解く意味も都市伝説も捏造に過ぎず、最後の展開を演出するためのお膳立てに過ぎないのだから。

しかし、だからといって1~5話を評価から外してよいかといえば別だ。もし本作の評価として「10時間暇をつぶせた上に超面白い結末が付いてきて2000円は安い!」というのなら異を唱えたい。値段の安さもプレイ時間の長さも必ずしもプラス要因にはならない。


どんでん返し

その超面白い結末、「センター長とあざみは同一人物だった」に関しては第3話の木村(野村妹)との会話で示唆されていたのでそれ自体には衝撃は無かったが、あざみの方が本体というのは面白いと思った。正体を現したあざみのビジュアルは魅力的だったのでそこでもう一話使って欲しいと思うほどに。

その一方で、やはりこの二人が同一人物であった場合に辻褄の合わない部分が気になってしまう。例として挙げると、

  • 都市伝説解体センターの動画はいつ撮影しているのか?

  • 電話による「解体」はどのように周りに伝えていたのか?

  • ジャスミンはセンター長と面識が無かったのか?いずれにせよジマー管理人の素顔を見た時に気づいたのでは?

などなど。衝撃の展開のために邪魔な描写を曖昧にしており、最後のスピード感も余計なことを考えさせないかのような演出で、それ自体はまったく成功しているのだけれど今思えばあまり真摯ではないなと思ってしまった。


悪のSNS

本編中に何度か「SNS調査」と題してSNSの書き込みから事件の調査を行うのだけれど、この書き込みの程度がとにかく解像度が高い。自分はTwitterの有象無象の主張が嫌になってスマホからXのアプリを消している程だが、それでもたまに迂闊な検索をしてげんなりするツイートを見てはげんなりしてしまう。その再現率が高すぎる。

あんま好きな人ではないけど
本作にはチャプターセレクトに類するものがないので涙を呑んで引用する


他のゲームや映像作品でも2chっぽいネット掲示板だとかニコニコ動画っぽい流れるコメントが登場することは多々あったけれど、当事者である自分としてはわかってねえな~と首を傾げることが多かった。とりあえず2ch語やAAを使っていれば再現できると思ってそうというか。対して本作はSNS独特の強がりだったり構文めいた口調だったり、日ごろからSNSに怨嗟を感じていなければ再現できない本物感がある。

さらに面白いのは、そういった投稿を見る苦痛がきちんと必要な体験としてシナリオに繋がっていることだ。この地獄を見た人間だけが如月兄妹の気持ちを理解することができる。なんなら都市伝説よりSNS悪の方が主題なのではと思うほどに秀逸だった。

それでも気になったことがある。噂やデマ、ゴシップといった存在しないもので暴走する衆愚を強烈に批判するメッセージを用意しながら、同様に彼らに糾弾されている金持ちの悪事だとか、警察の隠蔽だとか、上級国民といった陰謀論めいた存在はゲーム中でしっかり実在していることだ。これはシナリオ上の都合なだけだったり、そんなことを気にする自分の思想が誤っているのかもしれないが、より我々に差し迫った分断は殺人事件の冤罪よりもそういった権力者への偏見なのだから、社会に対するメッセージを用意するのであればそのフォローは欠けていて欲しくはなかった。


あとついでに言うと本物のSNSで

単語に反応していいねしてくるのやめてほしい。前にも書いたけどこれで仮に売上が1億本増えたとしても自分は許してない。


感想の感想

AI: ソムニウムファイル ニルヴァーナ イニシアチブを遊んでほしい。

作風は全然違うけど都市伝説解体センターが面白かったならぜひやってほしい。オカルトの題材や終盤に至るまでのエピソードの積み上げ方、核心に迫る描写の通し方などのアプローチは強引ながら評価すべき形なっていると思う。

価格は・・・3年前のゲームだけど約4倍。

いいなと思ったら応援しよう!