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ホロスコ星物語132

学院の生徒たちによるディセンダント公邸への訪問から4日、コエリはその当の公爵邸のバルコニーで紅茶など飲みながら、夕焼けの空を眺めます。邸宅の使用人たちは明日のパラスの婚礼の儀礼の準備のために出払っていて、近くに彼らの姿はありません。

ディセンダント公爵邸へと訪問した生徒たちは、あの後も順調に勉学に課外活動にと勤しみながら、日々を忙しく過ごしています。その姿を自分でも見ておきたくて、あれから何度かコエリ一人で、一般科、騎士科、法術科へとそれぞれ出向いてみましたが、元々目立つ性質の子が多かったせいか、彼らを見つけることは、さほど難しいことではありませんでした。

まず一般科からは、ユリアナ・メルクシアと、ローヴァ・ミルドレッドの二名が選出されていました。

ディセンダント公に選ばれた生徒七名のうち、ユリアナだけが唯一の二年生でしたが、理由は簡単で、ディセンダント公が授業の見学をしたのは、一年生だけだからです。

確かに、公爵は1時間以上をそのままクラスで過ごしていましたから、1日で全学年、全学科の全クラスを廻ることなどできるはずはありません。だから、進路の確定している三年生や、それぞれの専門分野に進み始めた二年生を避け、将来性も加味して一年だけを見て回ったわけです。

にもかかわらず、なぜユリアナがここにいたのかと言えば、裏にやはり政治的な都合があったからに他なりません。有り体に言って、彼女は公爵の学校訪問以前から、選出は決まっていたのです。

クラスでのユリアナ評は、ある意味でコエリとよく似ていました。それは、聞き込みを行った大多数の二年生をしていわく、北嶺の魔女に人の心はない、というもので。

魔族や蛮族の侵入を防ぐ、最北端を治める辺境伯という立場ゆえか、メルクシアには生まれながらに際立って大きな魔力量を持つ者が多く、これまでもその力でもって、北方からの侵略者をことごとく殲滅してきた歴史があります。

ユリアナもメルクシアの例に漏れず、その魔力量は学院でも随一と言われるほどのもので、それが先日の雨避けの結界にも現れていました。エリザベータは気付かずに結界の指南などしていましたが、それだけの魔力量があったからこそ、多少不完全でも撤収に容易な強度の結界を維持していたわけです。

そしてその先入観からか、あるいは過去に何かトラブルでもあったのか、ユリアナへのクラスメートの印象もまた、一見穏やかだが逆らうもの、気に入らないものは容赦なく氷付けにする魔女、といった類のものが大半で、闇魔術で恐れられたコエリと比べると、一般的に知られる四属性の持ち主であるにもかかわらず、その忌避のされようは、コエリと比べても遜色無いとすら思われるほどのものでした。

ユリアナ自身、どういう理由なのか、自分から男子生徒から距離を置いていた、という理由もあったようですが、当然、そんなユリアナに求愛するものなど現れようはずもなく、それを救済するため、ディセンダントという道を拓いたのが今回の婚約者候補への選出、ということなのです。

パラスの婚約者に収まってしまえば、いかにメルクシアとはいえ、人々はその権力にあやかろうと、あるいは自身が駆除されまいと、ユリアナへも丁重に接せざるを得ません。それが、魔女と名高いメルクシアの、社交界への復権にも繋がっていくわけです。

「人の先入観とは、つくづく厄介なものね」

コエリは、紅茶に口を付けながら、自分とユリアナとの差異について考えます。

実際に接してみれば、多少夢見がちではあるものの、ユリアナに心がないなどということは勿論なく、むしろ恋バナ好きなところなど、その辺にいる普通の女の子とそう大きくは変わりません。それに魔術にしても、魔力量が特別多いというだけで、現時点では、それこそ小恵理のように大規模戦略級魔導や、国家間さえ跨ぐほどの超範囲魔術(厳密にはスキルですが)を撃つでもなく、多少難易度の高い魔術を撃てる程度です。

それにーー、あれから何度か会って話したことで、一般科に所属していたのは、魔術師科や法術科のような専科はその方面に特化している点が逆にネックだったから、ということもわかっています。

これがどういうことかといえば、魔術師科であれば、将来は王立魔術師団の団員や、ギルドに所属する魔術師に、騎士科であれば、王直属の親衛隊や王立騎士団、あるいは兵団へと、それぞれの専科はその先の進路がほぼ決まっていて、授業内容もそれを前提に執り行われているところがあります。

それに対して、一般科は剣も魔術も一般教養もと、剣術家だろうと魔術師だろうと、あるいは商人や職人だろうと、将来どんな職にも就けるよう、満遍なく授業を執り行います。貴族学院と呼ばれるこの王立学院も、一般科だけは貴族以外の市民も受け入れているのも、それが理由になっているのです。

そしてユリアナの場合、どの科でどんな成績を取ろうと、基本的に将来は次期辺境伯として領地に帰ることが決定しています。そのため、専科の深い知識よりも、一般教養を含めた幅広い知識があった方が、領地経営など、将来のためになる、という理由から、あえて一般科へと進んだわけです。

「その将来を、私も受け入れなければならないことは承知をしていますが、、せめて夢くらいは見たいじゃありませんか?」

ユリアナは、今回のパラスの婚約者候補へと名乗り出た理由を、そのようにコエリには説明をしています。パラスと結ばれることは、すなわちメルクシアからの解放も意味するのだと。

パラスの魅力が云々語っていたのも、実際嘘ではないのでしょうが、言葉数のわりに熱烈な情愛のような感情が伝わってくる割合が少なく、コエリの中では、恐らくこれが一番の理由だろうと見ています。ユリアナもまた、北嶺の魔女として、メルクシアを言われるがまま継承するのではなく、普通の女の子として、自分で自由に恋人や未来を勝ち得ていきたい、そのための試練として、あえてこの儀礼に臨むのだと。

ただしーーそれもまた、一つの理由にすぎない可能性は、コエリも否定はできません。

何故なら、ユリアナにはもう一つ何か、この儀礼でなければならない、事情のようなものが感じ取れる気がしていて。

何もせずとも周りが恐れたコエリだからわかる違い、とでもいうのでしょうか。コエリには、ユリアナのクラスでの評価が、意図して作られたようにも感じられるのです。まるで、パラスとの婚約のために儀礼に挑む、下作りとしてそんな評価を得たような、、それも乙女心と言われればそれまでですが、どこかに何かの不自然さが垣間見えています。

一応、ディセンダント公にもこの点は尋ねてもみましたが、公爵もユリアナの事情は知っているようで、けれど承知でいながら言いにくい理由があるらしく、この点に関しては、公爵には珍しい形ではぐらかされてしまいました。

コエリには、同族意識からか、その実力を披露してくれたユリアナですが、フローラにとって、一番の難関はこの子になるかもしれないと、コエリは思います。おそらく見せた実力が全てではないでしょうし、その心の底には、決して引けない、とでもいうような、覚悟のようなものがユリアナにはあります。南方の守護神と呼ばれるアルデガルドへ、北方の守護者としてのライバル心がないとも思えません。

それに対してーー一般科選出のもう一人、ローヴァ・ミルドレッドは、比較的分かりやすい男子生徒でした。

穏やかで誠実な人柄、偏見を持たないフラットな目を持っているからか、市民と貴族の入り交じる一般科のクラスにおいて、彼は自然とリーダーに持ち上げられるカリスマ性を持っています。また、その成績は剣も魔術も一般教養もと、全てにおいて優秀です。専科に劣ると見られがちな一般科において、希望の星とも言われるほど、人々の羨望と憧れを一身に浴びる存在、、それが、ここ数日でコエリの見てきたローヴァ・.ミルドレッドの人物像でした。

この、押しも押されもせぬ確かな実力と、その人柄の良さから、今回ディセンダント公の招待に含まれていたのは、必然ともいうべきものです。むしろパラスの付き人となった際には、専科を見返すことができるとして、一般科全体からの応援もまた、相当なものがあると感じました。

けれど、それを本人がどう思っているのかと言えば、

「応援してくれるのは嬉しいが、俺は正直あまり興味がないな。わざわざ他人に自分の希望を背負わせるより、自分で自分の希望を叶えにいく方が、何倍も自分の成長になるだろう?」

つまりは、自分達も学生の身なのだから、人の応援をしている暇があったら自分が努力しろ、とでも言いたげで、これではクラスでもどんどん差が離れていくのだろうなと、コエリも妙に納得したことを覚えています。自分自身の成長、というものへの心構えが最初から違っていて、これこそがディセンダント公がローヴァを邸宅へと呼んだ、最大の理由であるようにも思いました。

そして、騎士科からはゼノビア・ケルスティンが選出されています。

クラスにおけるゼノビアの評価は、ローヴァにもやや近く、卓越した剣を持ちながら、果てない高みを目指し続ける男、でした。

ローヴァと大きく違うのは、ゼノビアは自分の剣にしか興味がなく、人付き合いもむしろ冷淡な部類であることです。騎士科からの応援などというものも、コエリが見てきた限りではほとんどありませんでした。

けれど彼の剣は、言うだけあって、それこそネイタルを覚醒させたセレス以外に敵もなく、せいぜいジュノーがまともに相手ができる程度、とされています。ただしゼノビアはストイックで、自分の技術を磨くことにもいつでも余念がないため、いつかジュノーでも勝てなくなる日が来るだろうと。

進路上の希望は、一応ゼノビアも騎士団への配属となっていましたが、コエリの接してみた感覚で言えば、同時に、騎士団に自分のいるべき場所があるのだろうかと、疑問を抱いていることも感じさせました。彼は、言ってしまえば国を護ること、王に仕える名誉云々以上に、自分の剣を高めることへの意欲の方が強いのです。

ちなみに、、このゼノビアに対しては、偶然居合わせたセレスによって、とても大きな面倒が起こされてしまったため、コエリにとっては、苦手な相手のひとりとなっていたりします。

「単に剣の腕を磨きたいなら、コエリが相手をしてやったらいんじゃないか? コエリの剣の腕は俺より上だぞ?」

ゼノビアと話をしている最中に話に入ってきたセレスの、この一言。これを言われた瞬間、褒めてくれるのは嬉しいのだけど、と、空気を読まないセレスへの、小さくない失望を感じたことを覚えています。

何故なら、その話していた内容というのが、ゼノビアが進路に迷っていることを感じたコエリが、「剣を鍛える相手がほしいがため、騎士団所属では物足りないかもしれないという理由で迷っているというなら、ゼノビアの前には騎士科で頂点とされるセレスがいるのだから、騎士団所属でもセレスに相手をしてもらえばいいだけ、それも悪くはないのではないの?」という話をしていたところだったからです。

コエリの感覚では、単にゼノビアは未来ある学生らしく、将来の進路を決めかねているというだけで、騎士団そのものへの憧れがないわけではなさそうでした。だから、騎士団という進路を再確認させるための提案をしたわけです。

だというのに、、セレスの指摘の瞬間、なんだと? という言葉と共にゼノビアの興味関心は、コエリの剣の腕へと見事なまでに全振りされました。それ以降、ゼノビアからは顔を会わせては剣の手合わせを望まれるようになってしまい、ゼノビアに会うことを口実に騎士科のセレスを訪れる、という乙女心からの作戦を実行するどころか、今ではゼノビアに見つからないよう、逆に逃げ回る日々が続いています。

いっそ、一度本当に叩きのめして、修行させた方が良いのかしら、と思いながら再び紅茶を口に含み、コエリは、公爵邸訪問の日の夜、ゼノビアと一緒に降りていった少女のことも思い起こします。

ゼノビアは、本当に面倒臭くなってしまったけれどーーその点、法術科から選出された、アルトナ・フロスティアは良い子だったわね、とコエリは明るく活発な、莉々須に似た少女のことを思い出します。

学院においても、法術科、という専科は少し特別で、クラス内の人数も少なく、その進路は、ほとんどが国教の神官へと進むことが決定しています。法術科への配属は、学業の成績や適性だけでなく、教会の神父よりお墨付きが得られることが条件とされていて、卒業後はその教会へと割り振られることとなるのです。

法術科の生徒は、その性質上、全体的に真面目でおとなしい性格の子で占められています。敬虔な国教の信者であることが大半で、アルトナのような活発で明るい子は珍しいタイプなのです。

「私はねー、なんかの手違いっていうか、、今でも信じらんないんだけどさ」

そんなアルトナが法術科へと進んだのは、ある種の偶然、他の法術科の生徒に言わせれば、運命の導きであったのだと言われています。というのも、元々アルトナの希望は魔術師科で、法術科にはただの記入間違い、希望する進路の選択肢を間違えたことから始まっていたからです。

普通であれば、魔術師科への希望者が間違えて法術科を選んだところで、まず適性の部分で弾かれます。まして教会の後押しがないのだから、もう一度進路の希望を選び直すよう、教師に指示されて終わる話なのです。

ところが、アルトナだけは話が違いました。法術科における学力審査後の進路適性において、まさかの歴代最高点を叩き出してしまったのです。そして、それだけの適性を持つ者がそのまま野放しにされるはずもなく、それならばと、城内における聖堂の大神官が、自ら推薦を出してしまったのでした。

どうも、人の噂や、世間の常識に疎い小恵理は気付かなかったようですが、この事件は学院でも結構な話題になっていたようで、当時は学院を震撼させる珍事として、随分と大きな噂になっていたようです。これでアルトナに光属性の魔術でも宿っていれば、間違いなく聖女と崇められていただろう、とさえ言われていたという話もありました。

この大神官からの推薦は、アルトナ当人がどこか大神官に苦手意識を持っているとはいえ、先程のメルクシアと違い、個人の都合や意思などで、容易に覆すわけにはいきません。そのため、ディセンダント公があえてパラスの婚約者候補へとアルトナを選んだのは、単にディセンダント公が教会との接点を強めるため、との見方が一般的です。勿論、アルトナの婚約者への意欲の低さを見通した上の、脱落前提での人選であったことも間違いありません。この辺りは、ディセンダント公も政治に携わる人間、なのです。

そして、魔術師科から選出されたベガ・クライストと、エリザベータ・アスパシアの両名ですが、、あの日ベガの屋敷であった出来事を思い出して、コエリは小さく笑ってしまいます。

あの日、ベガの屋敷へと一緒に移動しようとしたコエリは、エリザベータの思わぬ誤解によって、結構なレベルの危機に見舞われました。

エリザベータはあの時、コエリがてっきりベガのクライスト邸で寝泊まりをする気だと、すっかり勘違いをしていて、、あの日、確かにエリザベータは、扉をこじ開けるようにして、クライスト邸へと踏み込んできたのです。

ところが、面白かったのは、この時玄関にはクライスト子爵が出迎えに来ていた、ということで。

ここで、それを思い出せるエリザベータも大したものですが、クライスト子爵ということは、当然ベガの父親なわけで、、とすると、エリザベータとしては、精一杯自分の良いところを見せておかなければならない相手なわけです。

この、子爵を見た瞬間のエリザベータの我へと返る速度、首根っこを掴んでいたベガから手を離し、着ていた制服のシワを伸ばし、埃を払い、丁寧にお辞儀をして早口で自己紹介を捲し立てる速度は、それはそれは笑えるものだったと、後にベガからコエリは聞かされています。

コエリ自身はといえば、避難先に選んで訪れたアルタイルの部屋で、自分でも全く自分の感情が理解ができないまま震えて隠れていたというので、その珍事を見届けることはできませんでしたが、、あの時の自分を振り返ってみて、コエリはどこか、新鮮で愉快な気持ちが沸き上がってくるのも確かなのでした。

それは、自分でも何かに恐怖を感じることができるんだ、という、、どこか懐かしいような、愛おしいような、不思議な気持ちで。

常に人から恐れられ畏怖され、避けられ続けてきたコエリにとって、自分が恐怖させることこそあれ、自分が恐怖する側に回る、などということは、ついぞ体験したことも、想像したことすらもありませんでした。

だからこそ、そんなことを感じられる自分もいるのだ、という発見は、自分もちゃんとした人間なのだということを自分でも認識できた、とても貴重で、大切な体験のように思えてしまって、、不思議と今でもそれが、とてもかけがえのないもののようにも感じられるのです。

そんな感情を思い出させてくれたエリザベータ、それに、実際の能力はさほど低くもないのに、身内に光属性や闇属性という、特異な魔術師を多数抱える一族ゆえか、自己卑下してばかりで、いまいち自信が持てずにいるベガ、、二人のクラスメートを思って、コエリはようやく自分が安息の地を得たような感覚に浸り、大きく息をついて夕闇の空を眺めます。

明日はいよいよ、そのパラスの婚約者を決める儀礼が執り行われます。

普通であれば、この候補者の選出は、それこそ先月には当然に終えているべきものでした。ここで問われる能力は多数あり、その儀礼に向けた準備には、通常何ヵ月もかけて取り組まれるものなのです。

最後の候補者として選出された学院生は、それをわずか一週間前に告げられ、緊急的に召集されることとなりました。その、わざわざ一週間前などという土壇場に最後の候補者を選んだ辺りに、ディセンダント公の狙いが見えるとコエリは思います。

つまり、それだけの資質を持つ者の発掘と、親心だと。

小恵理を例に挙げるまでもなく、学院にも有能な生徒は多数在籍しています。けれど成人した大人たちが集まる儀礼の場において、学生の持つ作法や礼節などは未熟なことが普通であり、それは学院生の問題ではありません。学生の本分は勉学であり、そもそも作法などは最低限身に付けていれば十分なのです。

だから、この候補者選出における学生たちの立ち位置は、それを満たせる将来性を示すことこそ必要ではあるけれど、自分達が礼節でもって人を納得させることではなく、自分達以下の礼節を持った人間を、篩にかけること。そのための試金石というのが、今回の学院生に望まれる役割なのです。

そして、魔術や剣と言った戦闘能力に関しては、むしろ社交界にのみ精を出す大人と比べれば、有利に働く場面も多いでしょう。だから、戦闘に関しては学院生も大人たちも、同じ土俵で戦うことになるはずです。

そして、これがディセンダント公の狙いでもあるわけです。

大人たちは、どうしても社交界に時間を割く割合が増え、戦闘は不得手、という候補者も多いはずです。だから、そうした人間は学生たちに積極的に排除してもらおうと。そして逆に、礼節に関しては学生であることを差し引くことになりますから、大人たちにおいては、本当に優れた人間だけが勝ち上がることになります。

つまり、学生という壁を突破できるこれら双方を兼ね備えた令嬢は、必然的に限られてくることになるわけです。そうーー例えば、礼節を普段の生活できっちりこなしながら、父譲りの剣技でもって、邸宅の兵士のことごとくを切り伏せる実力を持った、青髪の令嬢とか。

「あとは明日ね、、どうなるのかしらね」

コエリは、バルコニーに置かれたテーブルにティーカップを置き、ほとんど沈んでしまった夕陽を眺めやります。

ディセンダント公という国家の重鎮が、王家に則った儀礼を行う以上、明日の観客には王家に連なる人間も出席するはずです。

パラスの兄弟とはいえ、多忙を極めるジュノーが列席するかはわかりませんが、、少なくとも見届け人として、国母たる王妃は来るでしょう。

久しぶりにお会いするけれど、、はたして元気でやっているかしらと、コエリは慈愛に満ちた、心優しい女性の姿を思い浮かべます。そして、今の自分であれば、あの方の尊顔を拝する資格はあるだろうかと。

ーーそうして、陽が沈み、夜の闇が完全に周囲を支配するまで。コエリはそこで、自分の過去と現在の自分を思い、自分の変わってしまったことへと、思いを馳せるのでした。


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renkard
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