ホロスコ星物語130
「ご苦労だったな、コエリ。まさか本当に使えるとは思わなかったぞ」
コエリを出迎えたディセンダント公は、そう言って朗らかにコエリへと笑いかけます。
今回の件を仕組んだのは、言うまでもなくディセンダント公爵その人です。ディセンダント公爵自身はレターを使えないため、迎えにいった御者を通じてコエリに呼び掛け、事前に生徒を試したい旨を伝えていました。その際、できたら天候魔術を展開してほしいことも。
コエリは屋敷に上がりながら、やや消耗した風に、これで良いのね、と返します。
「天候魔術を所望された時は、さすがに何を考えてるのかと思ったわよ。あれが使えたのは小恵理であって私ではないのよ?」
「いや、お前が時々小恵理の使っていた魔術を使っていることは他から聞いていたからな。もしかしたらと思って聞いてみたんだが、いや、なんだかんだ希望してみるものだな」
「、、ちょうど昨夜に、小恵理の部屋に呼ばれていたことに感謝してちょうだいね」
コエリが小恵理の魔術を使えるのは、小恵理から学んだとか、記憶を共有しているからとかではありません。そもそもが小恵理とコエリは別人なのです。いくら身体を共有しているとは言っても、他人の魔術を使うことはできません。
にも関わらず、なぜコエリに小恵理の術が使えるのかと言えば、大抵は決まって夜、何故かコエリは以前小恵理が使っていた部屋に、導かれるように無意識に行くことがあり、翌朝には小恵理が使っていた術式の一つが、何故か知らぬ間にコエリにも使えるようになっている、といった事態が起こるからです。
ステルスや念動力など、小恵理オリジナルの魔術を身に付ける際、これまでも何度かそういった経験はありましたが、昨夜は特に強烈で、コエリが意識を取り戻した時には、既に小恵理の部屋で研究書が開かれていて、あとはただその術式をなぞって起動するだけ、という状態になっていました。
「そこで覚えたのが天候魔術、というわけか。何やら私には、小恵理がお前に守護でも与えているように感じられてならないな」
「だったら、さっさと帰ってきて後を引き受けてくれれば良いのよ」
コエリはややうんざりしたように言い放ちます。
小恵理が眠ってしまってからもう二ヶ月、そこから更に時間が経っていますから、時期に三ヶ月にもなろうかというほど時は流れています。
コエリは、常に穏やかであろうと自分を律しているだけで、実際はそこまで気が長いわけでも、人を待つことに慣れているわけでもありません。そんな陰でこそこそと魔術を覚えさせるくらいなら、本当は今すぐにでも小恵理に帰ってきてもらって、この身体も明け渡したいくらいなのです。
ディセンダント公は、気遣わしげにコエリを見ると、そう焦るな、と声をかけてあげます。
「小恵理はいつか帰ってくる。そうだろう? お前の中での小恵理との繋がりは、切れたわけでも断たれたわけでもない。むしろ強化されているんだ。なら、お前が思いもよらないタイミングで、ひょっこりと帰ってくることもあるだろうよ」
「、、そうね。小恵理が帰ってきたら、私はまたゆっくり休ませてもらうから」
それまではせいぜい働かせてもらうわ、とコエリは一つ息をついて告げ、ようやく追い付いてきた学生たちを振り返ります。
屋敷に上がってきた学生たちは、皆一様に緊張している風でしたが、その中の一人、エリザベータはコエリの姿を見つけるや、ちょっとあなた、と早速抗議の声をあげてきます。
「先に行くだけならまだしも、なんでわざわざ人の張った結界を壊していくわけ!? お陰でちょっと濡れたじゃないの!」
「逆に聞くけれど、、あなた、あれをどう撤収させるつもりだったの?」
エリザベータは、確かにより効率的で、魔力伝導が良く、維持もしやすく、雨を完璧に弾くよう結界を改良させていました。けれど、そうして結界をより複雑に、強化させ維持していくということは、結界自体をより強固にするということに他なりません。
勿論、結界自体は魔術の一種ですから、魔力の供給を止めれば次第に消えていくものではあります。けれど、強化され、魔力を過剰に供給された結界は、供給をやめました、すぐに消えました、とはならないわけで。その場合、いわば大きな傘を差したまま公爵邸へと入っていくことになるわけです。
そんな邪魔なもの、さっさと壊してしまった方がいいでしょう、とコエリは指摘をします。つまりエリザベータは、結界を改良する方に熱中するあまり、撤収のことを考えていなかったから、というわけです。
「要するに、あのままにしてたらエリザベータは、結界が消えるまでずっとぼっちで外で待つハメになってた、ってわけね。コエリやっさしい♪ 壊してくれて良かったじゃん?」
「う、、だ、だからって!」
赤い髪の少女は、いいじゃんいいじゃん、と言ってエリザベータの腕を引き、ほらほら、と、玄関前まで戻ると、会話の終わりを待っていたディセンダント公へと向き直らせます。
この深紅のドレスが目に入っていなかったのか、エリザベータはディセンダント公と面対すると、慌てて制服の裾を直し、自然と横一列に並んで待っていた生徒たちにも気付き、大慌てで列にも戻って、ようやく居住まいを糺します。
ディセンダント公は、傍らのコエリはそのままに、六人の生徒たちへ、やや困ったように頬を撫でます。
「ふむ、、私としては、ようこそ我が屋敷へ、と定型句で迎えようとも思っていたのだが。いや、楽しそうで何よりだ。最近の若者について、早速良い学びになる」
「そ、その、大変、大変申し訳ありません! 私が和を乱しましたこと、深くお詫び申し上げますわ!」
皮肉とでもとらえたのか、真っ青になって深く頭を下げたエリザベータへ、ディセンダントは、気にするな、と苦笑して首を振ります。公爵という身分上、招く客は当然身元のしっかりした大人ばかりなので、こうした若さ溢れる未熟な少年少女、というのが新鮮だったのは真実なのです。
ただ、その後は公爵は腕を組んで、うーん、と悩んでいて、コエリは、どうしたのよ、と声をかけます。
「あなた、ただでさえ外で待たせたのだから、さっさとそこをどいて、中に上げてあげたら良いのではないの?」
「ああ、いや、それはそうなんだが、、お前、エリザベータとも仲が良いんだな?」
「え? そう、、なのかしら?」
意外な話の振られ方に、コエリは戸惑ったように首をかしげます。
コエリ自身、そもそもが他人との交流が少ない人種ですから、仲良しの定義がよくわかりません。それに、何が気に入らないのか、エリザベータからは突っかかられてばかりなのです。それを仲良しと呼んで良いのかは、判断に迷います。
わかっているのかいないのか、ディセンダント公は、だからな、とエリザベータとコエリを見比べるように交互に顔を眺めます。
「私もたまにはああして、やだやだもー、みたいにコエリに絡んでみたら、もっとお前と仲良くなれたりするのかと、、」
「ーー公爵。しばかれたくなかったらさっさとみんなを応接室に案内なさい」
コエリは、刺すような瞳と冷たい口調でディセンダント公の発言を断ち切り、公爵は、肩を竦めて、こっちだ、と六人の生徒へ向き直ります。その際、エリザベータの肩に手を置き、コエリを頼むぞ、とかしんみりと話しかけていて、何をどう理解したのか全くわかりません。
応接室へ移動すると、公爵が長テーブルの奥の中央の席へと座り、男子生徒は右側へ、女子生徒は左側へと振り分けて着席させます。けれどその際、当たり前に左側へと移動しようとしたエリザベータに、君はこっちだ、と公爵は何故か右側へと彼女を移動させます。
「ちょっと、なんで私が男子側なのよ、、」
「へへっ、ようこそ野郎サイドへってな、、いって!」
「その口、縫い付けるわよ、ベガ」
ぼやくエリザベータにベガが軽口を叩き、エリザベータは容赦なく足を蹴り飛ばします。場を和ませようとしたんだろ、と足をさすりながらベガもぼやいていて、脛にでも当たったらしく、結構痛そうでした。
公爵は楽しげにそれを眺めると、では、と話を切り出します。
「さて、では早速だが、各々自己紹介をしてもらいたい。あちこちから引き抜いてきたからな、同じ科の生徒ばかりではないし、お互い全く知らない顔も多いだろう」
全員が着席したのを受けて、ディセンダント公はそう言って男女双方へ紹介を促します。その手元には、恐らく隠密から得ているであろう情報とおぼしき紙が置かれていて、まるでどこかの面接会場のような雰囲気が流れます。
七人の間では、一瞬誰から行くか、という微妙な空気が生まれかけますが、こういう時に真っ先に動き出すのがエリザベータです。ディセンダント公爵が促してから、わずかな間で立ち上がり、私からいくわ、と声を上げました。
「私は魔術師科一年、エリザベータ・アスパシアよ。四属性に得意不得意はないけど、魔術の制御と術の発動速度には自信があるわ。その、パラス殿下には、憧れとカッコいいなあって想いがあって」
「次に行ってくれ」
と、ここでディセンダント公が容赦なくぶったぎり、エリザベータは、え、えええっ? と戸惑いながらも、渋々着席をします。この辺りで、そういうこと、とコエリもディセンダント公の狙いがわかってきました。
一番隅のエリザベータが立ち上がったことを受けて、次にベガが、俺だな、と立ち上がります。
「えっと、同じく魔術師科の一年、ベガ・クライストだ。光と闇の属性持ちを輩出してる家だが、俺自身はごく普通のどこにでもいる魔術師だ。正直、ここにいる人間の中じゃ一番普通だと思う。あっ、でもクライスト領の魚介はマジでウマイから、是非一回食いに来てくれよな!」
こ、こんなもんか? とベガはやや自信なさげに公爵を窺い、公爵は資料に目を落としたまま、次、とだけ応えます。ベガは、こういうの自信ねえんだよ、と小声でぼやきながら着席をして、今度は引き続き、その正面に座っていた、紫がかった黒のボブヘアーをした少女が立ち上がります。
「私は一般科二年、ユリアナ・メルクシアです。本日はこのような場にお招きいただき、誠にありがとうございます」
「げっ、二年だったの?」
思わずエリザベータが声を上げ、ボブヘアーの少女、ユリアナはそれにニッコリと微笑んで頷き、改めて、私は、と続けます。
「パラス殿下とは幼少の砌よりお世話になっており、憧れのこの場へとお呼びいただけたこと、心から感謝しております」
ここから、得意なこと、不得意なこと、メルクシアの領土のことなど、ユリアナは延々紹介を続け、コエリは思わずディセンダント公に目を向けます。
エリザベータの紹介は簡単に打ち切った公爵ですが、ユリアナの紹介には心行くまで話させようとでもいうのか、止めようとする気配は全くありません。
それに、とコエリはそのメルクシア、という名前に、やや政治的な気配を感じ取ります。
メルクシアは、いわゆる辺境伯というやつで、南方の守護神たるデュクローザに対して、北方を守護する北嶺の魔女、もしくは氷雪の魔女として有名な、水、雪、氷といった魔術を得意とする一族が領地を治めています。
実は、メルクシアはコエリにも無関係ではなく、この、メルクシアこそが更に北の領土、スバルから現アセンダント公爵家当主、プレアデス公を脱出させた功労者であり、その縁もあって、いまだにアセンダントとも良好な仲を築いています。
ユリアナについては、コエリとの直接の面識はありませんが、メルクシアは王権派にも血統派にも属さない中立の立場として、政権内でも一定の発言権を有していて、パラスに世話になった、というのも、まだその王権派か、血統派かで争っていた、10年ほど前の時期の話であろうことが推察できます。
そんな子が、あえて魔術師科ではなく一般科にいる、という辺りに、やはり何か事情がありそうな感じもします。当人は、他のことはいくらでも話すのに、けれどそこには自分では全く触れようとしません。
「ユリアナ嬢、そろそろ良いかな? 君の他にあと四人も控えていてな。君一人に時間を使いすぎるわけにもいかない」
「ーーはい、大変失礼いたしました」
と、パラス殿下への想いを延々語っていたユリアナですが、さすがにディセンダント公が苦笑しながら打ちきりを宣言します。さすがに一人で五分以上使われてしまうと、あとの予定が押してしまう、ということもあるのでしょう。なにせ今日は放課後に集まっているのです。既に西日も落ちかけていて、このままでは夜までかかることは必至です。
ユリアナが着席をすると、間髪を容れず次の男子生徒が立ち上がり、苛立たしげに、ゼノビアだ、と名乗ります。
「騎士科一年、ゼノビア・ケルスティン。王立騎士団に入団予定だが、海外情勢にも興味があってこちらへ参加させていただいた。剣の対決なら現騎士団員にもひけは取らん。よろしく頼む」
早口でさっさと紹介を終えると、ディセンダント公の言葉も待たずに着席し、次の赤毛の少女へと起立を促します。下手をすれば無礼ともとらえられそうな、ぶっきらぼうな彼の紹介でしたが、彼の性格的なものも理解しているのか、ディセンダント公もそこに口出しはしてきません。
ゼノビアに促された赤毛の少女は、はいはーい、とピリつき始めた空気を吹き飛ばすように、明るい声で返事をして立ち上がります。
「私はアルトナ・フロスティア、法術科の一年だよ。パラス殿下には、正直そこまで興味があったわけじゃないんだけど、何かお役に立てたらいいなあって参加させてもらいました。みんなとも仲良くしていきたいと思ってるから、これからよろしくね?」
最後には六人の顔を人懐こい笑顔で見渡し、赤毛の少女、アルトナは、これでいいですか? と笑顔で公爵へ断ります。そして、ああ、と首肯したのを見届けてから着席をします。
明るく活発な少女だと思いましたが、法術科、という専科名に、コエリは少し意外な思いを抱きます。法術科はその名の通り法術について学ぶ科で、そこに所属しているということは、彼女の進路的には教会や神官への道を歩む、ということになります。
人は見かけによらないわね、とコエリが思っていると、着席したアルトナは急にコエリに顔を寄せ、後でレターを送りたいんだけど、と話しかけてきます。
いうなれば、現代で言う、通信端末のアドレス交換のような感覚なのでしょう。コエリはその子犬のような少女に静かに頷き、最後の男子、一般科でエリザベータと戦った男子が立ち上がるのを眺めやります。
「ローヴァ・ミルドレッド、一般科の一年だ。剣も魔法も一通り使えるが、武術も知識も俺はまだまだ未熟で、成長できると思っている。メルクシアは一般科でも別格であるし、専科の人間の集まるこの場に呼んでいただけたことは、本当に感謝している。俺はこれを機に更なる自分の成長に繋げたいと思っている」
最後は、よろしく頼む、と告げて深く頭を下げ、ローヴァは最後に残ったコエリへと自己紹介を促します。
コエリは、一応ディセンダント公に目だけで確認して、頷きを受けて立ち上がります。そして、
ーー体感で、一気に五度ほども気温が下がったでしょうか。コエリは闇魔術を起動し、周囲のざわめきを無視して、黒い魔力を漂わせながら、ミディアム・コエリよ、と名乗ります。
「アセンダント公爵家長女、属性は見ての通り闇魔術しか使えないわ。私から言うことは一つ。怖ければ関わるのはよしなさい。以上よ」
硬い声で簡潔にそれだけを述べ、闇魔術を消して、コエリは着席をします。
ーー別に、コエリは人から距離を置くためにわざわざ闇魔術の発動をしたわけではありません。闇魔術のなんたるかを知らない人間が、やたらと構いつけてきた挙げ句、闇魔術を見た瞬間に恐怖し、掌を返してコエリから逃げ出すーーそんなくだらない茶番に関わりたくないだけなのです。
闇魔術を怖がる人間であれば、どのみちコエリと深い仲になどなれるはずがありません。だから、最初にそれを見せてしまって、離れたい人間には最初から離れさせておく。それだけのことです。
コエリは、それだけ覚悟をして闇魔術の起動をしました。あとは、それを見た周りがどう反応するか、ですがーー
「う、、」
最初にうめくように声を出したのは、隣に座っていたアルトナでした。先程までの快活な少女はどこへやら、俯き加減に身体を震わせていて、法術科の生徒には刺激が強かったかしらね、とコエリは冷めた心でそれを見やります。
さっきはみんなと仲良くなりたい、などと言っていたけれど、闇魔術の使い手と知って仲良くなるなど、そうそうできるものではありません。コエリはわずかな失望と共にそこから目を外し、
「うっそおお!? スゴいスゴいスゴい! なになになに、今の何!? コエリなの!? えっ、魔術の天才!? 神の奇跡!?」
その腕を、手加減も遠慮も一切なく、がっしりと握って、目をキラキラさせ、アルトナが猛烈な勢いでコエリへと迫ってきます。あまりの勢いと迫力に圧倒されてしまって、さすがのコエリも返す言葉がありません。
「まあ、、外での天候魔術と言い、驚いたのは確かだが。ここにいるということは、少なくとも我々の味方なのだろう? 味方を恐れる人間など騎士にはいない」
と、斜め向かいの席からぶっきらぼうにゼノビアが続け、その更に隣で、ベガが、お前もよくやるよな、と笑いかけてきます。
「お前、今のそれクラスで最初に自己紹介したときと丸っきり一緒じゃん。もう三ヶ月近く経つのに、変わんねーな、お前も」
「最初はそりゃ、ちょっと怖いなとも思ったけど、、もう三ヶ月もいるんですからね。今更その程度で怖がったりなんかしないわよ」
ベガに続いて、更にエリザベータも腕組みをして、ふん、と鼻を鳴らし、どことなくツンケンした雰囲気を漂わせながら、けれどどこか優しさを含んだ言葉を投げてきます。一番向こうの席にいるためか、結構声を張っていましたが、そこに柔らかな響きが混じっていることに、コエリは意外な思いを抱きます。
莉々須からは、エリザベータは原作で積極的にコエリの取り巻きになった一人だと聞いていました。けれど、普段の言動からしても、今のコエリとも仲良くなれる素地があるとは思っていませんでした。それも、今のエリザベータを見ていると、本質的には周囲に理解をされにくいもの同士、案外気が合う二人なのかも知れない、とさえ思えてきます。
「君の闇魔術は、俺たちも演習でずいぶん見せてもらったが、、あの時、君は四属性の魔導球の防御に関わりない、闇魔術であれば俺たちへ攻撃することができたはずなのに、自分がいくら攻撃されようと、誰一人攻撃しようとはしなかった。君を恐ろしく思う気持ちは、今の俺たちにはない」
「単に魔力が脅威と言うのなら、メルクシアもずいぶん人には怖がられてきましたからね。アセンダント様には今でもお世話になっておりますし、私たちは仲間、ですよ」
更に、ローヴァとユリアナも続け、コエリは、ただただ驚きと、自分でもよくわからない気持ちになって、ディセンダント公へと無意識に目を向けます。
公爵は、ーーそれはもう、本心から、嬉しそうに頷いてみせ、
「良かったな」
「、、!」
その、優しげな声の響きに、コエリは、思わず皆に背を向けて、顔を手で覆って、深く深呼吸をして自分の心を落ち着けます。
、、今自分が、どんな状態になって、どんな表情でいるのか、、わかってはいましたが、それを素直に皆に見せることは、できなくて。
だって、それは、同年代の男女全員から受け入れられるという、今までに一度も体験したことのない、けれど、心のどこかではずっと、ずっと望んでいたことで。
人から拒絶されないということが、こんなに心休まるものなのだと、、コエリはそれを心に刻み付け、一つ自分に誓いを立てて、大きく深呼吸をして、目元を拭い、、改めてもう一度皆へと向き直ります。
皆はまだ、コエリへと優しげな瞳を向けていて、ディセンダント公の人選に間違いはなかったことを、改めてコエリは理解します。そもそも、コエリをよく知るディセンダント公が、コエリを怖がるような人間を連れてくるはずもなかったのです。
「さて、一通り自己紹介も済んだことだし、では改めて皆に話をしようか」
ディセンダント公は、場がうまくまとまったところで、そう言って司会を引き受け、早速今日皆を招いた理由、これからしてほしいこと、今後の予定などを話し始めました。