ホロスコ星物語211
結局、ベッドで寝かせてすぐにベスタは眠ってしまって、自分もちょっと手持ち無沙汰になってしまって。隣のベッドに腰かけたところで、なにやら足元から声をかけられます。
「おい嬢ちゃん、一回表に出な。ここで俺が出てきちゃまじいんだろ?」
「え、、? や、そりゃそうだけど、、」
別に、こっちはずっと影にいてくれてもかまわないんだけど。どうも、レグルスの方が用があるみたい。言われた通り、宿屋の主人さんに一言だけ断って、宿屋の裏に移動します。
宿屋の裏手は、ちょうど他の家の壁で囲われた袋小路になっていて、誰もいないのを確認してから、レグルスが姿を現します。どこか不機嫌そうというか、、なんとなく、いつものレグルスとは違うみたいに。
その、不機嫌そうな表情のまま、レグルスは遺跡からここまで、背中に積んでいた、布で覆われた荷物を地面へと下ろします。
「おい聖女サマよ、そろそろこっちもどうにかしろよ。いい加減こっちも限界だぜ」
「限界、、? どうかした? ベスタについて、何か知ってるの?」
「おい、、どうしたじゃねえよ。呑気に言ってるが、こいつを忘れてんのか?」
レグルスは腕組みをして、その転がっている毛布を顎で差し示します。
言われてみれば、、遺跡を出て、とにかくあそこを離れることを優先したから、それが何なのかとか、どこで拾ったのかとか、聞くのも忘れてたよね。そういえば、これって何だったんだろう。
開けていい? と一応確認してから、身を屈めて布に手を伸ばしてーーまさかあの魔力体には関係ないよね、と一瞬警戒する気持ちが湧いてきます。自分が魔力を失って、色々死にそうな思いをしたこと、最後のコエリの微笑みまでを、思い出して。
でも、、まさか、そんな魔力体に関係するような何かを、レグルスが持ってくるとも思えないし。とりあえず地面に膝を着いて、その覆われたものが、結構なサイズ感があることを確認します。それこそちょうど、人一人分くらいは収まりそうな感じに。
じゃ、ちょっと怖いけど、そっと布を外して、、ーーや、待って。
、、なんか、見て良いのか悪いのか、よくわかんないものが視界に飛び込んできた気がして、一回その布を戻します。
で。すー、はー、と一回深呼吸。落ち着け、私。
もう一回、開け、、る前に、ちらっとレグルスを見上げて。
「あの、さ、、レグルス? これ、何?」
「あ? 見りゃわかんだろ?」
もったいぶってねえで開けろよ、とか言いながら、レグルスはその布に手をかけて、今度こそその布を、一息に取り払ってしまいます。
「、、、やば」
うん、、見間違いじゃなかった。
中から出てきたのは、赤いショートヘアが特徴的な、活発そうな顔立ちの少女で。盗賊にでも拐われたのか、ちょっと痩せこけた雰囲気があったり、所々薄汚れてしまってはいるものの、明らかに王都の王立学院の制服を着ていて、目は閉じられていて、完璧に気絶した、女の子です。
これって、明らかに犯罪臭がするよね、、どこからどう見ても学院生だし。女の子だし。可愛いし。や、でも要するに、なんでこんな女の子があの遺跡から出てくるのよっていう話でもあって。
さすがに、レグルスが何かしたわけじゃないと、、思いたいけど。でも、一抹の不安が拭えなくて、思わずレグルスに、ねえ、と呼び掛けてしまいます。
「まさかこの子、レグルスが拐ってきた、、とか、ないよね?」
「ああ?」
心外だ、というかもはや、何寝ぼけたことを言ってやがる、とあからさまに呆れた様子で、レグルスは片目を軽く細めて、こちらを睨んできます。それから、更に苛立ちを増した雰囲気で、人の目の前で同じく片膝を付いてきて。
「ボケたのかよ聖女様、こいつがアルトナ・フロスティアだろ!?」
思いっきり叱りつける口調で、あー、そう、そりゃそうか、、こんな砂漠で学院の制服って、確かに、それしかないよね。アルトナ自体を、学院でも見た記憶がなかったし、最初に布を外したときに見えた赤い髪と、何より女の子をレグルスが抱えてたっていう、その光景が衝撃的すぎて、そっちに意識が回りませんでした。
でも、そっか、、そっかあ。それってやっぱり、あの遺跡にアルトナはいた、っていうことで、それも、ちゃんと生きてはいたっていうことだとわかって、ようやく一安心ーー
って、嘘、安心できないってば!
「ちょっと待って、アルトナ、どう見ても死にそうじゃない!? 今すぐ主人と話付けてくる!」
顔色の悪さもさるものながら、呼吸がもう、ひどく浅くて。その身体を抱えてみて、それがまた驚くほど軽く、命の灯火自体、ひどくあやふやなもののように感じられてしまって、レグルスの反応も待たず、すぐさまそのまま宿屋へと駆け込みます。
宿屋では、ご主人が鍋に火をかけて何かを作っていて、飛び込んできた勢いに驚いたのか、うお、とかいう声が聞こえてきます。でもごめん、そんなのは全無視でベッドへと駆け込みます。
「お、お嬢さん、外で何やら声がしていたが、急にいったい、、」
「ごめんなさい、この子もお願いしたいんです!」
先日厚意に甘えたばっかりで、ちょっと心苦しい気持ちはあったけど。顔色も土気色で、ベスタに輪をかけて悪く、本当に今にも死んじゃいそうで、とにかく一度アルトナの姿勢だけ整えて、宿の主人には振り向き様に一回思いっきり頭を下げて、返事も待たずにまたすぐにベッドのアルトナに向き直ります。
もう、、何日食事をしていないのか、目は完全に閉じられていて、肌もカサカサだし、脱水症状、栄養失調、、色々と言葉は思い付くけど、これはもう、本格的に死の縁にいることは間違いありません。
でもじゃあ、自力で目も開けてられない子に、どうしたら良いのかっていうと。
「お嬢さん、、言いにくいことだが、、」
宿の主人は、横からアルトナを覗き込むと、ベッドを使われたことにではなく、気の毒そうと言うか、難しい顔で、首を振って、明らかに、アルトナについての言葉を発していて。
たぶん、もう助からないとか、言いたいんだろうけど、、そんなの、認めるわけがない、、!
「アルトナ、、! 諦めないで!」
怪我とか病気のような、治癒ではないから、光魔術では意味がないとして、、今もうここで決定的に欠けてしまっているのは、生命力そのもの。だからここでは、それを補えるような、補充できるような何かが必要ということ。
ーーだったら、、アルトナに両の掌を向け、ゆらりと立ち上る魔力そのものを、凝縮、精練して、アルトナへ放射する準備を整えます。
ベスタが起きていれば、もう少し適切な制御とか、コントロールとかも教えてもらえるんだろうけど、、ちらっと横目で目を閉じるベスタを視界に納めて、ここで、遺跡で聞いた、ベスタの言葉を思い出します。
魔力っていうのは、日々生成され取り込まれる、生命力の変異体のようなもの。だから、呼吸でも食事でも、生きている限り、魔力は体内に蓄積する、、その程度や、生まれもった内在量、素質が個人で変わるだけで。
だったら。
逆に、魔力そのものを強引に送り込んで、生命力に変換することだって、できるはず、、!
「お、お嬢さん、、!」
「私は、大丈夫だから、、アルトナを、お願い!」
ぶわっと、立ち上ぼり放出される魔力で、周囲には白い、靄のように揺らめく光で満ちていきます。焦りか不安か、宿屋の主人の声もするけれど、、ごめん、そっちにかまってあげてる余裕なんてなくて。
アルトナの魔力に、早く、正確に、極力性質が近くなるよう、チューニングを合わせて、受け入れやすいようカタチを整えて、、魔石化しないよう、凝縮して。
その、炎のように自分から噴出する魔力を。
少しずつ、でも、暴走しないよう、送り込んでーーその魔力を、生命力に、変換すれば、、!
「っ、、!」
少し無理矢理ではあったけど、魔力の注入、生命力への変換と、一応形だけは維持できて、、アルトナの顔色は、少しだけ良くなってはいそうです。だけど、、時折その身体が、ピクピクと不規則に跳ねたり、痙攣したりもしていて。
そう、、放出する魔力量が、たぶん多すぎて。原理の不確かな魔力の行使をしている手前、上手に制御もできないし、アルトナから流出している魔力もかなりの量に及んでいて、器を超えた魔力が、その色んな副作用みたいなものを、アルトナに現してしまっている感じがします。
どうしよ、う、、続けることは苦ではないけど、これ、萎んだ風船に一気に空気を注入して、破裂寸前にどうにか生命力に変換して、また元の状態より少しまし程度まで萎ませているような感じで、明らかにアルトナの身体に過負荷がかかってるし、このまま続けてアルトナの身体が持つのか、目を覚ませたとして、正常に起き上がることができるのかもわかりません。
魔力が不安定というか、制御が、、一度にアルトナに突っ込む魔力が、あまりに膨大で。でも。
「ーー小恵理」
その、不安定な魔力をーー不意に横から伸ばされた手が、柔らかく、形を整えるように、ゆったりとした動きで、抑えてきます。
その声と、手が、隣のベッドから伸ばされてきてるのを見て、思わずそちらに目を向けて。
「ーー小恵理、あなたの魔力は、アルトナには強すぎます。もっと、抑えて良いんです」
「ベスタ、、! お願い、そのまま協力して!」
そう、それも、わかってはいたんだけど、、どうしても、自分の魔力が、自分でも、どうしても、制御しきれなくて。砂漠で滑走した時みたいに、目一杯使うだけならいくらでもできそうなのに、大きく使いながら制御するっていうコントロールが、思いの外うまくいかないのです。まるで、暴れ馬でも相手にしているみたいに。
自分の魔力が強く、大きくなっている実感はあったけど、、ここまで、制御不能になるなんて。でもベスタは、わかっています、と頷いて、横から魔力の導線を整えるように、アルトナへの供給の経路を細く、過剰供給にならないよう、均してくれています。
それから、ベスタはベスタらしい緻密さで、余計な魔力も削ぎ落として、より正確に、的確にアルトナへと魔力を与えながら、多すぎた魔力の流出も止めて、生命力への変換まで補佐をしてくれていて。テクニカルというか、、本当、その制御の正確さに感心させられるっていうか。半分で良いから分けて欲しいくらい。
「、、とりあえず、こんなものかな?」
やがて、白銀の光も落ち着いてきて、、アルトナの顔色は、少し青白いものの、呼吸も落ち着いていて、もう命の危険がない程度まで回復したのかな、と思えたことで、ようやく魔力の奔流を止めます。
たぶん、、アルトナはこれでもう、大丈夫なはず。まだ目は閉じられているし、物理的な栄養はこれから摂ってもらわないといけないけど、肌艶も多少は回復して、頬に赤みも差してきて、さっきまでのような、死への危機は感じられなくなったと思います。
さすがに、目までは覚まさないようだけど、、額の汗を拭いながら、ありがとう、とベスタへとお礼を、、って。
「ベスタ!?」
今度は、ベスタの方がまたベッドの上で倒れ込んでしまっていて、思わずその肩に手を触れ、しっかりして、と声をかけようとして、
「、、?」
何か、妙な気配が、ある、、?
疑問に感じた、その一瞬の間に、宿屋のご主人がベスタの腕を取り、脈を調べます。
「あ、あの、、」
「少し、脈が弱いな、、お嬢さん、このお付きの人は、今は休ませてあげた方がいい。疲れが溜まっていたところ、急にまた無茶をして気絶してしまったのでしょう」
疲れが、溜まっている、、一見そう見えることは、間違いないけれど。その宿屋のご主人の言葉を一度反芻してみますが、どうもしっくり来ません。普段のベスタなら、これくらいで倒れることなんてまずないし、何より、、今の、違和感は。
首をかしげて、もう一度ベスタに触れてみようとして、けれど、それは宿屋のご主人に手を取られて阻まれ、さあ下がって、と肩を押され、ベスタから引き離されてしまいます。ご主人、ぶっちゃけ邪魔です。
「あの、でもあの、アルトナはっ」
「ああ、そちらも心配はいりません、お嬢さんは外で町でも眺めててください」
さあさあ、と背中を押され、ああもう、人の話も聞いてくれないし、結局外まで押し出されちゃったじゃん。しかも布も上から簾みたいなものを下ろして閉じて、中からクローズ、閉店に看板が切り替えられます。
「や、だから、もう、、! 野宿でもしてろっていうの!?」
さすがにクローズって。ベッドが埋まったからって言っても元が二つだけだし、弱っている人は保護してくれたけど、健常者は放り出してもなんとかなる、みたいな感じの対応みたいで、ちょっとイラつきます。せめて中にくらいは入れるようにしておいてほしい。
「ま、良いんじゃねえの? アルトナは助かったんだろ?」
ーーと、レグルス、またいつの間にか影に潜ってたみたい。足元から野太い低い声が響きます。部屋には入ってこなかったし、見てはいなかったはずなのに早速全部察知してる辺り、大した洞察力だとは思います。むしろあの場で出てきてくれてたら、宿のご主人だって閉めるのは思い止まってくれてたかも、とも思ってしまうけど。
「ねえレグルス、あなたベスタの不調の理由とか知らないの?」
簾を上げて、強引に入れば宿にも戻れると思うけど、、押し込み強盗みたいで、なんとなくやりたくないし。あれだけずっと身近にいたレグルスなら、原因もわかってそうだし、と一回自分の足元へと疑問を投げ掛けてみます。
、、でも、レグルスからの返事はなし。普段は雄弁なくらいよく喋るくせに、変なところではだんまり、ってわけ。
「、、とりあえず、聖女サマは次の龍頭山脈のことでも考えておきな。麓にダクティルがあるから補給には困らねえだろうが、あそこも一筋縄じゃ行かねえぞ」
と、やがてレグルスは、少し静かな声で、足元からそんな言葉を返してきます。なんとなく、自嘲するような、、どこか沈んだような声で。無力感、、とはまた、ちょっと違うと思うんだけど。
ーー龍頭山脈、ね、、コエリが、幻ではあったけど、待ってると言っていた場所で。この龍尾砂漠と並んで、プロトゲネイアとゾディアックの間に位置する危険地帯で、これまでのピッカ山やイスパニア山、龍尾砂漠と同じく、何か逸話のようなものがある、という話は聞いています。
なんだっけね、これまでのイスパニアや砂漠とは、もう少し毛色の違った逸話だったと思ったけど、、そんな行方不明になるやら永遠にさまよい歩くやら、そういった命の危険を感じさせるものじゃなくて、もっとこうーー
「神の領域に最も近い山、願いを叶える奇跡の山、ただし、最も重い代償をもって、、ってやつだ。普通に登る分には、大した危険はねえと思うがな」
レグルスは、こっちの考えを読んだように、そう言葉を続けてきます。
最も重い代償、っていうのが何なのかは、あまり知られていないみたいだけれど、そう、その噂もあって、かなりの数の旅人がこの山に挑んだ、という話は聞いたことがありました。勿論ベスタから。
「でも、そもそも神様に会えたなんていう話もないし、その代償とばかりに命を落とした人も大勢いる、っていう山なんだよね?」
逸話自体に危険は感じないけど、その噂が広がったために危機は増えた、っていう感じなのかな。神の領域に近いって言うだけあって、とにかく標高が高い山だから単純に遭難や滑落の危険は増えるし、挑んだ人数が多ければ多いだけ死者も出てくるっていう、普通っちゃ普通、当たり前っちゃ当たり前の話が広がってる、っていうわけです。
だから、この龍頭山脈自体には特に、それっぽく難関っていうイメージはなかったんだけど。
レグルスは、おい、と呼び掛けてきたと思ったら、急にまた姿を現してきて、今度は急に宿の簾に手をかけてきます。
「ちょっと、レグルス、、!」
「よっと、お邪魔するぜ」
いやいや、お邪魔するって。レグルス、呼び止めたのに勝手に簾を上げて宿に入っていっちゃって、同時にご主人の、ぎゃあ、とかいう声や、ばばば化け物、とか叫ぶ声が聞こえてきて、慌てて中へと追いかけます。
「ちょっと、レグルス!」
「俺は何もしてねえよ」
ちょっと顔を見せただけだぜ、と。レグルスは本当にただその巨躯を晒しただけみたいに、両手を上げてこちらを振り返ってきます。
で、宿のご主人は、奥で腰でも抜かしたみたいに、座り込んで震えながら、料理用のお玉なんて持って、レグルスへと構えていたりして。
「あの、すいません」
「ああああ、あの、この人は、魔族、ですよね!? 実はあなた、魔族の仲間とかいう」
「仲間っていうか、、レグルスは、一応同行者なんですけど」
一回、落ち着いてください、って手を上げて呼び掛けてみるけど、ご主人、本格的に怖がっちゃってて、ぶるぶる震えながら、首を横に振るばかりです。なんか、こっちまで怖がられてきてる気がするし、最悪宿から追い出されそうな気がして、レグルスへ、ねえ、と強く呼び掛けます。
「もう、、レグルス、なんで出てきたのよっ? 怖がってるじゃないの!」
「そりゃ、顔を見せておいた方が良さそうだったからだろ」
何言ってんだ、とレグルスは肩を竦めます。だからなんでよって感じだし、でもレグルスはそのまま震えるご主人へと無造作に近付いていて、
「ひ、ひいっ、来ないでくれえ!」
「心配すんなよ、ただの顔見せと、あんたに言っておくことがあっただけだ」
お玉を両手でかかえて縮こまるご主人に、レグルスは、目の前で片膝を付いて、目線を揃えてから悪く口許を歪め、そんな心配すんな、と気さくな感じに話しかけます。爽やかに軽く微笑んで、普段よりちょっと穏やかな感じっていうか、無害を装ってる感じに、ご主人もちょっとだけ震えが収まったみたい。
「は、話、、ですか?」
「ああ、あんたにゃ朗報と悪報が一つずつだ。どっちから聞きたい?」
うわ。なんか、、詐欺っぽい言い回しが気になるんだけど。それ、よくブラックジョークで使われるやつだし。
ご主人は、ちょっとだけ迷ってから、
「あ、悪報からお願いします」
「ああ、そいつはな、このお嬢ちゃんがちょっとしばらく宿から離れるぜ」
は?
思わず宿のご主人とハモっちゃって、お互いに目を見合わせます。
そんな話、今までに一回もしてないし、今宿から離れたらベスタとアルトナの二人をどうすんのよ、と抗議の意味でレグルスを見やり、
「で、では朗報は?」
「ああ、その代わりにな、俺がここでお前さん方をしばらく見ててやる」
レグルスは、俺が見ず知らずの人間を守ってやるなんて何回もねえ、喜べよ、とか笑いかけて、ご主人の肩をポンポン、とか叩いたりして。
宿のご主人は、魂が抜けたみたいに呆然としていて。まーそりゃそうよね、急にそんなの言われたって、何事って感じだろうし。
ーー何より、それどっちも悪報、と言わんばかりの反応をするご主人に、ちょっと同情の目を向けながら。
「レグルス?」
さーて、、事情を知らないのは、こっちも一緒だからさ。
そんなレグルスの肩に、ぽんぽん、と手を置いて。
「事情、聞かせてもらうからね?」
「、、、おう」
静かに、笑顔で、ただし軽くじゃ済まない程度の殺気を放ちながら。
そんなレグルスの顔をひきつらせるほどの迫力でもって、レグルスへと、ね? とゆっくりと首をかしげました。