ホロスコ星物語197
「、、何かあったのですか、小恵理様?」
小恵理は、心配そうに問いかける、綺麗な澄んだ声に、ちょっとだけ安心感を覚えて、うん、、と心細げに答えながら、ゆっくりとメイドさんを振り返ります。
メイドさんと逃げ込んだ小部屋は、天井は腰より少し高いくらいで、座ることはかろうじてできるけれど、とても立つことはできません。この部屋、下にはちゃんとした屋根裏部屋があって、屋根裏の更に屋根裏という、ものすごく限られたスペースを使っているようでした。そもそもの屋敷自体が、とても大きいからできる芸当って感じ。
メイドさんも、心配そうに眉根を寄せながら、屋根の角度の影響で急な傾斜の付いた壁に、器用に寄りかかる形でこちらに問いかけていて、収まり方を心得ている辺り、本当に隠密の隠れ家なんだ、ということを感じます。その奥の小箱の中身は、、まあ、うん、気にしないでおこう。なんか薬品臭がするけど。
「あの、ごめんね、、まだ仕事中だったよね? ありがとう、部外者なのに、案内してもらって」
王子とは、顔を会わせたくなかったから、と膝に顔を埋めて、またどことなく悲しい気分になって謝罪して。いえ、、と言って少し驚いた顔を向けるメイドさんから目を落として、小恵理は大きく息を吐きます。
そりゃ大半は、強引すぎる王子のせいだとは思ってるんだけど、、王子の説得をする、とか言いながら部屋を出てきたのに、結局、最後には、こっちが腹を立ててしまって、、王子相手にあんな乱暴に腕を振り払って、嫌味みたいなことまで言ってしまって。
形だけの婚約者とはいえ、王子相手にわりと無礼なことを口走った自覚は、今更だけどあります。結局あれで本当に侯爵への怒りが収められたのかは、全然自信ないし。怒りがこっちに向いてくれる分には全然いいけど、八つ当たりでもさせてたら、本末転倒もいいところです。
「私って本当、堪え性ないんだなあ、、」
きっと、もっと大人しい子だったら、ひたすら謝罪して王子の機嫌を取るとか、もっと大人な、コエリみたいな子だったら、きちんと冷静に話をするとか、できたんだろうけど。そういう可愛らしさとか控えめさとか求められるような役割は、やっぱり自分には向いてないんだなと、今回の件ではつくづく痛感しました。もうさっさと魔王退治にでも行って、暴れん坊聖女として怖がられるくらいでお似合いって感じなのかもね。
あれで怒り狂った王子に、やっぱり侯爵など領主に据えてなどおけない、とか言われてたらと思うと、侯爵にも申し訳ないし、、今でも侯爵に仕えてる様子だった、この子にも迷惑をかけるんだろうな、と思って、小恵理はもう一度、ごめん、とメイドさんに謝罪します。
それから、ここでも居たたまれない気持ちになって、小恵理は、本当何やってんだろ私、と大きくため息をついて、ますます膝に顔を埋めてしまいます。勝手勝手って言われてたけど、それもわりと正しいんだよねえ、、今回みたいに、突然暴走しちゃうのは悪い癖だとは思ってるし。王都でも、ちょっと自由に振る舞いすぎてたかなとは、今更だけど思うし。
それにーー生き急いでいたのかもしれない、という思いが、今の自分の胸中には、生まれていて。
はあ、、と、そんな、半分自己嫌悪に陥って消沈する小恵理に、メイドさんは、優しく微笑みながら、失礼しますね、と一言だけ断りを入れて。こちらに器用に膝立ちのまま移動してきて、スカートが皺にならないよう整えてから隣に座り直し、そっと寄り添うように、背中に手を添えて、肩を触れあわせます。
「小恵理様、、私どもは生涯侯爵様にお仕えする身ですので、小恵理様の悩みの本質を真実、理解することは難しいのかもしれません。ですが、、苦しいときは、聖女様であっても、弱音を吐いて良いと思います」
優しい、さらさらとした、心の中に自然と溶け込むような声でメイドさんはそう言うと、何かに気付いたのか、あ、、と不意に口許に手を当てます。
「驚かせましたら、申し訳ありません。小恵理様が聖女様である、というお話は、侯爵様が捕縛される前に、おそらく、と侯爵様からお伺いしておりました。ですので、こちらへご案内申し上げた自体は、私たちは、かまいません。ですが、、貴女様は」
メイドさんは、何か、お辛いことがあったのですよね? と。耳に心地好い、包み込むような、優しい声で問いかけてくれて。それから、失礼します、と妹でも相手にするように、髪をそっと、整えるように撫で付けてくれます。そういえば、さっき、この子に派手に激突して転がってしまったから、土埃が自分の髪にも付いてしまっています。
その、むしろ吹っ飛ばされた側で、もっとひどいことになっているはずの髪を梳いている本人の髪には、土や汚れが全く残ってない辺り、どんな早業、とか感心もしてしまうけど。その土くれを取り除きながら、メイドさんは、ですから、と話を続けます。
「もし、何か、、お話になりたいことがありましたら、私でよろしければ、お聞きいたします」
「、、いいの?」
「はい、この部屋は万一の際の隠し通路でもありまして、結界の盗聴機能の外にありますから、どうぞお気兼ねなく」
ここなら誰かに聞かれる心配も、見つかる心配もございません、とメイドさんは、よほどの相手以外には秘密であろう内容を口にしながら、優しく微笑んでくれて。口の固さには自信があります、今滑らせた直後ですけど、なんてちょっとだけおどけた風に、笑ってくれて。
侯爵の妹のような存在、、と、確か伯爵とは話していたっけ。なんとなく、昔からこんな風に侯爵を支えてきたのかな、と思うようなメイドさんの優しさが、今ならちょっとだけわかる気がして。
こんな話、どうしたって愚痴めいた話になるとはわかっていたけれど、、小恵理は、少しだけつられて微笑み、うん、と小さく頷きます。気持ちを吐き出さないと、やっぱりやってられないのは、確かだったから。
だから、せっかくの厚意に甘える形で、さっきまで侯爵の部屋でどんな話をしていたのか、部屋の外に出た後、それで王子からどんな仕打ちをされたのかまで、聞かせても問題ない範囲だけ、メイドさんへかいつまんで話していきます。思えば、王子の振る舞いってどれを見ても、完全にパワハラというか、女の子に対する挙動じゃないよね。暴力沙汰一歩手前、、ううん、手遅れレベルじゃないのかな。今も揺らされまくった首とか、ごつごつ拳をぶつけられた鎖骨の辺りとか痛いし。
でも逆に、あんなに感情的になって怒鳴り散らす王子っていうのも、最近じゃ見なかった気もしていて、、迷惑だとか、考えなしだとか、色々心ないことも言われたけど。今思うと、その奥底の心には何があったんだろうと、気にかからないこともなくて。
「なるほど、それで、更に怒鳴られてしまって、、」
「うん、、そもそも王都を黙って出ていったのは、それは私も悪かったとは思ってるけど、、でも、話そうと思ったって、自分が悪いんでしょ、って思っちゃうし」
「そうですね、、小恵理様にも、急がなければならない事情があったのですよね?」
「うん、、そう。なのにジュノー、話を聞こうともしないでーー」
、、さすがに、聞き上手というか。今も内側に眠るコエリについては、やっぱりメイドさんにも話せないけど、、本当よくできたこのメイドさんは、必要以上には踏み込んでこないし、察してほしい部分は敏感に洞察を働かせてくるし、本当優秀な、良い子だと感じます。侯爵が可愛がってるっていうのもよくわかります。
しかも声も綺麗で、ビジュアル的にもめっちゃ可愛いし、見て良し聞いて良し話して良しって、もう理想そのものの女の子だよねー、、なんか、聖女とかいう重責もないし、見た目ほど気楽じゃないんだろうけど、羨ましくなってきたな。王子に聖女廃業させられたらここで雇ってもらおうかな、とか、そんなことも考えてしまいます。
ーー本当、重責が、ないもんね、、聖女じゃないんだから。
「本当、だからねーー」
そんなこんなで、気が付けば、どれだけだか、胸のつかえが取れるほどに話を、させてもらって。
気持ち的にも落ち着いて、笑顔を見せられる程度には、心も回復してきた辺りで、小恵理は、ごめん、と一つメイドさんに謝罪をします。
「ーー、私に、何の謝罪をされていますか?」
「うん、あんな勢いでぶつかっちゃったのに、ここ、隠れ家だよね? 案内してもらって、話を聞いてもらって、、貴賓室でもずっとお世話になってたし、ごめんね、本当、助かっちゃった」
小恵理は、本当に感謝して、笑顔で、ありがとう、と礼を言います。隠密だってわかってからだって、キチンとした対応はしてくれていたし。
ーーと、今更ながらに思い出して、そうだ、、! とメイドさんの背中へと手を伸ばします。
「ごめん、そうだ、背中めっちゃ痛かったよね!? 大丈夫!?」
「っはい、少々痛みますが、、鍛えていますから」
メイドさんは、笑顔でそう言ってくれますが、触ろうと思った瞬間、反射的に身体を跳ねさせて背中を隠していた辺り、しかもちょっと笑顔に冷や汗が流れてた辺り、とても軽傷だとは思えません。なのに、ずっと我慢して話を聞いてくれて、、小恵理は、待ってて、と警報結界の感度、本当にその範囲に穴があることを確認してから、ここなら魔術を使っても大丈夫そう、という判断で、抑え気味の光魔術を使います。もし範囲内だったら王子にバレちゃうから、それだけは警戒して。
「これは、、」
「陰影スキルを使うのは、今はまだ、もし近くに魔王がいたら、ちょっと怖いし、あんまり強い魔術を使うと、結界の外でも探知されちゃうと思うから、、ちょっと弱い魔術だけど、、ごめんね」
本当なら、カイロンを呼び寄せられて悪いことなんてないんだけど、、今は、王子があれだし。二人が衝突なんてしたら、冗談じゃ済まないし。
だから今は、彼女から、痛みも引いて、筋肉や血管、神経その他の損傷も、しっかり回復できるように。少し長めに光魔術を使って、これくらいかな、という目算で、一度魔術の使用を終わりにします。
「ごめん、私、考えてみたら治癒魔術ってあんまり使った経験がなくて、、加減がわからなかったから、痛みが残ってたらもう少し続けるけど。大丈夫そう?」
「ええ、、ありがとうございます、聖女様」
隠密なメイドさんは、それに輝くような、嬉しそうな笑顔で、そう答えてくれて。でもその聖女呼びに、うっ、と思わず固まってしまいます。
確かに、光魔術の使い手は聖女呼びされることも多いし、この聖女呼びは、むしろ侯爵から言われていたことを、自分なりに確認できたことで呼んだ、確信の聖女呼びだとは思うんだけど、、でも正直、今は聖女って言われることが、重荷で。
さすが、すぐに気が付いて、メイドさんは、ご不快でしたか? 申し訳ありません、とか神妙に眉根を寄せて、謝罪してくれて。勿論、良かれと思って言ってくれたんだろうから、そんな顔をさせてしまって申し訳ないとは思うけど。
小恵理は、謝らなくて良いけど、と、ううん、、と思わずぎこちない動きで手を振ります。
「や、一応私、聖女ってことにはなってるし、時々は自分で名乗ったりもしてるから。ただ、ね、、今そう呼ばれるのは、ちょっと気分が微妙っていうか、気まずいっていうか」
「申し訳ありません、もし不都合がおありなら、控えますので、、」
「や、ううん、不都合っていうわけじゃ、、」
うーん、、本当は、この子には聖女呼びくらいさせてあげたいんだ。最近ずっとお世話になってたし、今だって助けてもらったし。あのまま逃走してたら、王子との果てない鬼ごっことかさせられてた気もするし。
ただそもそも、自分の中では、聖女といったらもう一人、王都に残した聖女の方が本家本流の聖女だと思っているから、自分ではあまり名乗りたくないとか、それに、ーー王子に啖呵を切るときに言ってしまった、聖女の責務、とか、、ね。
みんなの幸せのため、魔王退治をして平和をもたらすため、力を使うことは、嫌いじゃないし。そのために授けられたチート能力というのは知っているから、努力したいとも思う、、けど。あの、王子に向かって口に出した時、それが自分でも思っている以上に、そのことが自分の心の負担になってしまっていることを、自覚してしまって。
面倒を避けるためとか、家に迷惑がかかるからとか、まだ未熟だからとか。それこそ侯爵に話したように、今までは自分でも何かと言い訳をして、聖女と名乗ることは避けていたけど、、今ならそれが本当にただの言い訳で、単に自覚がなかっただけで、自分が聖女と名乗りたくなかった理由の本質は、ここにあったんだと。今なら、わかります。だから、自分も周りを見てる余裕がなかったのかもしれない、と。
だって、世界平和とか魔王退治とか、言うほど楽じゃないよ? スケールだって大きいし、戦いになれば、いくらチート能力があったって危険もあるし、いつかは死ぬかもしれない、もっと酷い目に遭うかもしれない、そんな何の保証もない中で、あちこち国を廻って大勢の人と関わって、、自分を聖女と知る人は、誰もが自分に、魔王退治や世界平和を期待してくるだろうし。困っている人がいたら、勿論見て見ぬふりだってできないし。
だから、せめて聖女と名乗っていなければ、みんなに自分が聖女なんて知られていなければ、そんな重責からも、ちょっとくらいは自由になれるのかもしれないーーなんて。王都を離れた、見ず知らずの土地なら、そんな自由もあるのかもしれない、なんて。そんな淡い期待から、自分から聖女なんて名乗りたくなかったんだ、、と。衝動的に口にしてしまった、今だから、わかります。
でも、ねーー結局、自分が聖女であることはやめられないし。この、表向きとはいえ領主を罷免され、今はただの囚人として、貴賓室に閉じ込められているベツレヘム侯爵に、今も迷うことなく、当たり前のことのように、生涯侯爵様に仕える身、と言いきったこの子を見ていると、自分もそんな覚悟を決めないといけないのかな、という思いも、湧いてこないでもなくて。
本当は、啖呵を切る時とか、必要だと思う時くらいしか、あまり聖女という名を広めたくないのが本音だったんだけど、、一応転生させてくれた神様的にも、あっちは主人公的に無条件に聖女だけど、こっちはネイタルの覚醒を全部終えてようやく聖女って認識っぽいし。せめて全部覚醒するまでは、とかね。でも、それも都合が良い話だよね。困っている人はまだまだいるかもしれないし、聖女って知っていれば、助けを求めてくれるような人も、もっといるのかもしれないし。
今は、アルトナの捜索が最優先だけど、、一応、このことは、意識には留めておこうと思います。あとーー、この子も、ね。
小恵理は、こっちをキョトンとした顔で見つめるメイドさんを見て、、いいよ、と少しだけ困り顔で、けれどちょっとだけ笑みを浮かべて、頷きます。
「私のことは、あなたが、呼びたい方で呼んで? 私もあなたのお陰でちょっとだけ、そろそろ腹を括らなきゃって思えたし、今も、これまでも、ずっと助けてもらってたお礼」
「そうですか? それでは、、ここでは、聖女様で」
メイドさんは、下では小恵理様とお呼びしますね、と。秘密を共有している共犯のような、少し楽しげで、悪戯っ子のような顔になって、うふふふっ、と、愉快そうな笑い声をあげます。
なんか、、そういえば、この子の笑顔っていつもお澄まししてる風で、こんな風に本心から楽しそうに笑うのって、あんまり見たことないけど。こんな子がどうして隠密なんてやってるんだろう、とか思ってたけど、もしかしたら、単にこういう、秘密のなんとかが好きなだけなのかな、とか。少しだけこの子の本性が見えた気がして、小恵理も久しぶりに楽しい気持ちになって、一緒に笑います。
それから、いい加減外の様子も気になってきて。さて、、だいぶゆっくりしちゃったし、もう王子も窓からは離れただろうし。それじゃ、そろそろ行かないとね。小恵理は、少しだけ扉を開き、外の様子を見て、誰の気配も感じられないことを確認してから、一度扉を閉めて、内側のメイドさんへと振り返ります。
「それじゃあ、、今回はありがとう。私、もう行くね?」
「はい、どうぞお気を付けて」
またのご来訪をお待ちしております、と。狭い小部屋ながら、三つ指を付いて丁寧に頭を下げて、メイドさんは小恵理を見送ってくれます。
うーん、、本当、めっちゃ可愛い。普段ならあまり聞かない主義なんだけど、、少し名残惜しさを感じて、ちょっとだけ迷いながら、一度だけ出発を待って、一つだけ、いい? と問いかけます。
「あのさ、、一つ、あなたの、名前聞いていい? 私、他人の名前って何故かよく忘れるし、そのくせ質問したっていうことだけは覚えてるから、後で気まずくなるし、あんまり聞かない主義なんだけどさ」
本当は、確か廊下で伯爵と会話していた中で、一度呼んでた気はするんだけど、、一応、本人にも聞いておかないとね。この一週間くらい、本当お世話になったし、最後に秘密も共有したし。このブルフザリアにまた帰ってくるかはわからないけど、この気立ての良さとか、主に従順で忠実な姿とか、王都に置いてきた、幼少からずっとお世話になってきた、メイドのルナを思い出して。なんとなくまた、再開できたらいいな、と思ってしまって。
少し気恥ずかしそうに問いかける小恵理に、メイドさんは、クスクスと楽しげに笑って。
「アペラ、です。でも、下ではアメリアと呼んでくださいね。この名前を知っているのは、侯爵様だけですから」
「ーーあ、なる、、」
びっくり、、まさか、コードネームの方じゃなくて、本名の方まで教えてもらえるなんてね。
これも、この子の好きな秘密の共有なんだろうな、と思いつつ、最後に、侯爵様だけですから、と警告を与えてきたアペラの目が、ほんの一瞬だけマジに光った気がして、小恵理は、おっけー、と笑います。なんだか、この街に用がなくても、アペラに会うためだけにここに帰ってきても面白いかもしんない。裏側の性格含めて、大好きです、この子。とにかく可愛い。
「それじゃ、もう行くね。ありがとう、アペラ」
「はい。ーー聖女様、それでは、私からも最後に一つだけ」
「ん、、何?」
問い返す小恵理に、アペラは、神妙な顔で小恵理を見つめ、私たちは、、と話し始めます。
「先ほども少しだけ申し上げましたが、私たち隠密というものは、終生一人の主に仕え、陰にて支え続けることを生業としております。ですが、、聖女様は、王子に仕える存在であるとは、お聞きしていません」
ですから、と。アペラは、優しく微笑んで。
「どうぞ聖女様は、聖女様の思うままに、お進みください。例え王子にとっては間違いでも、その道が、きっと聖女様にとっては正しいのです」
ーー最後に、そんな、隠密には最も持つべきでないとされるもの、けれど専属のメイドであれば、それくらいは許されるというもの。アペラという人間個人の意見なんだろうな、と思われる言葉を、聞かせてくれて。
アペラは、では、行ってらっしゃいませ、と再び三つ指を付いて、最後はメイドさんらしいお見送りをしてくれて。小恵理は、うん、ありがとう、とその言葉を咀嚼しつつ、ちゃんと記憶に留めてから、これまた笑顔で頷きます。
そして。今度は扉を開け、本当に外へと、飛び出します。
いつにない、それこそ心の重荷が少しだけ抜けたような、晴れやかな気持ちで。まずは、おそらくはどこかで待つ、ベスタと合流するため。それから、、自分の力を必要とする、人々のために。