ホロスコ星物語212
真っ黒な巨躯の太く逞しい腕を掴み、宿の外、裏手の袋小路までレグルスを連れ出して、改めて小恵理は、どういうことよ、と問いかけます。勿論、急にレグルスが宿の主人に宣言した、小恵理がイダを出る、代わりにレグルスがイダを守るとかいう、意味不明な内容についてです。
ベスタもアルトナも目を覚ましていない状態で、いきなりそんなことを言われたって、どこをどう納得しろという話でもあって。ましてや、二人とも今現在こそ命の危険はなさそうではあるけれど、意識不明っていう、決して気を緩められる状況ではないのにです。
そんな宣言を宿の主人にした以上、ちゃんと理由があってのことなんでしょうね、と問うているのが、今の状況というわけで。もし魔王と共謀してまたなんか企んでるなら、今度こそ許さないから、という意思表示も兼ねて、表情も空気も、わざと厳しくしています。
レグルスは、そんな空気感は気にした様子もなく、驚かせちまって悪かったな、と肩を竦め、らしくもない、少しだけ深刻そうな声と表情で、実はな、と切り出してきます。
「お前さん、ベスタの不調の原因を知りたいんだろ? 原因は、俺もわかってんだよ、あいつに口止めされてたから黙ってたけどな」
「、、その理由っていうのは?」
そんなこと、言われなくてもそうなんだろうな、とは思ってたけど。二人だけでわかりあってる感は、今までの道中だって何回も感じてたし。
問題は、それが何で、どうしてベスタが黙ってたのかとか、なんで不調のままにしてたのかとか、そういう話なのです。
問いかけにレグルスは、少し皮肉げに口の端をつり上げて答えます。理由はな、と。
「考えりゃわかると思うが、あれをやったのは、魔王様だ。ブルフザリアで俺とベスタと出くわした際、一悶着あってな」
、、やっぱり。
さっきベスタに触れた時、微かに感じたのは、コエリでもレグルスでもない、けれど明確な闇の魔力で。
それも、砂漠に広がっていた夜魔術や、ピッカ山の霧に感じられた闇魔術の気配に、どことなく近くて、、何より、王都の異空間で接したカイロンの魔力に、凄く近い禍々しさがあったからね。
カイロンの魔力にはちょっとした特性があって、それは、触れた魔力全てを吸収し、反応を阻害する能力があるということ。魔力反応を普通に見ようとしても、その特殊な作用によって、魔力自体が打ち消されてしまって、分析魔術でもその魔力反応を見ることはできません。
つまり、ベスタの病状を外からパッと見で確認できなかったのは、本格的な分析魔術じゃなかったからというより、魔王の魔力がその本来現れているはずの魔力の乱れや反応を打ち消しつつ、ベスタを内側から苛んでいたから、っていうわけ、、ね。
それはそれでなかなか許しがたいものがあるし、やっぱり一回カイロン、シメてやんなきゃダメかな、とキリキリと眉を吊り上げます。逆に普通ならあるはずの魔力反応がないならと、白地に白が見えないなら黒地にして見ちゃえ、みたいな発想でカイロンの追跡くらいならできたけど、罠のように、そこに無いのが普通の仕掛けは見破りようがないわけで。
イラつきを抱えながら、それで、とレグルスに言葉を返します。
「ベスタが私に黙ってるよう、レグルスに言ってたっていうのは、どういうこと? 聞いてるんでしょ?」
「ああ、、魔王様の魔力は知っての通り、簡単に打ち消せるような代物じゃねえ。余計な心配をかけたくなかった、ネイタルなら通じるのだから、自分で何とかしたかった。ってのがあいつの言い分だ」
あいつの言うことだ、信じる以外に何ができるよ、とレグルスは、少し苛立ちを含んだように、語調を強めて続けます。
あいつの言うことだ、、っていう、その言葉が、すごく重い、本当に心の底から信用してるからこそ、レグルスも今までずっと黙っていたんだ、ずっと何でもないように過ごしていたんだっていうのが感じられて、それは、確かに責める気にはなれないかな、、いっそ羨ましいくらい。
そのレグルスの苛立ちは、でもすごく複雑なんだろうな、とも思います。レグルスは魔族で、魔王こそが自分を産み出した親みたいな存在で、その魔王が、そこまで信用して信頼しているベスタを、ここまで苦しめていたということ。それも、たぶんレグルスの想定以上に、解放までの時間もかかっていて。
だからーーそっか、さっきのレグルスの、小恵理がイダを出る、とかいう宣言も、それでなんとなく答えが見えてきた気がします。
だから、龍頭山脈について考えておけ、ね、、願いを叶える、なんていう噂、正直嘘くさくはあるけれど、根も葉もない、完全な眉唾でそんな噂が出てくるとも思えないし。本当にそこが神の領域というのなら、神の恵みを強く受けている聖女がそこに行けば、何かしらの恩恵や、それこそ神様との接触があっても、おかしくはないはずだから。
なんか、、ね。笑ってる場合じゃないのはわかるんだけど、なんとなく、嬉しいっていうか。微笑ましい、なのかな。ちょっと口許が緩んでしまいます。
「つまりーーレグルスの言いたいのは、自分がイダに残るから、私が龍頭山脈に一人で行って、ベスタを回復させられるような何かを得てこい、あるいは持ち帰ってこい、っていうことなのね?」
きっと、そんな期待しても良いような何かがあるんだろうなって。なんとなく、ベスタへの信頼とかプライドとかあって、なかなか言い出せなかったんだろうけど、、ベスタがあの調子で、自分で回復できるような見込みがあまりない以上、それを使って何とかさせたいって。そういうことなのかなと思って、確認の意味で、レグルスへと問いかけます。
レグルスは、顔を背けて、少しだけ口許をにやつかせるようにして、横目でこちらを見ながら、もう一度肩を上げます。
「ーーま、龍頭山脈はイスパニアやピッカ山とは違う、基本的には標高が高いだけの、ただの山の列だ。俺の手助けなんてあんたはいらねえだろうし、ここの連中は見ての通り平和ボケしてやがるからな。しばらく変な奴が来ねえか見ててやるから、あんたは先に行って様子でも見てこいってこった。そこで何か良い薬でもあったら持ち帰ってくりゃいい」
簡単だろ? とレグルスは軽い調子で、けれど瞳にはどこか切実そうな光を宿して、こちらへと問いかけてきます。
、、ま、理由が理由だし。聖女の力でカイロンの魔力を無効化しようにも、どこにどんな病巣を植え付けられたのか、ベスタがネイタルを使えない今の状況じゃ、探りようもないわけだし。もうちょっと早く教えてくれていれば、と思っても、今更なわけだし。
仕方ないから、わかった、と了承して、一回レグルスに背を向け、宿の中へと戻ります。いくらなんでも、このまま直行ってわけにはいかないからね。
宿の中では、宿の主さんが、まだちょっとびくついた様子で、恐る恐るこっちを窺っていて。ごめんなさい、と困った笑顔で一回頭を下げてから、ベスタの収納袋を勝手に受け取ります。
「ごめんベスタ、ちょっとだけ先行くね。何か良い回復薬とか、使えそうな道具でも見つけて、また帰ってくるから」
ここまでなんだかんだ二人、三人でやって来て、今更一人っていう不安も、ないわけではないんだけど。
最悪、自分の中には眠っているもう一人の子がいるし。ちょっと標高が高いだけの普通の山に、行って帰ってくるだけ。
「ベスタとアルトナのこと、お願いします」
ちょっと不安そうな、心細そうな宿の主人に頭を下げて、そうお願いをしてから、普通の足取りで宿を出ます。裏手にもうレグルスの姿はなくて、またどこかの影に隠れたみたい。少なくとも、パッと見でわかるような位置にはいません。勿論、魔力の気配から、なんとなくの位置はわかるけれど。
「それじゃ、行ってくるから。何日かはかかると思うけど、アルトナとベスタのこと、お願いね」
少しずつ太陽の傾き始めた中空へと声をかけて、それから、一足跳びで一気に民家の屋根を飛び越え、別の家の屋根に着地して。龍頭山脈は、、あっちかな。砂漠の更に東側、遥か先に見える山へと、目標を定めて。
そこから後はもう、振り返ることなく、一直線に山脈を目指して、この世界の大地を駆け抜けます。砂漠も、オアシスも、もう一度現れた砂地も、砂漠を抜けた先のちょっとしたステップも、平野も、見えてきた龍頭山脈の麓近くにあった、ダクティルさえスルーして、山脈へ。
でも走り通して、山脈近くに着いた時点ではさすがにもう日も暮れてしまって、このまま山脈に突入ってわけにはいかなくて。山のすぐ下は、落石とかあったとき怖いから、ちょっと距離を取って、、手前の開けた平野に一度ベスタに借りたテントを張って、ここは翌朝にまたトライすることにします。
完全に日が暮れてしまうと、辺りは静かで、真っ暗な周囲には人の気配も、動物の気配すらなくて。軽食なんか食べながら、一人の夜ってこんなだっけ、、とかちょっと遠い過去を思って。ーー翌朝。
日も昇って早々、一度通り過ぎたダクティルは、改めて遠目で見た感じ、パッと見、普通の商人の行き交う中規模程度の街という印象で、ベツレヘム領にあったイェニーに近い印象がありました。補給はまだ足りてるし、後でどうせ来るだろうから、ここはそのまま通り抜けてしまうけど。金細工なんて高級品で栄えてるにしては地味だし、ちょっと違和感もある感じ。
商人の数が少ない、、? というか、検問がそんなに厳しい感じもしないのに、街の出入り口で何か揉めているみたい。むしろ兵士の方が詰め寄られて困っていて、トラブルかな、と意識の片隅には、ちょっとだけ置いておくとします。
この辺はもう、プロトゲネイアが領土を主張する一帯でもあるし、どんな騒動が起きてるのか、気になりはするけどーー今は、一刻も早く山脈へ。どんな願いも叶う、神に最も近い領域だと、そういうのなら、最低限、ベスタを助けられるような何かくらいはあると思うし。ダクティルはダクティルで領主くらいいるだろうし、そっちはそっちで頑張って勝手に片付けてもらうとします。
そうして、イダを出てからは実働、三時間くらいかな。夜を挟んでしまった分時間は経過しているし、たぶん普通に馬車で来たら半日以上かかる距離だと思うけど、改めて龍頭山脈の入り口、麓に辿り着いたところで、軽く深呼吸をします。
前方、すぐ近くに見上げる龍頭山脈は、龍頭、というわりに、別に山自体はそこまで龍を象った雰囲気もないし、剣山みたいに急峻な感じもなく、木々のちょっと多い緑豊かな普通の山といった感じ。砂漠の前に駆け抜けた、イスパニア山の方が傾斜にしろ山道にしろ、道のり自体は厳しそうに思えます。
山脈、というだけあって、複数の山々が連なっていて、奥行きが長い分、イスパニアのように駆け抜けて終わりっていうわけにはいかないと思うけど、、問題はむしろ、山というか。
「こんなにいるものなんだ、、すご」
登山客、というか、、たぶん、何でも願いが叶うなんていう噂を聞き付けて集まってきた、旅人や観光客で。一応、そういうのを気にして早朝に来たつもりだったんだけど、この龍頭山脈を登りたがっている、まさに目の前で道に集まっている人の数の方が遥かに問題で。
山道の入り口とおぼしき、山道の手前には、数十人規模の武装した冒険者だか旅人だかが集まって、作戦会議だかなんだかを開いて、後続の登山者たちの道を塞いでしまっています。その後続の冒険者だって、これまた数十人は集まってて、日本でもたまに見る、観光名所みたいな雰囲気です。
冒険者の集団は、人数も多いし、目付きの悪い者、雰囲気の粗っぽい者、ごろつきにしか見えない者、とにかく治安の悪そうな人たちが多くて、関わり合いにはなりたくない感じ。手前で待ってる人たちも、迷惑そうな顔をしながら文句を言わず待っているのは、たぶん同じ理由があるんだと思います。
なるほど、願いを叶える、なんて噂があれば、そりゃ人も集まるかあ、、とは思うけど。
「、、?」
ただ、、そうなんだよね。そこに一つ二つ違和感があるのは、確かで。
一つは、ここまで来てしまえばもう、ほとんどプロトゲネイアの領土といって良いほど、ここはプロトゲネイアの近くにあるはずなのに、そのプロトゲネイアの兵士だか騎士だからしき、鎧姿の兵士の姿が見えないこと。
わざわざ一般の冒険者だか旅人だかに紛れているとも思えないし、プロトゲネイアという領土拡大第一主義のお国柄から考えて、ここに兵士の一人も派遣してないっていうのは、違和感を通り越して異常にすら見えます。まして、本当に願いが叶うような何かがここにあるっていうのなら、自分達で管理しに来ないはずがないというか。皇家直轄領、とか言われていてもおかしくないとすら思うんだけど。
プロトゲネイアとしてはむしろ、領土が魔王領と接していて、今まさに魔族との争いの最前線にいる以上、ここは魔族との戦いに対する、切り札的なスポットとして考えててもおかしくないはずです。
その理由は、、うーん、見て眺めてもよくわかんないし、聞いてみようか。とりあえず柄の悪い連中の手前で待っている、剣士の格好をしたお兄さんに、すいません、と声をかけます。
「あの、龍頭山脈に入りたいんですけど、、ここの道って空かないですかね?」
「あ? ああ、見ての通りアラウダの連中が占拠しちまってるからな、当面は待つしかないぜ」
「アラウダ?」
なんだろう、その洗濯好きっぽい名前。聞き返すと、お兄さんは、知らないのかよ? と驚きに目を開いて聞き返してきます。なんか、有名ぽい反応。
「アラウダってのは、ここからだと馬車で4、5時間くらいか? プロトゲネイア領西端の大都市だ。そこに結構でかい冒険者ギルドが構えててな、ちょっと魔物の討伐がてら、この龍頭山脈に大部隊を派遣したわけさ」
へえ、、つまり、ここの柄の悪そうな連中はみんなそのギルドの冒険者ってわけです。
でも、魔物の討伐ねえ、、? 一応大小魔物の気配くらいはちらほらあるけど、イスパニアの紫龍みたいに大型の魔物がいる気配はないし、こんな大人数でどうにかしなきゃいけないような反応はなさそうなのに。
魔物を討伐した帰り、っていう可能性もなくはないだろうから、それはさておいても、普通に道は広いし、空いてるのに山登りで順番待ちっていうのも正直バカらしいし。さっさと行く気がないなら、追い抜いていってしまった方が早そうです。
でももう一つだけ聞いておきたいから、お兄さんに、じゃあ、と言葉を続けます。
「ここ、プロトゲネイアの兵隊さんっていないんですか?」
ーーそう、問いかけた瞬間。話していたお兄さんは勿論、パーティの仲間だったらしい魔法使いのお姉さんや盾持ち重装備のおじさん、それどころか、前にいたはずのアラウダの一員らしき軽装の弓使い、魔法使いのおじいさんにまで鋭く尖った、射抜くような瞳で見据えられます。
や、別に人数がいようがどこのギルドの人間だろうが、睨まれたって怖くもなんともないんだけどさ。一応アセンダントの家紋も外してあるから、傍目にはたぶん、世間知らずの小娘が何か言ってる、くらいにしか思われないはずだし。
ただ、その反応だけは一応無視せず、どうかしました? と重ねて問いかけます。少なくとも、プロトゲネイアに対して誰も良い感情は持ってないな、という点だけ、理解はしておくとして。
お兄さんは、さっきまでとはうって変わった、剣呑な目付きで、薄く笑いながら、いや? と答えます。剣の柄に軽く手を添え、どことなく殺気を漂わせながら。
「先に聞くがお嬢さん、プロトゲネイアに知り合いでもいるのか?」
「いいえ? ただ、ここはプロトゲネイアに近いはずなので、兵隊さんがいないのも変だなって」
「はっ、、じゃああんたは、マジで世間知らずのお嬢さんってことか。あのいけすかない兵士どもなら、今頃魔族との戦場に放り込まれてるだろうよ」
魔族との、戦場に、、その言葉に、ちょっとだけ動機が早くなるのを感じます。
今は、ベスタとアルトナを助けるために来ただけだから、何もできないけど、、でも、当然人死にも出てるっていうことなんだろうし。その話を聞いてしまったらもう、聖女として、じゃあまた、っていうわけにはいかないから。
「戦況は、そんなに悪いんですか?」
緊張と心配を込めて問うた質問は、けどお兄さんには奇異に映ったようで、あ? と聞き返す声が返ってきます。
それから、くく、とレグルスみたいに喉を鳴らして笑ったと思ったら、脅して悪かったなお嬢ちゃん、と最初話しかけた時のような、気さくな雰囲気に戻って言葉を続けます。
「プロトゲネイアっつったら大陸でも随一の戦闘集団、皇輝親衛隊を抱える大帝国だぜ? 魔族どもとは一進一退が続いてて、ここの兵隊どもはそこそこ腕が立つ奴らだったから、ただの予備兵力として召集されただけさ」
「あ、そ、っか、、」
たぶんまだ死んじゃいねえよ、と安心させるように微笑んみかけてくれて、良かった。お兄さんも、案外悪い人じゃなさそうです。予備兵力っていう辺りからすると、あくまでも後詰めで、何か緊迫した問題があって、っていうわけでもなさそう。一度胸を撫で下ろします。
でもそうすると、やっぱりここは普段ならきちんと管理されてるってことみたいだし、ここに兵士がいなくなってるのって、撤収したのとは違うはずで、、?
もしかして、とその疑問をぶつけようとしたところで、ふと、杖の先が目の前に突き出されます。お兄さんの後ろからいつの間にか近づいていた、剣呑な瞳を崩さない老魔術師、アラウダの一員らしきお爺さんです。
「お嬢ちゃん、ここの兵士の知り合いかね? ちょうどここに派遣された新米兵士に、恋人がいるという話もあったそうだが、、」
、、そう、なるほどね。魔術師の老人の、年齢にそぐわない鋭く射抜くような視線は、何か不審があれば今この瞬間にも魔術を撃つことに全く躊躇はない、みたいな、危険な空気を感じます。
その、入れ替わりに派遣された新米兵士には恋人がいる、という点と、後ろのアラウダの連中の、今もそわそわと、落ち着かずに何かを待っているような立ち姿。お爺さんの後ろ、アラウダの後方メンバーらしき冒険者達は軒並みこちらを気にしていて、弓使いや魔術師みたいに、ここまで自前の技が届く人たちは、いつでも撃てるよう準備までしているみたい。
ただの小娘をそこまで警戒してる、しかもそのプロトゲネイアの兵士の恋人かもしれないから、という理由で。それも何かされる方の警戒じゃなく、逃がさないようにしてる警戒っていう辺り、彼らが何をしたのかはもう、だいたい想像がつきました。
お兄さんも、ちょっと不本意そうでも見守る構えで、事情は把握してるみたいだし、根っこの目的はアラウダと同じってわけ。でもこっちは、とは言ってもこの子が殺されはしないだろう、みたいな余裕が少し感じられて、アラウダよりは好感が持てます。
ーーごめんね、でもそういうことなら、急がないといけないみたい。
「私はその恋人さんじゃありませんが、、つまり」
「、、つまり?」
「ーーここに新たに派遣された兵士が新米であることを良いことに、アラウダさんたちは彼を山の奥へと連れ出して、口封じを終えた合図が来たら山脈にトライしよう、ってところですか。下衆ですね」
「っ!?」
この、瞬間に全員から浴びる殺意や驚愕、焦りや決意が、その答えを雄弁に語ってくれています。
普段のこの山は、やっぱり帝国が管理をしていて。それなら山への挑戦は、たぶん普段は禁じられていて。その、山に登ろうと画策していることを帝国に知られたら、身の破滅は避けられない、でも願いが叶うなら挑戦する価値はある、丁度いつもなら邪魔をする兵士が、今回異動で新人と入れ替わったから、今なら事故に見せかけて殺すことだってできるし、そうしたら山脈にも挑める、、そんな話ってことでしょう。
その、顔も知らない新米兵士くんは、きっとタイミングが悪かっただけなんだろうけど、、そんな、道中で目の前で殺されるとわかってる人を見捨てられないし。
「恋人がいるっていうなら、、その人のところに返してあげるから!」
待ってて、と。いよいよ本気となった、百にも及ぼうかという武器、凶器を向けられながら、そうして山の方向、天へと向かって呼びかけました。