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月夜に想う

この世のどこをどれだけ探しても
もうどこにも父はいない

父が残したタバコを四十九日を迎えるまでは吸って もうやめようと思ったのに

胸の空虚をうめたくて 
一日だけ、あと一本だけ、と 

そろそろやめよう 
そう思って、ふいに外に出たら
月が輝いていて また手をつける

一緒に暮らしていた頃はもちろん
私があちこち放浪したり、結婚して離れて暮らしていても 父から「月がキレイやで」と電話がよく来た

父は自分が設計し溶接して作った要塞のような家の裏のガレージで
溶接で作ったテーブルに 
酒とタバコをおいて 
闇夜に光る月を見上げながら私と話す
そんな時間が互いに好きだった

母や妹には話せない胸の内とか
哲学や最近読んだ本の話や
生きることの意味とか 
死ぬこととか 
人としてどうあるべきかとか

色んな話を 
二人でたくさん、たくさんしてきた

私には、まだまだ父が必要だったのに
まだまだこれから、悩んだり迷ったりするだろうに

誰に話せばいいの

こぼれ落ちる涙を 
子供たちに気付かれないように

タバコを吸えば 
父がそばにいるような気がして
タバコを吸えば 
哀しみを煙に乗せて吐き出せるような気がして

ダメだね、今宵も もう一本、、、

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