神様は気まぐれに秘密をばらす
6月12日。この日をもって「アーティスト・まふまふ」は無期限活動休止期間に入った。ネットシーンを長く牽引してきた彼は東京ドームライブを終え,静かにさっぱりと―ただ一言幸せだと言い残し,舞台袖に身を引いた。自分が中学生,いやそれよりもう少し前か? とにもかくにも,当時多感な時期だった自分の価値観が彼の作品によって象られたのは本当のことだと思う。
電撃的な無期限活動休止の発表は自分に大きな衝撃を与えた。そしてすぐに,ある様々なことに疑問を持った。しかし,少なくとも第一報が流れてきた時点では彼の無期限活動休止を受け入れようとしていた。彼には彼の考えがあって,きっと聡明な人だから何もかも手配を巡らせているのだろうと。何も疑問を持つことはない,うまいように事は進み,自分はそれを自然に受け止めるのだろう―なんて。
無期限活動休止の発表以上のとてつもない衝撃を受けたのは6月12日の夜,東京ドームでのライブ2日目が終了した後だ。直接ライブ会場に足を運んでいない自分はツイッターを眺めながらライブの様子を追っていた(現地組を非常に羨ましいと思いつつ)。
過ぎ去ってみればなんて呆気ない。ただ,ライブは盛況だったようだ。彼が満足しているのならそれでいいと思って日曜日を終えたかった。
ツイッターのタイムラインをスクロールしていると,とあるツイートに目が留まった。
―まふまふが,『CQCQ』を歌った!
アンコールで,『CQCQ』を歌った。しかもギターボーカルで。え、それはどういうことなんだ? 彼はどんなつもりでセトリを組んだんだ?
『CQCQ』とは「神様、僕は気づいてしまった」というロックバンドの代表曲だ。ドラマの主題歌にもなっており,『CQCQ』がきっかけで「神様、僕は気づいてしまった」を知った人も多いだろう。そしてこのバンドには謎が多い。素顔は覆面で隠し,メンバーの名前と担当以外はほぼ一切の情報を明らかにしていない。ミステリアスで少し怖くて,もっと知りたいのに分からせてくれない―そんなグループだ。
しかし「神様、僕は気づいてしまった」にはある噂がある。ボーカルの「どこのだれか」は「まふまふ」ではないか,というものだ。声や息遣いが非常に似ている。というかむしろ本人では?という噂だ。そんな噂について彼らは一切の沈黙を貫いていた。寧ろ,その振る舞いからは「見た目も名前も違うのだから詮索するな」と言われているようだった。彼らの基本姿勢が沈黙だったから,「まふまふ」も「神僕」も知る人たちはそれに従っていた―と思う。
だからこそ,アンコールで『CQCQ』を歌った,その上で歌っただけに留めたということについて私は納得できていない。両方を知る人を無下にし過ぎではないかとさえ思えてしまった。本当は分かっていた。多分きっと「どこのだれか」は「まふまふ」だろう。だってあのハイトーンの声。パフォーマンスの時に右手を払う仕草。ロングトーン後半から波が大きくなるビブラート。知ってたよ。
「まふまふ」活動休止の日にこんな雑な発表でいいのか? そもそもこの場は「まふまふ」としてのライブだったんじゃないのか? 本人は何にも言及していないのに,要らないことばかりを考えてしまう。神僕の一貫性が一瞬にして崩されていること,そのまま彼が活動休止をして続報がないこと,そのネタバレを歓迎する人も勿論いたが,自分はそうはなれなかった。あまりに―投げやりではないか。だからなんだという話だけれど。
この主張は,徹頭徹尾身勝手なものだ。そして,誰にどうしてほしいというわけでもない。ただの「まふまふ」と「神様、僕は気づいてしまった」を敬愛していた一人のファンの雑記である。彼と,そして彼らには平穏で健康な生活を送ってほしい。
最後に一つわがままを言うとしたら,将来再び帰ってきた時にでもあのパフォーマンスの真意を知りたい。あなたは,あなたたちはいったい何者なのか。だけれど―神様は気まぐれで,どこまでも自由だ。何も知らなくても,彼らが何も言わなくても,私たちは享受することしかできない。
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