俺のみ
俺の歩んだ道は濃く険しかった。
そう、人生は常にイバラの道を歩むが如し。
幾度もの挫折、そして愛するものとの別れ…。
孤独と苦痛と寒さに苛まれながら
生き続けるために傷だらけの歩を踏み出していく。
相変わらず蛇口からお湯がでることはなかった。
俺は毎朝着替えを持ってまだ暗いうちから早朝出勤し、
会社のシャワールームでシャワーを浴びた。
(その間シェアメートらがどうしていたのか怖くて聞けない)
月曜、俺は会社を途中で抜け、
GPから行けと言われたある場所に行った。
俺は個室に迎え入れられ、そしてそこで白衣を纏ったメガネのちょっときつめの検査士の格好をした女にベッドに横になるように言われた。
俺は言われるがままにベッドに横たわり、ベルトを緩めた。
そして着ていたシャツをゆっくりと胸の上までめくり上げる。
女はヌルヌルした液体を器具に塗り(コンピュータに繋がっている)、それを俺の裸体の上で転がし始めた。俺はヌルヌルにされてグリグリやられたのだ。時には優しく、時には痛いくらい強く…。それは女が満足に達するまで続けられ、大事な部分を調べつくされた。
(主に内臓)
そして今度は別室で医者の格好をした男に肌をさらすように促された。
他に誰も居ない二人きりの個室、。
知らない男の目の前で俺は上半身を露にした。
男は銀縁メガネの奥の目を薄く光らせながら
冷たい器具を俺のカラダに何度も何度も押し当ててきた。
そしてあるときは俺に息を大きく吸わせ、
あるときはそれをそのまま止めさせた。
(聴診器)
しばらくして男は俺の身体に興味が失せたのか、
服を着るよう支持して、さらに2箇所別の病院へ行けと言った。
これ以上どんな辱めを受けろというのか…
俺の身は俺の意思とは全く違う方向にどんどん危うくなっていく。
そのままそのうちの一つを訪れると、
検査士の格好をした超熟女が優しく俺を個室に招く。
ドアが閉まると彼女の態度ががらりと変わった。まるで女王様だ。
鞭こそ持っていなかったが巨大なボトルを2本取り出し、
高飛車に命令を下した。
「48時間、全てのおしっこを採りなさい。」
これまでの人生で経験した尿検査とは試験管1本にちょろっと入れて終了だった。1日に一体何リットルの小便をするか予想できないが、それを余すところなく採り続けろとは…。予想外も甚だしい。
確認できないし、するつもりもないが、
大量の尿であんなことしたりこんなことしたりするのだろうか…。
実に恐ろしい。
翌日から尿採集が始まった。 苦難の道だ。マジで苦難だ。
どの場合の尿も採集されなければならないということはそのボトルはいついかなるときであれ俺と一心同体でいなければならないのである。
電車に乗るときも一緒、スーパーで買い物のときも一緒、である。
苦難だろ?
普通に「小」のときは普通の苦難だ。
しかし「大」のときはスペシャル苦難が訪れる。
まず我々日本人にとって不幸だったのは
大和民族は「大」のとき同時「小」が可能な民族だということだ。
(他の民族は別々にしかできないらしい)
普段はしわける必要などないが、事ここに至っては重大事項だ。
どんな体勢でどんな風にしたら全ての「小」を採集し、さらに便器枠を外すことなく「大」を葬り去れるか。
それは想像を絶するダイナミックで且つ繊細なムーブメントである。
(個室での俺の実際の格闘シーンはここには書けないので割愛する。)
2日間の間に不幸はさらにやってきた。
神も仏もないものか、である。
そう、サッカーの日豪戦が行われた。
それが2日目の夜だった。
ケーブルTVでしかやらない。
なぜやらないのかはわからない。
家で見られれば問題も少ないが、俺の場合ケーブルTVを契約してない。ゆえに必然的にパブに見に行くことになる。
恥や外聞を言っている場合ではない。
サッカーは観たい。ボトルは一心同体。
仕方がないではないか。
かくして俺は、K書店や有名スポーツメーカーAックスの駐在のお歴々もおいでの席に、朝から貯めた小便の入ったボトルを提げてまかりこした。
誰かが飲んでいるビールの液体が、
ボトルに収められているそれに見えてしまう。
グラスが空きそうになると日本人の習性で
ついついボトルのそれを注いでしまいそうになる。
神はどこまで俺に試練を負わそうとするのか…。
俺の身に… 予想外のことが起こり続ける。
そして、俺飲みに… 行くことは行ったが、検査中だ。
そして、俺のミニ… ほっとけ。