おばさんの顔色が変わる。「あんたこの$100をどうして持っているのさ。」 睨むように俺を見る。
必要に駆られてスケッチブックを何冊か買いに行き、レジで新しい$100札をだしたんだが、それまでしれっとしていたレジのおばさんの行動がにわかに慌ただしくなった。
$100を両手で持ってあっちに向けたりそっちに向けたりしつつ、眉間にしわを寄せて品定めのような雰囲気でブツブツ言っているのだ。
眼鏡を忘れて見づらいのよね、的な。
ほかに客はいなかったからおばさんがそんなのに時間を費やしていても文句を言いそうな人間は俺以外にはいなかったのだが、その俺もそれに対して文句を言わなかったので、おばさんは思う存分にそれをやり続ける(なんて恵まれた人だ)。
What's happen?
もしかしたら聞いてほしいのかもしれん、と察して、敢えて聞いてみた。
おばさんの顔色が変わる、、、
「あんた、あんたこの$100をどうして持っているのさ。」
睨むように俺を見て続ける。
「これは3年前突然行方不明になったあたいのかわいい娘のマリアが肌身離さず持っていた$100よ。ああ、マリア。
ほらみて、$100って書いてあるわ。大きさだって、色だっておんなじよ。緑色だったもの。残念ながらマリアの名前は書いてないけど、同じ$100札よ!マリアのに違いないわよ。
ああ、あんなに自分の持ち物には名前を書きなさいって言ったのに、馬鹿なマリア…。フェルトペンがなかったのかしら。
あんた、これをどこで手に入れたの?
まさか、あんたがマリアを連れ去ったんじゃ…?
あんた、人さらいね? マリアは、マリアはどこ?
この人さらい!! マリアを返して。警察呼ぶわよ。
マリアを、マリアを返せーーっ。」
などと言ったりはせず、
「よくできた偽札が出回ってるの。あなたを疑ってるわけじゃないんだけど、ごめんなさい」だってさ。
薄汚い格好の(ほっとけ)俺なんかが$100なんか持ってるわけないと思ったのかもしれんな。(くそー)
一応つけたしで説明をしておくが、オーストラリアでよく使われるのは日本では1万円札にあたる100ドル札より5千円札にあたる50ドル札で、100ドル札を出すと面倒くさそうな顔をされるし、露骨に拒否されることすらある。もちろん受け取ってくれるところもあるが、頻繁に出回らないので記憶しつらいのかもしれない。
とにかく偽札が出回ってるみたいだぞ。
どうやって見分けるか全然知らんけど。
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