トイレに閉じ込められてしまったという事実を淡々と。
日記という事であったことを。
先日の午後8時ごろだったと思うが、書道教室が入っているビルの地上階のトイレに閉じ込められてしまった。
誰かによって閉じ込められたわけではないが、自らの意思で閉じ籠ったわけでもないから、やはり「閉じ込められた」という表現にならざるを得ない。
特にいつもと変わることなく男性用トイレの入り口のドアを開けて入る。小便器が2つあって、個室が1つある。
俺は小便器の方で用を足して手を洗い、備え付けのペーパータオルで水気を拭いてそれを脇のゴミ箱に捨て、そのままトイレから出ようと出口のドアのノブを掴む、はずだった。
今言った出口とは先ほど言った入り口と全く同じドアなのだが、全く同じドアなのに入り口と出口の両面の顔を持つ。個人的には入り口か出口かをドアにはっきりして欲しいのだが、「出入口なんだよ」という一言で片付くんだろうな。
さて、結論から言うとその時に俺はドアノブを掴むことができなかった。
ドアにドアノブがついていなかったからだ。ノブが無ければ触れることすらできない。
ノブはトイレの隅のタイル張りの床に転がっていた。取れたときに怒った誰かが投げ捨てたのかもしれない。蹴っ飛ばしたのかもしれない。もしかするとノブに罪は無いのかもしれないが、残念ながら関係した誰かが不祥事の責任をとる必要があるのだ。気の毒だけれども。
不幸な時に不幸なことは続くものなのだろうか。俺は携帯電話を携帯し忘れていた。ビルの中に知り合いがいるので連絡さえつけばドアくらい開けに来てくれるだろうと思ったが、実際は持ってはいないので全く無意味だった。
こんなことで無意味呼ばわりされる知り合いがとても気の毒だった。心の中で小さく、でもしっかり謝る。
俺はノブを拾ってなんとか差込口に元通りにはまらないか試してみた。しかし何かしらの力によって金属が曲げられていて上手くはいかなかった。
ドンドンドンとドアを叩いて助けを求めて叫ぶという案もないではなかった。それも頭を過らぬわけではなかった。ただ時間が時間だけにそこを通る人もいないのだ。
そのとき俺はどうしたか。
個室に入ってズボンとパンツを下した。
ウンに頼るしかないからだ。