アパートのゴミ集積スペースの大きいバケツの蓋を開けると、一匹の子ネズミがいた。薄いグレーにピンク混じりのボディで愛らしい。
部屋ででたゴミを捨てに、アパートのゴミ集積スペースに行ってきた。
そこにある大きいバケツの蓋を開けると、中に一匹の子ネズミがいた。食事をしていたのか、食材を探していたのか、そんなところであろう。
薄いグレーにピンク混じりのボディで、ちっちゃくて愛らしい。でもドラえもんなら仰天して飛び跳ねて逃げちゃうところだ。いろんな人がいるからそれぞれに反応が違っても仕方がない。あ、ドラえもんは人じゃないか…。
8割がたゴミ袋で一杯になったバケツの中で、オレの顔を見ても逃げられもせず、震えながらウロウロするだけ。いや、オレの顔が恐ろしくて震えているわけではない(と思う)。
ネズミは心臓がドキンと鼓動するのが0.1秒間隔なので細かく震えているように見えるのだ。
昔、『ゾウの時間 ネズミの時間(講談社出版文化賞科学出版賞受賞』)という本を読んだことがある。生涯の鼓動数はどの生物も大体同じという話だったと記憶しているが、どうだったろう。
ちなみにゾウの鼓動は3秒間隔、人間は約1秒。
そんなことはどうでもいいのか。
あまりに震えているものだから、緊張感をほぐそうとして軽く天気の話など世間話をしかけてみたものの、どうやら子ネズミさんには英語が通じない。
「おまえの英語の発音のせいじゃないのか?」
というご指摘もあろう。あるいはそうかもしれない。それは甘んじて受けよう。日本人の英語はどうしたって日本語訛りの英語になる。
英語はやはり英国人の言葉であり、英国以外で話されている英語は各国の訛りがあってしかるべきなのだ。
アメリカ人が話しているのは所詮アメリカ訛りの英語で、正統な英語ではない。彼らはただマジョリティなだけだ。いや、マジョリティというのも違うな。しゃべっている人数が一番多いというだけだ。
アメリカ英語をしゃべれるからといって悦に入っている輩はちょっと勘違いしている可能性がある。もちろんそれがダメなわけじゃないが、偉そうにされる筋合いはない。
日本で「英語の正しい発音」なんて言って偉そうに教えているのを見ると「はあ?」って思ってしまう。”アメリカ英語の” って前置きしろよな、と突っ込みを入れたくなるのだ。”英語の” って言うんだったら完璧なブリティッシュイングリッシュをしゃべろよ。しゃべれないならそんなに上からものを言うな、と言ってやりたくなるのである。
もちろん言いはしない。
思っているだけだ。
そう。
俺の性格がひん曲がっているだけである。
ちなみにその次はインドで、インド英語人口はアメリカ英語人口のほぼ半分。そしてパキスタン、フィリピン、ナイジェリアと続き、本家のイギリスは6番目。
そのイギリスにしたって階級や地方によって訛りがある。
日本人の話す英語に日本語訛りがあったって全然恥ずかしいことではない。
恥ずかしいことではないが、その訛りがメジャーではないので通じない可能性は高すぎるほど高い。通じなければ話言葉としての目的を成さないから少々問題ではある。しかし書けば通じる。「少々」と言ったのは一手間かかる点だ。それに対してアメリカ訛りやインド訛りはメジャーだから通じやすいということだ。ただそれだけのことである。
もしかしてと思ってネズミさんに日本語で話しかけてみた。
しかしそれも通じないようだ。
これは俺の日本語の発音のせいではない。
俺は地元九州の言葉も東京弁も、そして標準語の日本語も話すことができる。
ちなみに東京で使われているのは東京という一地方で話されている東京弁であって日本語の標準語ではない。東京弁が標準語だと勘違いして上からくる輩がやたらと多いのはいかがなものか。
ネズミさん、残念だけどオレはイタリア語もロシア語も話せない。
あまり食事の邪魔をしてもいけないと思って早々に立ち去るべく、蓋を閉めるときに「アディオス!」と言ってみた。
すると「チィ」と返事をしたではないか。
なんだおまえはスペイン系か…。
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