やっとキッチンが使えるようになった。
やっとキッチンが使えるようになった。
ほぼ6週間、コンロエリアが使用不可になっていて(日本でなら発狂していたかもしれない)、2週間前に換気扇が、そして昨日やっとガスレンジが新しくなった。
前のはもう20年以上、おそらくユニットを貸し始めたときから何の補修もせずに使い続けられていたもので、ここ何年かは日本人の俺らが使っていなければトオの昔にお釈迦になっていたろう。
最初は「修理」ということで業者がやってきた。
そしてこの業者が「修理不能」というお墨付きをだした。
そこに住んで日々の生活を営んている人間がいる、つまり食事の準備に日々キッチンを使うという現実はオーナーにとって特に重要ではないらしく、直ぐに対応してくれはしなかった。他人のことを全く思いやれない人間のことを言葉で表すと「ひとでなし」というのではなかったか。何十年も金をかけなかったくせに新品に交換となると開いた口が広がってしまうほど決断が遅かった。業者が来ると連絡があったのは4週間後のことだった。
その日、約束の時間から2時間遅れて来た業者のおじさんをキッチンに案内し、俺はリビングで洗濯物をたたんだりしていたのだが、そのおじさんが「終わったよ」と声をかけて来るまでそう何分もかからなかった。
「えっ、もう終わったの?」と待った2時間は何だったのだと思いながらキッチンに見に行くと、おじさんは「ジャジャーン」とでも言いそうな得意満面の笑顔で換気扇のスイッチを入れて見せた。しかし俺の視覚はそんなものには全く反応せず、ガスレンジに引っ掛かったまんまの黄色い札に注がれた。
「ガスレンジは使えないの?」俺はとてもシンプルな質問をおじさんに投げかけた。投げつけた、の方が気持ちに近かったかもしれない。するとおじさんは「ん?」と質問の意味が分からないと言葉にする必要がないくらいにとても分かりやすい顔をした。
「換気扇だけだけど。」おじさんはきっぱりと言い切った。
「なんで?」
俺の心の中に泡のようにブクブクと湧き上がってきた本当の気持ちは「なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?」だったが、言葉にしたのは一言だけだった。
「これしか言われていないよ。他のことは分からない。」困った顔をしているおじさんの表情を見て、そうなんだろうな、と思った。どうしようもないのは発注主の方だろう。
同じ場所をリニューアルするのなら1回で終わるようするのを当然だと思うのは悪ではなかろう。業者が来るということで仕事を休んで家にいるのだ。このことが分かっているのなら、高々一つ数分で終わる作業を(業者が来るまでに何時間か待たねばならないことも加えたい)わざわざ2回に分けてさせる人間とは?忘れているといけないのでもう一度書くが、他人のことを全く思いやれない人間のことを言葉で表すと「ひとでなし」というのではなかったか。
不動産屋に連絡して一言言いたかったのだが、担当者はうまいことホリデーに出ていた。担当をカバーしていたのはオージーのおばさんのようだったが、彼女に文句を言っても仕方がなかった。彼女は「ソーリー」くらい口にするかもしれないがそれは確実にその音を発音して空気中に送り出しているだけで謝罪や他の何かの意味が込められているわけでは全然ないのだ。
それから2週間待ったのが昨日だった。
昨日の作業のお兄さんは40分遅れてやって来た。もし比較することだけが正しい行為とされているのならば、この間のおじさんよりも1時間20分も早く来たので優秀だと言ってしまえるのかもしれない。しかし、40分も遅れて来てチャイムを乱打する人間を評価し、もろ手を挙げて歓迎する気にはなれなかった。
このお兄さんの作業も早かった。ものの10分といったところだった。ガス漏れなんかをしっかり注意してさえいれば、取り外しや設置はとても簡単だった。トースターで焼いたパンにバターを塗るのとどっちもどっちくらいの難易度だったと思う。
おにいさんはレンジの設置だけして、拭いてきれいにしたりゴミを片付けたりする作業は放棄して帰っていった。もちろんゴミもとのまま置いていった。俺は残された発泡スチロールをたたき割って袋に詰めたりしながら、これが彼らの限界なのだろうと思った。
ざ・オーストラリア生活。
というわけで寒いのにレンチン以外で温かいものを調理できない状況からやっと脱することができる。とはいえ、料理と言えるほどの料理をすることはまあないんだけども。