一時の気の迷いというか、 出来心というのは思った以上に恐ろしい。
人間は常に進歩するべきである。
向上心を忘れたら老いてゆくだけ。
というわけで、というわけでは全くないが、
最近あることの克服に挑戦した、というわけでも全くないが、
一時の気の迷いというか、
出来心というのは思った以上に恐ろしい。
ある飲み会に呼ばれた。
場所はシティのジャパレス。
初めて行く店だ。
若者のアホみたいな飲み会じゃなく、
大人の感じの、落ち着いた飲み会。
話題も渋みが利いている。
老眼の話とか、白髪染めの話とか
人生への真剣さが伝わってくる。
さて会も終盤に差し掛かり、
シメのメシ系の注文に移行。
そこで俺の天敵、「納豆巻」が投入された。
納豆…
それは腐って糸を引いた豆の呼称である。
こんなものを食っているヤツの気がしれない。
と、普段は思っている。
(反対意見の方も大多数いることはもちろん承知してはいるが、ちっぽけな個人の感想なのでご容赦願いたい。)
が、なんだろう。
これがかの有名な「気の迷い」なのか、
世に言う「出来心」なのか、
それとも単なる酔っ払った勢いの恐ろしさか。
きらりと一筋の光が走った…
ような気がしたかどうかも分からないが、
なんと「納豆巻きを食ってみてはいかが…」
とささやきと共に悪魔が降りて来たのだ。
で、
一つ摘まんでみる。
く、くさい。
完全に足の裏の臭いである。
昔、神奈川県三浦市にある油壺マリンパークに行ったとき、
そしてイルカのショーかなんかを柵越しに見ようとしていたとき、
ある男女のカップルが隣でいちゃいちゃしていて
「みえな~い」「じゃあのぼっちゃえよ~」みたいなことになって
女が柵に上って、男がそれを支える、みたいな格好になった。
女の足は素足。
その足がちょうど俺の肩くらいのところに位置した。
数秒たつかたたないかのうちに、この世のものかと疑うほど淀んだ腐敗臭が俺の敏感な鼻を襲う。
出所はもちのろん、その女の足、である。
目から涙がでて、失神すら誘うような粒子の散乱。
もうイルカショーどころではない。
もちろん落涙顔の俺は倒れる前にその場を離れた。
「何のために油壷に来たと思ってるんだ。俺のイルカショーを返せ!」
俺は心の中でなじったが、すぐに気づいて己を恥じた。
一番気の毒なのはその足を支え続けていた男であった。
離脱に夢中で男の状況確認はしなかったが、もう気絶していたかもしれん。南無…。
と、そんな思い出が頭をよぎるほどの臭気が
箸の先につままれたそれから漂っているのである。
しかし気の迷いと出来心の恐ろしさは
その臭気さえ乗り越えてしまう。
俺の右腕は箸の先のそれを俺の口に持って行く。
投入、そして咀嚼(そしゃく)。
びっくり。
臭いそのまんまの味が絡む。
外に排出したいけどできぬ。大人だから。
一気に酔いがさめる。
1000年の恋もさめるだろう。
(マリンパークの彼氏もそんな気持ちだったかもしれない)
出来心、怖すぎるよ。
気の迷い、ごめんなさい。
でんぐりがえりだよ、どうもこうもできないよ。
これが噂の「あとの祭り」。
ダメなものはだめ。