「翔べ! 鉄平」 9
その後雨天が続き数日間は格納庫での研究が繰り返されたが、三日後再び厚木の飛行場に集められ、その日は海軍や陸軍の将校たちも見学に来ていた。
今度は別の三人が練習機に乗り込み、鉄平たちは地上から投下を見守ることになった。将校らは落下傘の説明を受けると一様に首を傾げた。するとそれを伺う小隊の者たちに不安がよぎる。
「今回は、落下傘を飛行機の中から引っ張ることにしたンじゃ」
藤倉博士は空を見上げて、両手を腰に当てて自信満々に言う。
「開かなきゃ、落ちて死んで、そのあと戦えませんからね」
熊沢が空を見上げて呆然とした口ぶりで言うと、
「開く!」
と博士は熊沢を振り向いて強気で言った。
飛び立った輸送機が滑走路上空に帰ってきた。小隊は一様に空を見上げて機影を追いかける。
飛行機から黒い点が飛び出した。飛び出すと白い狼煙を引っ張り、そして一瞬飛行機に引っ張られたと思うと機体が揺れ、すぐに離れて落ちると、狼煙がまるで白い蓮の花のように開いた。
オオ!
小隊の兵卒も見学の将校も混ざって同じ歓声を上げた。
白く開いた花の下で黒い人形が振り子のように揺れながらゆっくりと落ちてくる。白い産毛を生やしたタンポポの種子のように、ゆらゆらと風に揺れながら落ちてくる。小隊は駆け出した。人形の着地地点を目指して滑走路を走った。
小隊が円陣を組んで真上から落ちてくる落下傘を見上げる。将校たちも遅れてやってきてそれを見守る。人形が鈍い音を立てて地面に落ちると、その上に白い布がゆっくりと揺れながら覆いかぶさった。
「おお! これなら十分に着地できるぞ!」
「オオ! 成功だ!」
地上は沸き返った。そして一旦静まると、一人の将校が藤倉博士に話しかけた。
「あまりゆっくり落ちると、下の敵から狙い撃ちされますね」
小隊はその言葉に振り返った。風の笑い声が聞こえる。
「落下速度をもう少し速めなければなりませんな」
「高度を低くするとか」
「飛び出してから落下傘が開くまでの時間も必要ですね」
「風が強い場合、流されて敵のど真ん中に落ちたり、地上では風に流される落下傘に引きずられたりするかもしれませんな。落ちた瞬間敵に捕まるとも限らん」
そうやって一〇〇一実験は落下傘の降下速度や降下高度の研究と実験を重ねた。傘の形や縫い方、畳み方を幾度となく変えてみる。実験を重ねながら、落下傘が開けば開くほど小隊に自信が沸いて来た。
食堂は明るくなってきた。熊沢の笑い声が大きく響いた。
「そうじゃ、飛行機乗りは戦いで撃墜されてから落下傘を開く。わしらは落下傘を開いて降りてから戦いが始まる!」
「よぉし、行けそうじゃないか」
犬飼が拳を握った。
オオョ!
食堂で彼らを見守る兵隊たちも笑って彼らを見守っていた。
つづく
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