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美濃加茂茶舗が目指すのは、日本茶の可能性を拓くブランド|美濃加茂茶舗の店長・伊藤 尚哉さん(後編)
岐阜県美濃加茂市発のクラフト日本茶ブランド、「美濃加茂茶舗」。
標高600mという極限の環境で育つ茶葉は、ほかにはない格別な香りと深い味わいを生みだしてくれます。
今回は、美濃加茂茶舗の店長・伊藤 尚哉さんへのインタビュー後編です。美濃加茂茶舗で実践する環境への取り組みやお茶業界の課題と対策、今後の展望などについて、お話を伺いました。
環境への取り組みと、お茶を使った新たな挑戦
ー美濃加茂茶舗で、環境問題に対する取り組みがあれば教えてください。
伊藤:ストローをプラスチック製から紙製に変えています。また、オンラインショップで出荷される商品は梱包資材を少なくして、テープなどの資材は極力紙製を使うように意識しています。
オンラインショップで商品を注文する際に「簡易包装」を選択すると、梱包資材は紙の緩衝材のみになり、よりゴミが出ないようになります。簡易包装は通常包装より価格が安く、包装方法によって茶葉の品質に問題はないので、簡易包装を選ばれるお客さまはかなり多いです。
それから、2019年夏に、イベントに出すためオリジナルのリユースボトルをつくったところ、非常に好評でした。そのボトルを使う上で、水を注ぎ20~30秒振るだけですぐ飲める、水出し専用のティーバッグもつくりました。
ーティーバッグだと、もっと手軽にお茶を楽しめますね。
伊藤:はい。2020年はボトルにデザインを加えたり、ティーバッグの種類やフレーバーを増やしたりしたいと考えています。
ー素朴な疑問なのですが、味が出なくなるまで使い切った茶葉ってどう活用できますか?
伊藤:煎茶の茶葉なら、菜飯みたいにご飯に混ぜ込んで食べられます。また、使い切った茶葉を乾燥させてパックに入れ、靴箱や冷蔵庫に入れておけば消臭効果も期待できます。
それから、現在「お茶シーシャ」というのを企画しています。東京にいる知り合いが開発してクラウドファンディングをしているのですが、その茶葉に美濃加茂茶舗のものを使っていただけることになったんです。(クラウドファンディングは現在終了。支援総額19,132,000円で達成しました。)
お茶シーシャって、またぜんぜん違った層の人たちとお茶との接点をつくれて、すごく面白いと思うんです。ほかの分野の方と関わることによって、自分にはないまったく新しい発想のものを生み出せると、改めて実感しました。
伝統的なお茶屋さんが「それアリ?」と少し敬遠するようなところまで、美濃加茂茶舗としてはチャレンジしていきたいです。
プレイヤーの減少、市場の縮小……お茶業界の課題に、美濃加茂茶舗はどう立ち向かう?
ー今のお茶業界に対してどのような課題を感じていますか?
伊藤:大きく2つあって、1つはお茶の生産者やお茶を淹れる人など、お茶関連のプレイヤーが少なくなっていることです。
お茶は本当に多様な楽しみ方ができる飲み物です。産地の気象条件や品種、ブレンドの割合、淹れ方、器、さらには生産者のこだわるポイントによっても、味や香りがかなり変わってきます。
そのため、組み合わせは本当に無限大。ペットボトルのお茶はいつ飲んでも同じ味や香りですが、急須で淹れるお茶はいろいろな条件に応じて個性が出るところが面白いです。
しかし、個性の要素となる生産者やお茶を淹れる人が減っているものですから、お茶の楽しみ方が単一になっていき、このままでは面白みが減ってしまうのではないかと危惧しています。
ーどうすればお茶関連のプレイヤーを増やせるのでしょう?
伊藤:たとえばお茶シーシャのような、お茶の新しい引き出しを開拓していくのは1つのやり方だと思います。そうすれば、今までお茶との関わりが薄かった方たちにもアプローチできて、お茶業界全体を盛り上げられることに繋がるのではないでしょうか。
また、コーヒーにはバリスタというポジションが確立されていますが、日本茶にはそのポジションのプレイヤーがまだまだ少ないと感じています。お茶の楽しみの幅を広げるためにも、「淹れ手」となる人が増えることが必要だと考えています。
ーもう1つのお茶業界の課題について教えてください。
伊藤:茶葉の取引価格が低下していることが大きな課題だと思っています。
一番茶というのはその年の最初に採った茶葉のことで、最も栄養が豊富で美味しいお茶です。二番茶以降は、一番茶のあとに新しく生えてくる茶葉のことです。だいたい春先に一番茶が収穫されます。そして、夏から秋にかけて収穫される茶葉は、ペットボトルのお茶に使われることが多いです。
二番茶以降は取引価格自体は低いのですが、ペットボトルのお茶の市場拡大により、需要が高まっています。一方で、一番茶の価格は年々低迷しています。
これのなにが問題かというと、一番茶も二番茶以降のお茶も、肥料を与えるなどといった茶園管理や、収穫から製造の工程はほとんど同じです。そのため、生産コストはさほど変わりません。
つまり、利益率の高い一番茶が売れなくなると、持続可能な生産ができなくなります。
ーその課題に対して、美濃加茂茶舗ではどのような取り組みをしていますか?
伊藤:美濃加茂茶舗では一番茶のみを使用した商品を取り扱っています。良い茶葉をもっと魅力的に伝えることで、価格適正化の手助けに少しでもなれたらと。
とはいえ、1つのブランドだけで日本茶業界全体を変えるのではなく、美濃加茂茶舗が成功事例となり、日本茶業界にいい影響を与えるブランドになれたらと思います。
美濃加茂茶舗が成功事例となり、お茶の世界に入る人を増やしていく
伊藤:こう話すとペットボトルのお茶に否定的なように聞こえてしまったかもしれませんが、僕はペットボトルのお茶に対してむしろありがたいと思っています。
コーヒーに1本100円の缶コーヒーから高価格帯のスペシャリティがあるように、日本茶にも価格の多様性があってもいいはずです。そうして価格に幅があることによって、お茶業界が成立していると思うんです。
ペットボトルのお茶とは逆に、超プレミアムなお茶があってもいいですし、その中間くらいの自分へのちょっとしたご褒美のお茶があってもいい。実際に僕は、ペットボトルのお茶を飲むこともありますし、気分によってちょっといいお茶を飲み、贅沢な気分に浸りたいときは、希少で高品質なお茶を飲みます。つまり、価格に幅があることによって、それだけ楽しみ方も広がるんです。
また、ペットボトルのお茶を飲む文化が根づいているからこそ、急須で淹れるお茶の質の高さが伝わるのかなと思います。比較対象がないと、なかなか良さってわかりませんよね。
ー現在、美濃加茂茶舗がチャレンジしていることを教えてください。
伊藤:ちょっと大きな話になりますが、いま美濃加茂茶舗で取り扱っているような、高品質で産地の個性が感じられるような日本茶を、当たり前のように楽しむことができる世界をつくることにチャレンジしています。
ここ数年で日本茶カフェの数は増えてきたと思いますが、個人的には、まだまだお茶を楽しめる場所が少ないと感じていますし、「非日常的」にお茶を楽しむことはあっても、高品質な日本茶を気軽に日常的に楽しむシーンが少ないと思っています。
たとえば、いま僕が淹れたようなお茶が、毎日手軽に自宅やオフィスで楽しめたらすごく良いと思いませんか……?
実はいま、お茶を淹れ慣れていない方でも、急須で淹れるという方法以外で、手軽に良質なお茶を楽しむことができるプロダクトを開発しています。その商品については、美濃加茂茶舗のSNSなどで近日中にご紹介できると思います!
ー最後に、今後の美濃加茂茶舗の展望について教えてください。
伊藤:美濃加茂茶舗のような、畑違いの人が立ち上げる日本茶ブランドをもっと増やしたいです。ただ、実際にそれをやるのは、今のお茶業界だけだとなかなか難しいと思うんです。ここ数年で他業種からお茶業界へ参入する流れは増えてきていますが、もっと活発になればいいな、と思っています。
そのため、そういうブランドを生みだしやすいお茶業界にしていく1つのブランドとして、美濃加茂茶舗をつくっていきたいです。
ー具体的にどうすれば、美濃加茂茶舗はそのようなブランドになれるのでしょうか。
伊藤:成功事例をつくることではないでしょうか。やはり、成功事例がなく業界として先細りしている今の状況だと、畑違いのところからお茶業界にチャレンジしようとする人は出てこないと思います。
僕みたいなもともとお茶業界に関係ない人間が、美濃加茂茶舗を起点として成功事例をつくることで、もっと新しい人にお茶の世界に入ってきてほしいです。
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お茶業界への課題に対して思うこと、
ペットボトルのお茶は必ずしも悪ではないという考え方、
いろいろな話を通して感じたのは、
伊藤さんがお茶業界を非常に広い視野で見ていることです。
それは、もとは畑違いの人間だからこそなのかもしれません。
伊藤さんの活躍に、今後も注目です。
★取材後の2020年3月、美濃加茂茶舗は株式会社IDENTITYから独立し、新会社『株式会社 茶淹(ちゃえん)』のブランドとして新しいスタートを切りました。元店長の伊藤さんが代表となり、日本茶の可能性を拓くための事業を進めていくそうです。
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▼美濃加茂茶舗 ※現在店舗営業は休業中、オンラインストアは利用可能
HP:https://mchaho.com/
オンラインストア:https://store.mchaho.com/
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インタビュー=久松 成吏
執筆=中原 愛海