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大好きなお菓子づくりで、母親になっても自分の人生を楽しみたい|焼き菓子工房「beco」オーナー 渡辺 祐美子さん・前編
愛知県刈谷市のビルの2階にある、広さ6畳ほどの小さな焼き菓子工房「beco(ベコ)」。
ここでたった1人でお菓子をつくりあげるのは、オーナーの渡辺 祐美子(わたなべ ゆみこ)さんです。
『体にやさしいお菓子を』
そんな想いからつくられるお菓子は、素材からラッピングまで、こだわりがたくさん詰まっています。
体にやさしいお菓子づくりのために、渡辺さんはどのような工夫をしているのでしょうか?
まずは、becoがオープンするまでのストーリーを伺ってみましょう。
趣味のお菓子づくりが、焼き菓子工房になるまで
ーそもそも、お菓子づくりが好きになったきっかけは何だったんですか?
渡辺:小学生の頃、私がつくったお菓子を「おいしい」と喜んでもらえたことです。小さな出来事ですが、自分がつくったもので人に幸せを与えられるってすごいなと感じました。それから独学で勉強してお菓子をつくるようになりました。
ー趣味から始まったお菓子づくりを、仕事にしようと思ったのはなぜでしたか?
渡辺:きっかけは子どもが産まれたことでした。新しく大切にしなければならない存在ができたことで、「じゃあ私個人の人生はどうしようか」と考えるようになったんです。このまま子育てに時間を費やしていくのか?とか、でもパートで働くのもなあ……とか。
考えた結果、「どこかに所属するのではなく自分の手でなにかをやることで、私個人の人生も楽しみたい」と思いました。私が楽しく幸せに感じられることは、やっぱりお菓子づくりだったんですね。それで、お菓子づくりを仕事にできるのか挑戦してみようと思いました。
ーいきなり趣味を仕事にするとなると、経営の仕方などわからないことが多そうですね。
渡辺:実は出産してからは、出産後の女性の社会復帰をお手伝いするボランティア団体に所属していました。その活動の一環で、自宅で子ども向けの英会話教室を開いていたことがあり、ある程度は集客や経営方法を学べました。
また、マルシェに立ち寄って、お菓子作家さんやほかの作家さんに「どうやって活動を始めたんですか?」と質問もしていました。
ー自分で動いて情報収集して、お菓子作家の活動を始めたのですね。
渡辺:最初は「kirary」という名前で活動していました。自宅でお菓子教室を開いたり、たまにイベントに出店したり。kiraryをやりながら、「いつかは自分の工房を持ちたい!」と思うようになりました。
ーどのようにしてbecoのオープンに繋がったのですか?
渡辺:becoが入居しているビル「LAMA APARTMENT」のオーナーさんから誘っていただいたんです。ビルには美容院とカフェ、becoが入っていて、美容院さんがビルのオーナーなんです。私はもともとその美容院にお客さんとして10年ほど通っていて、お菓子作家としての活動を美容院の方も知ってくれていました。
あるとき、「美容院とカフェが一緒になったビルをつくろうと思うんだけど、そこで工房をやりませんか」と急に言われて、本当に驚きました。
ーすごい!どうして誘っていただけたんですか?
渡辺:それがわからないんです(笑)。聞いてみたことがないので……。でも、本当に感謝しています。主婦で子どももいて工房を持つなんて、夢のまた夢だと思っていましたから。
becoというちょっと変わった名前は、渡辺さんの名前「わたなべ(be) ゆみこ(co)」が由来です。LAMA APARTMENTのオープン時、美容院とカフェのオーナーさんと話し合って決めたそうです。美容院がNeco、カフェがLama、そしてbeco。なんだか心地よい響きですね。
素材へのこだわり、お客さまとの接点を大切に
ーbecoとしてはどういう活動をされていますか?
渡辺:普段は1階のカフェで委託販売、それからバースデーケーキや季節で変わる焼き菓子ギフトのオーダーを受けています。イベント出店もしています。
ー工房を持つ方は個人での販売とイベント出店がメインのイメージです。カフェでの委託販売は新しいスタイルですね。
渡辺:たしかにそうですね。カフェ目当てに来るお客さまへの宣伝にもなっていると思うので、ありがたいです。
ー渡辺さんは素材選びなどにこだわっていますよね。なにか理由があるんですか?
渡辺:子どもが生まれてから、人の口に入れるものってすごく大事だなと思ったんです。また、せっかくお客さまに食べてもらうなら、自分がこだわってつくったものがいいという気持ちもありました。
ー具体的にどういうところにこだわっているのか、お聞きしたいです。
渡辺:素材はなるべくオーガニックで、農薬不使用のものを使っています。フルーツなどを洗う水は医療用の電解水にしていて、残った農薬も落とせるようにしています。素材を選ぶときも、できるだけ愛知県産のものや旬のものにしています。
ーそのようにこだわってつくられたbecoのお菓子って、どんな味がするんですか?
渡辺:よくいわれるのは、やさしくて素朴な味。私自身、意識して甘さ控えめになるようにつくっています。多くの人にとって食べやすくて、思わず手が伸びてたくさん食べちゃうようなお菓子になるといいなあと思って。
ーお菓子づくり以外の面でのこだわりはありますか?
渡辺:ラッピングのデザインかな。お店を始めたときにデザイナーに頼んで、beco専用の包装紙やタグ、シールを作成してもらいました。シールは数種類あり、お菓子に合わせて美味しそうに、可愛らしく見えるように使い分けています。
焼き菓子ギフトは季節とともに内容が変わるので、ギフトボックスやそのラッピングも変えます。ギフトボックスは色にも気を使っていて、できるだけグリーンを取り入れています。
becoは工房ですから、カフェでの委託販売やバースデーケーキやギフトの受注販売がメインです。お客さまとは基本的に顔が見えないやり取りになるので、ラッピングは細かいところまでこだわっています。
ーたしかに直接お客さまと関わる機会が少ないから、お客さまとの小さなコミュニケーションツールとして、ラッピングも大事になりそうですね。
渡辺:あとは、お客さまの顔や名前もできるだけ覚えるようにしています。直接受け渡しやイベント出店で2回以上来てくださった方に「いつもありがとうございます」と言うだけでも、印象が変わるような気がするんです。
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母親として家事や育児もやりながら、自分の工房を持つことができた渡辺さん。
忙しくとも、お菓子づくりはいつも丁寧に。
「becoのお菓子は、渡辺さんの想いを感じる」
お客さまのなかには、そう言ってくださる方もいるそうです。
次回は、Renameとbecoの繋がりや、becoの環境にやさしい経営メソッドについてです。おたのしみに。
-【後編:私のお菓子をできるだけ多くの人へ、だけど余らせないために】につづきます。
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▼beco
住所:愛知県刈谷市高倉町2-507 2F
問い合わせ先:bakebeco@gmail.com
営業時間:11:00~17:00 (※日月休み)
HP:http://bakebeco.jugem.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/becogashi/
Instagram:https://www.instagram.com/beco_gashi/
渡辺 祐美子|プロフィール
1981年生まれ、長崎県長崎市出身。2008年より愛知県刈谷市在住。大学は英文科に所属し、卒業後はカナダでのワーキングホリデーを経験する。結婚・出産後は、女性の社会復帰推進を目指すボランティア団体で活動。それをきっかけに、趣味から派生してお菓子作家活動「kirary」をはじめ、2016年には刈谷市で焼き菓子工房「beco」をオープンした。素材にこだわった体にやさしいお菓子は刈谷を中心とした多くの人から愛されている。
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▼Rename meetsについて詳しくはこちらをご覧ください!
撮影・執筆=中原 愛海