読書メモ①川村覚文『声優・キャラライブという例外状態』ユリイカ2016年9月臨時増刊号48(12)
当ノートを作る目的であった2.5次元文化とは何かの忘備録、フィクションの世界をリアルの世界で体験するということについての調べ物のまとめとしての機能をそろそろ本格的に動かしていきたいと思います。
その一里塚として、自分が一番最初にたどり着いた文献を簡単に要約し紹介します。ものののズバリの問いが書いてあって手に取り、ムズすぎていまだに何なんだこれは?ってなっているところもあるのであしからず。
問:この現実世界において声優-キャラ・ライブを経験したいというのは、いったいどういう欲望なのだろうか?
声優-キャラライブ:
2016年9月現在、様々なコンテンツにおいて、アニメ、ゲーム内のキャラの声優が、現実世界でもキャラクターとしてコンサートを行っている。
e.g.ラブライブ、アイドルマスター、けいおん!、ミルキィホームズ
これらの催しを暫定的に声優-キャラライブと定義
(本ノートではさらに略してキャラライブとする。)
上記の欲望は2.5次元へと向かう欲望とパラレルなのでは?
聖地巡礼へと向かう欲望・要点
・アニメやメディアミックスとして展開される作品の世界を、生きてみたいという欲望。
あるいは
・本来フィクションであるはずの世界を、リアルな、現実の世界として経験したいという欲望。
このような欲望は、キャラライブだけでなく聖地巡礼にも当てはまる。
聖地巡礼:アニメのシーンにその元ネタとして現実の風景を特定し、そこへ訪れる行動。
e.g.1けいおん!の京都、滋賀豊郷、ロンドンなど
e.g.2ラブライブ!のニューヨーク、秋葉原など
上記のリンクの如くウェブ化されたデータベースも存在。
こうした聖地巡礼は、
・アニメの世界を生きるということを経験可能にしてくれる。
と同時に
・アニメのキャラクターとともに生きる経験を可能にする。
キャラクターのフィギュアやねんどろいど、ぬいぐるみを帯同している旅行者がいる。彼らはキャラクターとともに生きる空間を自ら構築している。
ぬいぐるみはキャラクターの生を現前させる依り代として機能。
上記のような行動は、旅行者、聖地巡礼者にある種の主体性を見出すことができる。
キャラクターのいる世界に居合わせることで自ら物語を紡いでいる。
『作中には書かれていなかったけどこのキャラはもしかしたらこんなことをしてたかもしれない』と新たな物語を想像し創造する。
雑感
2.5次元文化を語る際に、舞台やキャラライブだけでなく、聖地巡礼・コンテンツツーリズムも2.5次元の範囲として語られることがある。
美術手帖にて2.5次元文化が紹介された際には、従来の舞台に加えて今回のキャラライブ、応援上映などと合わせて聖地巡礼(学術的にはコンテンツツーリズム)が紹介されている。(取り上げられた作品は、花咲くいろは:石川県金沢市である。)
さて、今回ポイントとなる部分としては、
「旅行者、聖地巡礼者にある種の主体性を見出すことができる。」
「キャラクターのいる世界に居合わせることで自ら物語を紡いでいる。」
という点であろう。
キャラがいる世界を体感する、アニメ・ゲームを現実世界で単に追体験し模倣しているというワケではないようである。それだけでは飽き足らず、「そのキャラはいつも通うここでどういったものを食べるのか?」「どういったことをするのだろう?」という物語を主体的に作っていくのである。
さて、先日2.5次元の定義について次のように述べた。
その観点こそ「ファンからの主体性」である。
送り手(声優・パフォーマー)と受け手(観客・ファン)の相互作用の中に2.5次元文化は現れる。(須川2021:22)
受け手であるファンもまた2.5次元文化を生み出してきた担い手である。(田中2024:230)
など、2.5次元文化におけるファンの主体性について触れられており、重要視されていることがわかるであろう。(特に後者の出典は「2.5次元ミュージカルとファン文化」というタイトルであり、ファンの在り方についてがメインテーマである。)
2次元キャラを3次元の現実世界に、ファンが主体的に見出そうとする、その活動こそが2.5次元文化といえるだろう。その一例として聖地巡礼があげられている。
※聖地巡礼を語るうえでラブライブ!サンシャイン!!の沼津は決して外すことはできないが、ユリイカ、美術手帖ともに触れられていない。これはともに2016年発行の雑誌であり、アニメ放送などが本格的に動き出したころであるためである。
キャラライブにおけるオーディエンスの主体性・要点
キャラライブにおいても、生きているキャラクターを目撃し、そこに居合わせたいというファンの欲望≒主体性に支えられている。
キャラのふりをする声優、そのふりに付き合っているファンという単純な構図を超えたものがある。
情動という概念を導入
情動affect:
as a way of talking about that margin of manoeuverability, the where we might be able to go and what we might be able to do in every present situation.(Massumi2015:3)
情動:
ある状況にいる主体が、その状況に影響affectされ、逆に状況に影響を与える存在となる関係性。
伊藤守:半ば主体的、半ば受動的なあり方
西田幾太郎:主客未分なあり方
このような情動のあり方で、「ふり」を超えたリアリティ、演技以上のふるまいを獲得する。
上記の情動の定義に照らし合わせると、
声優の声、パフォーマンス(状況)を浴びたファン(主体)は、パフォーマンスに触発され、声優≒キャラと扱う「ふり」をするまでもなく、声優=キャラと認識し、パフォーマンスを支える主体(状況に影響を与える存在)となってしまう。そういった関係性。
キャラライブにおいて、主体性は以下の通りに現れる。
・ラブライブレードを曲に合わせて変化(snow halationの白→UO)
・コールアンドレスポンス(小泉花陽『ダレカタスケテー』『チョットマッテテー』など)
雑感
最も難解で頭が痛くなってきた。この文章自体10回以上は読んでいるはずだがペンがほとんど入っていないあたり読み飛ばしていただろうことがうかがえる。
情動affectはここでは単に熱い情熱という意味ではなく、哲学の用語として使われている。
しかし、はっきりとした定義がわからないという状況である。
『ギルバートが指摘するように、情動は横断個体的に、個人に先立って個人化を生じさせるものである』(川村2024:93)
あるいは
『現在のいかなる状況であれ、どこに行けるか、何ができるかを操れる余地について語る方法』(上記翻訳:Renais_F)
『情動affectは感情emotionとは異なるもの』
『あなたがaffectされるとき、同時に引き続いてaffectedされる』(Massumi2015:3)
など、特徴は書いているが、肝心のはっきりとした定義は見つけられていない。
上で2.5次元のコアはファンの主体性だと主張し、ファンの中で起こっている心の動きについての説明なので解読をあきらめるわけにもいかないのだが。
キャラライブという例外状態、あるいはその二つの身体・要点
情動に基づく「演技以上のふるまい」は声優側でも生じる。
月刊Cut2016年6月号のμ's特集より
高坂穂乃果役・新田恵海『ステージに立っているときは新田恵海でありながら穂乃果でもある。私と穂乃果が混ざっている感覚がある』
→他者でもあり、自己でもある身体性、自己と他者の境界線の溶解
南ことり役・内田彩『みんなにあの空間(ことりちゃんがいたと思ってもらえる、ラブライブという空間)を作ってもらえた』
→オーディエンスと声優が双方に「半ば主体的に、半ば受動的に」影響affectしあう場であることを示唆。
声優とキャラの間を行ったり来たりできる。キャラとしてのパフォーマンスと声優としてのMCなど素を出す場面を使い分ける。
声優は2つの体を使い分けており、2.5次元舞台や一般のアイドルステージには見られない、キャラライブ特有の特徴である。
雑感
声優のライブだが、キャラを見に行っているのだという感覚を最もわかりやすく言語化するとこうなるだろうといったところか。
アイドルマスターでも同様の言説を確認することができる。じつはこの文章の後ろ、我らが島村卯月役のはっしーの文章なのである。
『実際にパフォーマンスをしているのはわたし』
『観てくださっているみなさんはステージ上のわたしにキャラクターを投影して観ている』(大橋2016:135)
自己と他者の境界の溶解については、
『いまはもう、セリフを読んだら自然と真を演じられるようになっています。真との付き合いも長い(17年)ですからね。』(平田2022:33)
とファミ通にて菊地真=平田宏美が述べている。
こういったような、声優がキャラをどう見ているか、あるいはどう「融合しているか」を自身の担当で探してみるのも面白いであろう。出典はファミ通だが、このほか声優グランプリも漁ってみよう。
日々のライブのMCでも次の曲マダーとダレずにそういった面に注目して聞き耳を立てると担当の理解も深まるかもしれない。
出典
須川亜紀子『2.5次元文化論』(青弓社:2021年1月)
田中東子『二・五次元ミュージカルとファン文化』
須川亜紀子編『2.5次元学入門』(青土社:2024年9月)
Brian Massumi"Politics of Affect"(policy press:Jul.2015)
大橋彩香『インタビュー “笑顔”のアイドル活動』
ユリイカ 48 (12)2016-09青土社
平田宏美『CAST INTERVIEW4』
週刊ファミ通37巻26号(通号1750) 2022年6月30日 KADOKAWA