49.ネロリ
去年の冬、職場の方からクナイプのハンドクリームをいただいた。
オレンジ色の小さなチューブパッケージに青空とくまちゃんがにっこり。
「明日も笑って」の文字につい心がほんわかした、
なんだかもったいなくて、開けるまで時間がかかった
いよいよ乾燥で手が痛くなって、シルバーのキャップを取る時が来た。
豆粒ほどをぷくっと左の手の甲に乗せて温めながら伸ばすと
ふんわりと香る優しい香りに驚いた。
これはなんの匂いだろうとラベルを見ると(ネロリ)と書いてあった。
それまでネロリが一体なんなのか知らなかったけれど
ビターオレンジの花から抽出される香料と知った。
ネロリの白い花を画像検索すると、心地よく背伸びして笑っているように見えた。
可愛らしい見た目そのままに、心がほっと和らぐような香りだ。
開封してから、手の乾燥が気にならなくても
ネロリの香りに包まれたくて使っていたら
あっという間になくなってしまった。
それからは元々持っていたハンドクリームを使っていた。
あれから1年が経ち、今年も冬が来た。
つい先日、西荻窪でライブ出演があった日、
本番までの間にのど飴を買おうとドラックストアに入った。
お目当ての飴を見つけてお会計を終えると出口で小さなくまちゃんと目があった。
その瞬間思わず「あ、ねろり。」と呟いてしまった。
オレンジ色のチューブパッケージと青空とくまちゃん。
あのときの優しさと、香りの記憶とが相まって
鼻の先がじんとした。
私は小さなチューブを2つ
手に取ってもう一度レジに並んだ。